「1つのチームになった、強くなったね」 海外出身初のラグビー日本代表になったあの男が、スコットランド戦について語ったこと

10月14日(月)18時30分 文春オンライン

 ONE TEAM——。「1つのチームに」が、ラグビー日本代表が掲げる目標である。


 10月13日、ラグビーW杯予選プール最終戦。決勝トーナメント初進出をかけた日本とスコットランドとの一戦は、まさにONE TEAMを象徴するゲームとなった。



©AFP/AFLO


 前半21分、負傷した韓国出身の具智元がピッチを去る。ファンの心を打ったのは、彼が流した涙である。与えられた役割を果たし切れなかった悔しさと、日本代表に対する強い愛情を感じさせたのだ。



 その4分後、チームの信頼がつないだトライが生まれる。日本ラグビーを牽引してきた堀江翔太がディフェンスを1人交わし、タックルを受けながらオーストラリア出身のジェームス・ムーアにオフロードパスを放る。ボールは、ムーアを経て、走り込んできたニュージーランド出身のウィリアム・トゥポウへ。ディフェンスを引きつけたトゥポウのラストパスが稲垣啓太に託される。稲垣は、相手タックルをものともせず、インゴールに飛び込んで勝ち越しのトライを決めた。


リザーブメンバーである中島イシレリが喜びを爆発


 印象的だったのが、トライ後のシーンだ。


 リザーブメンバーであるトンガ出身の中島イシレリが、子どもがはしゃぐように、バンザイをしながら飛び上がって喜びを爆発させる。チームメイトを祝福する姿に、ONE TEAMの結束を見た思いがした。



 福岡堅樹と、南アフリカ生まれの松島幸太朗の2人が走り、試合終盤にはスコットランドがくり返す猛攻をニュージーランド出身のリーチマイケル、トンプソンルーク、サモア出身のラファエレティモシー、そして中村亮土らのタックルで耐えしのぐ……。多様なルーツを持つ選手たちが1つになって勝ち取った決勝トーナメント進出だった。


 それまでスコットランドと日本の対戦成績は、1勝10敗。30年ぶりにあげた2つ目の勝利は、1人のパイオニアの言葉を思い出させた。


 海外出身選手として、はじめて日本代表となったトンガ出身のノフォムリ・タウモエフォラウである。



「15人全員が倒れてもすぐに立ち上がって、プレーしている」


「私は、来日してから日本人の真面目さを知りました。ラグビーにも日本人の真面目さが生きている。いまの日本代表の選手は、15人全員が倒れてもすぐに立ち上がってずっとプレーしているイメージ。だから2人がかりでダブルタックルにいっても、ディフェンスに穴が空かないし、サポートが早い。外国人選手も日本代表のラグビーから学んでいるんだと思いますよ。私もそうでしたから」



 ノフォムリがソロバンを学ぶために来日したのは、1980年。日本びいきだったトンガ国王が、ソロバン留学生として白羽の矢を立てた1人がノフォムリだったのだ。しかし若者がソロバンだけではストレスが溜まるだろうから、と大東文化大学で子どものころから慣れ親しんだラグビーを続けた。


 食文化の違いやホームシック、体育会系独特の上下関係に苦しんだ。ときには上級生たちとの衝突を経験しながらも、彼は日本ラグビーに、そして日本の暮らしに順応していった。


 ノフォムリは、1985年のフランス遠征で日本代表に初選出される。彼は、桜のジャージに袖を通した思いをこう振り返っていた。



「日本代表は日本でラグビーをするすべての人の憧れでしょう。この国の人たちが、私を信頼して代表に呼んでくれたんだと感じて、本当にうれしかった。トンガ人がトンガ代表になるのは普通ですが、トンガ人が日本代表のジャージを着るのは特別なことですから。日本のために必死にプレーしようと思いました」



1989年、日本代表がスコットランドに初勝利した立役者


 30年前、日本代表がスコットランドからあげた初金星の立役者の1人がノフォムリだった。


 1989年5月、スコットランド代表を秩父宮ラグビー場に迎えた。ノフォムリは「当時のスコットランドは中心選手が来日していなかったし、暑くて本調子じゃなかったから勝つことができた」と控えめに話すが、日本ラグビー史に残るゲームとなる。


 勝負を決定付けるシーンが訪れたのは後半28分。


 ノフォムリのあとを追って第2期のソロバン留学生として来日したシナリ・ラトゥ(現ラトゥ志南利)が、ディフェンスを破ると、ボールは大八木淳史から堀越正巳、平尾誠二を経て、朽木英次へ。ラストパスを受けたノフォムリが豪快なトライを奪う。


 ラトゥが攻撃の起点となり、日本ラグビーを支えた大八木、堀越、平尾、朽木がつなぎ、ノフォムリが決める。一連のプレーが、いまの日本代表が目指すONE TEAMの原点にも思える。



スコットランド戦をテレビ観戦したノフォムリが語ったこと


 その30年後——。ノフォムリは、スコットランド戦を群馬県にある自宅でテレビ観戦した。来日してもうすぐ40年になる。後輩たちのプレー1つ1つに、様々な思いがよみがえってきたという。


「昔、一緒に戦った仲間たちを思い出しました。平尾さんも洞口(孝治)さんも、もう亡くなってしまったけど……。いまの日本代表は、1つのチームになった。強くなったね。本当にうれしくってね、泣きそうになったよ」


 ラグビー日本代表は、異なるルーツを持つ選手たちとともに戦ってきた歴史を持つ。スコットランドを破り、初の決勝トーナメントへ。ONE TEAMには、過去の選手たちがつないできた思いが、受け継がれているのである。





(山川 徹)

文春オンライン

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