末端は儲からなくなった特殊詐欺 身勝手な理屈は変わらない

10月14日(月)7時0分 NEWSポストセブン

 詐欺で刑務所に入り出所してきた30代男性は、自分がかつて携わっていた詐欺は「金持ちの年寄りを狙っただけ」「お金があるところから、ないところへ動かしただけ」と今も良心の呵責を見せない。しかし、出所後に見た、かつての特殊詐欺の有り様は、まったく別のものに変貌していた。ライターの森鷹久氏が、刑事罰が詐欺の抑止力として十分に働いていない皮肉な状態についてレポートする。


* * *

「お疲れっす。コーヒー頂いていいっすか? あと腹も減ってるんで…なんか食いもんありますかね?」


 開口一番、挨拶もままならぬうちに筆者の前にドカッと腰を下ろす男性。短く刈り込まれ金髪に、白いTシャツとピチピチのダメージジーンズという出で立ちは、某人気歌手グループのメンバーを彷彿とさせる。


「正直、俺のメリットってなんすか? 兄さんのお願いだから仕方ないすけど、結構時間の無駄なんですよね、マジな話」


 東京都在住だというK(三十代)は、筆者がかつて取材をした元暴力団幹部の弟分で、いわゆる「半グレ」メンバーの現役リーダー格。高校卒業後、リフォーム業界で働き、仲間らとともに出会い系サイトを運営する会社を立ち上げた。しかしその会社は「異性紹介事業者」の届出を出していない、会員は全員サクラで利用者から金をむしり取る事だけを目的にした「違法業者」であった。筆者とは年齢が少ししか変わらないが、圧倒的に見た目が若いのは、今も多くの若者たちを使って「仕事」に手を染めているからか。


「リフォームの仕事はほとんど詐欺でしたね。年寄りの話し相手して、リフォームしてもらう。20(万円)で済むところを100(万円)とか200(万円)とる。まあ、そんだけ払える連中からしか取ってないし、向こうも納得してるし、ホワイト詐欺ですよ(笑)」


 あまりに身勝手な言い分に合いた口が塞がらないが、Kはずっとグレー、あるいは完全にブラックな仕事を続けてきた。


「出会い系サイトのサクラだって、欲望まみれのオッサンとかオバチャン騙すだけ。カネは俺らより持ってるでしょうし、ないもんは取れないすから。海外の宝くじが当たったとか、税金の還付金があるってハガキやメール送ったりするヤツもやりましたね。これも結局S(詐欺)だけど、多少カネがあってがめついヤツがかかるんですよ」


 だから心は痛まない、とでも言いたいのだろうか。自分は犯罪行為をやっているが、相手は自分より金持ちで、欲にまみれ、がめつい。だから騙しても良い。そんな理屈だ。派手に犯罪業界を渡り歩いてきたKには、当然「前科」もある。二十代の中頃に、知人から銀行口座を買い受け、反社勢力に横流しし、逮捕されたのだ。


「(刑務所に)入っていたのは2年くらいっすね。横流し以外にもいろいろやってたんすけど、他はバレなかった。正直、通帳売買だけで数百(万円)、他諸々で3000(万円)は稼いでたから、すぐ弟(分)に預けて塀の中。損害賠償だって民事で訴えられたけど、自己破産したんでシカトっすね」


 Kは、仮に犯罪行為をやって捕まっても、その犯罪で稼いだ金が大きければ「メリットがある」と判断する。たとえ2年間、刑務所生活で拘束されても、出所後に貯めておいた金が使えるようになる、つまり三千数百万円分の仕事をしたと思えばいい、ということだ。詐欺による被害の損害賠償請求は、詐欺を犯した本人にしか求めることができず、親族だからといって返済義務は生じない。Kの場合は本人が自己破産したため返済能力なしと判断された。ただし、事実上家族として責任を負って欲しいと求められることはあるものの、被害者は泣き寝入りするしかない。そうした実情を知っているKが続ける。


「2年ぶりに出てきて驚いたのは、(詐欺のターゲットとして)もう年寄りなら誰でもいいや、みたいになってたことっすね。金持ちだけでなく、年寄りはみんな若者よりカネ持ってっから盗っちゃえ、的な。タタキ(強盗)とか殺しとか、俺は考えられないっすけど、今の若い奴ってマジでそう思ってるし、実際そうじゃないっすか。情もクソもないっすよ」


 逮捕されても金さえ稼げていれば割がよい、そして、若者は弱者なのだから金持ちや年寄りからぶん取ってもよい、こうした思考の若者が少なからず存在するからこそ、特殊詐欺が一向に減らないと、詐欺で実刑を受けた元受刑者が主張する。さらに、2年ぶりに出てきた社会では、金持ちの年寄りを狙うのではなく「年寄りなら誰でも」という風に変化していたことに驚いたというから、それほどまでに窮する人々が増えたのかもしれない。

それだけではなかった。


「出し受け(出し子と受け子を)するのがじいさんやばあさんってこともあるでしょ?昔は考えられなかったんすよ、あいつらは騙される側だったんで。金に困ってしゃーなしでやってるんでしょうけど、やっぱりみんな、自分は弱者だから多少盗ってもいいって考えてる。年齢関係ないですよ」


 筆者はこれまでも、特殊詐欺に関わってきた人物への取材で、同じような主張を耳にタコができるほど聞いてきた。この身勝手な主張は、年々、彼らに都合の良いように補強され、新たな若者たちを犯罪に呼び込むための「理由」として使われる。同時に、呼び込まれるのは特別な事情がある若者だけではなくなってきた。特殊詐欺事件の受け子や出し子に、不良グループですらない中高年が手を染める場合も増えている。


 もはや「悪いことはやってはダメだ」という正論は、彼らには通用しないところまで来ており、富めるものと持たざる者の二極化が進む中で、こうした連中がさらに増殖することも容易に想像できよう。


「昔は、中卒とか仕事のない若い奴が、金持ちからカネぶんどって俺らで経済回して…みたいなことを言ってたんですよ。気分は「鼠小僧」でしたよ。でも最近のは違いますよ。マジで生活のためにやってる。出し受けやって一件1万とか3万とか、普通のバイトやったほうがいいじゃんって」


 かつては、末端であってもそれなりに儲かるから特殊詐欺がはびこった。かけ子でも1か月にサラリーマン以上の報酬を手にすることが可能な場合もあり、夢があったと話す。大金を銀行に預けると足がつく、派手に飲み歩いたら目をつけられるからと、詐欺師の先輩に厳しく注意されたほどだ。短期間で貯めた金を元手に別事業を始め、詐欺の世界から去って行く人もいた。しかし気付けば、出し子や受け子の“報酬”は生活苦の限界より先にある、金銭的にも社会的な位置でもすべての面で割に合わない“仕事”になっていた。それでも、詐欺に関わる人はいなくならない。


 犯罪に手を染めたものを捕まえ、刑務所にぶち込むだけでは何も変わらないのかもしれない。若者を、そして貧困に陥る人々をすくい上げるセーフティーネットの拡充に関する議論は、まだ十分とは言えない。経済成長を目指す前に、立ち止まって考えるべきことがないか、今一度現実と向き合う覚悟が必要だろう。

NEWSポストセブン

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