【レビュー】『エノーラ・ホームズの事件簿』は“新世代”ミリー・ボビー・ブラウンからのエンパワーメント

2020年10月15日(木)13時20分 シネマカフェ

Netflix映画『エノーラ・ホームズの事件簿』独占配信中

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「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のイレブン役で世界的にブレイクしたミリー・ボビー・ブラウンが、あの名探偵シャーロック・ホームズの妹を演じるNetflix映画『エノーラ・ホームズの事件簿』が最高に面白い。

ミリーは『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』以来2作目の映画で主演、実姉ペイジ・ブラウンと共にプロデューサーとしてもデビューし、人気小説シリーズを映画化。「ストレンジャー・シングス」では数々の苦難に直面し、顔を歪めながら仲間のためにパワーを使う姿のイメージが強いが、そのイレブンと同一人物とは思えないほど、今作では「赤毛のアン」のように溌剌として機知に富み、勇敢さも持ち合わせた16歳のエノーラ・ホームズを演じている。


物語の舞台となるのは1884年のイギリス。行方不明になった大好きな母を探すため冒険に繰り出すエノーラは、やがて国家の未来を左右する陰謀にも巻き込まれていく。とはいえ、今作は彼女が若き名探偵として元気いっぱいに活躍するだけじゃない。それこそ未来(の女性たち)に向けたメッセージが息づく、エンパワーメント・ムービーとしても必見の作品になっている。


この母にしてこの娘あり!ホームズ家のキャスティングに注目

ミリーの卓越した演技力は広く知られるところだが、今作では「Fleabag フリーバッグ」や「キリング・イヴ/Killing Eve」などのエミー賞受賞監督ハリー・ブラッドビアとタッグ。彼女が演じるエノーラは、フリーバッグと同じく“第四の壁”を破り、心の声をこちらに向かって話しかけてくれる。その頭脳さながらに目まぐるしく変わる表情は実に豊かで、正直で、まるでエノーラの親友になったような気分に。挿絵のような手描きのビジュアルが時折差し込まれることで、彼女を主人公にした小説のページをめくるような高揚感もある。

また、エノーラはヴィクトリア時代のレディのたしなみとも無縁。帽子や手袋は被りたくないし、そもそも持っていない。窮屈なコルセットなんて、探偵稼業でなければ着たくもない。男の子に変装することだっていとわない、当時としてはかなり自由かつ、明快な意志を持った女性だ。


そんなエノーラを育てた母親と有名すぎる兄たちのキャスティングにも触れないわけにはいかない。これまでロバート・ダウニー・Jr.やベネディクト・カンバーバッチ、イアン・マッケランなども演じてきた名探偵シャーロックには、『ジャスティス・リーグ』はじめDC映画のスーパーマンとして知られ、『コードネーム U.N.C.L.E』や『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』で日本でも人気のヘンリー・カヴィル。

温和で物腰柔らかく、妹や女性たちに敬意を払う新しいシャーロック像を築き上げている(なんと、このシャーロック像が著作権侵害に当たるとしてコナン・ドイル財団がNetflixや原作のナンシー・スプリンガーらを訴えているという)。


長兄のマイクロフト役には『世界一キライなあなたに』『あと1センチの恋』などで知られるサム・クラフリン。近年、『チャーリーズ・エンジェル』や『ナイチンゲール』ほか、英国の人気ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」では実在のファシストを演じるなど、悪役にも挑んでいるサムは、気が短く、家父長制の権化のようなマイクロフトを表現。もっとも当時ならば、彼のような考えの男性が大半だったろう。


マイクロフトは大人の女性になるための“教育”が必要と、エノーラを花嫁学校に入れようとするが、母から十分な“教育”を受けてきたと猛反発するエノーラ。フェミニズムの先駆者メアリ・ウルストンクラフトの「女性の権利の擁護」も読んだと得意顔だ。「このままでは夫が見つからない」「夫なんていらない」という兄妹の応酬からも彼女の性格や心持ちがうかがえる。「もう手に負えないよ。シャーロック、何とかしてくれ」と顔に書いてあるマイクロフトと傍観するしかない困り顔のシャーロックも見もの。


そのシャーロックが解決した事件の新聞記事は全てファイルしているというエノーラ。聡明な彼女は、16歳の誕生日に突然姿を消した母はもう戻らないと薄々気づいているが、一体何のために、どこへ消えたのか、その謎を解き明かしたくてたまらないことをシャーロックに指摘される。そうすれば、母にもう一度会えることも…。「真実は目の前にある」「よく見てごらん」と、エノーラの背中を押すのもシャーロックだ。

そして、マイクロフトに言わせれば“粗野”、シャーロックに言わせれば“過激”、でもエノーラにとっては最高の母ユードリア・ホームズを演じるのは『英国王のスピーチ』から『シンデレラ』『ハリー・ポッター』シリーズまで多数の出演作を持つヘレナ・ボナム=カーター。愛娘に刺繍を教える代わりに、読書や科学、さらに護身術をたたき込み、自立心旺盛な女性になるよう育ててきたからこそ “名探偵”エノーラ・ホームズが誕生した。


この豪華な顔ぶれの4人が家族を演じるほか、エノーラが母捜しの途中で出会う、自由を求める若き侯爵テュークスベリーをネクストブレイク間違いなしの新鋭ルイス・パートリッジが好演。フィニッシング・スクール(花嫁学校)のハリソン先生役には、『ハリー・ポッター』シリーズや最近では「キリング・イヴ/Killing Eve」でお馴染みのフィオナ・ショウなど、英国映画・ドラマ好きならニヤニヤしてしまう共演陣も見逃せない。



ヒントは母のリボンにあり!? “1884年”を2020年に描く意味

一体、エノーラたちの母ユードリアはどこへ行ってしまったのだろうか? エノーラが抜群の記憶力と推理力を駆使してたどり着いた場所には、母からの誕生日プレゼントに結ばれていたものと同じ紫色のリボンが…。

このリボンの色、さらに母の部屋でマイクロフトが手に取ったジョン・スチュアート・ミルの著書「女性の解放」などから浮かび上がるのは、今作の謎解きにも大きく関わる歴史の転換点、選挙法改正について。そして、ヘレナも出演していた日本では2017年公開の『未来を花束にして』(原題:Suffragette)という映画のこと。英国では1884年の法改正以降、ますます女性参政権を求める声が高まり、やがて同作で描かれたようにサフラジェットと呼ばれる活動家たちが登場する。紫はそのシンボルカラーの1つで、「尊厳」を現す色だ。


当初は“見捨てられた”という思いのほうが強かったエノーラだが、次第に母の思いが見えてくる。自らの目で物事を見聞きし、想像力を働かせ、勇気を持って事実に対峙し、ときには闘う、そんな母の教えがエノーラの中にも息づいていることが分かる。

エノーラがロンドンのティールームで出会う、母の知人イーディス(スーザン・ウォーコマ)の言葉もとりわけ印象深い。エノーラの後を追ってきたシャーロックに対して、「(女性が)無力である苦しさを知らない」「世の中の変化は見えてる?」と、現代にも十分通じる無自覚な特権意識を突いてシャーロックをタジタジにさせる。


母を探し出す冒険から、思いもかけない形で新しい世界と連帯の形を知ることになるエノーラ。彼女の人生はまだ始まったばかり。この物語の続きもぜひ、観てみたい。

Netflix映画『エノーラ・ホームズの事件簿』は独占配信中。

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