1989年、宿澤ジャパンのスコットランド戦勝利から30年、「ジャパンの強さは本物だ」

10月16日(水)12時3分 文春オンライン

 本物だとは思っていたけれど、ここまで強くなっているとは……。横浜国際総合競技場(日産スタジアム)の応援に馳せ参じた7万近いラグビーファンの1人として、「10.13スコットランド決戦」の勝利に酔い、純粋にそう感じた。


 スコットランド戦勝利の意味は、ことのほか大きい。過去のテストマッチで1勝10敗。あの宿澤広朗が率いた1989年5月28日の秩父宮ラグビー場における28対24の勝利以来、30年ぶりの快挙である。



ラグビーファンがスタジアムを埋め尽くした ©JMPA


 時折勘違いされるムキもいらっしゃるが、テストマッチは練習試合でも親善試合でもない。ラグビーの試合で使われ始めたナショナルチーム同士の真剣勝負を指す。


 そこで宿澤ジャパンが、ラグビーの母国グレートブリテンの一角に勝つという悲願を叶えたのだから、あのときも興奮した。チームの主将がスタンドオフとインサイドセンターを両方こなした平尾誠二、それにロックの林敏之や大八木淳史を加えた神戸製鋼トリオがゲームを引っ張り、まだ早大の学生だった堀越正巳がスクラムハーフとして強豪を翻弄した。



 本場の英国チームにとってアジアに敗れたのは、さぞかしショックだったに違いない。敗れたスコットランド側はあとになって負け惜しみのようなことを言いだした。


「あの試合はレギュラーの大半が欧州遠征に駆り出されていた。国を代表するナショナルチームではなく、“プレジデント15”なので、テストマッチではない」


 悔しいが、30年前の秩父宮決戦では、スコットランドがメンバーを落としていた事実もまた否めない。これ以降、ジャパンはテストマッチでスコットランドやアイルランドに敗れ続けた。そのせいで、スコットランド戦の1勝がテストマッチだったかどうか、日英の論戦は、今もって決着がついていないのである。



 あげく、われわれラグビーファンは95年6月、南アフリカ大会ニュージーランド戦で悪夢に襲われた。W杯史上最悪の17対145。見たくもない光景が、W杯のたびに毎回、嫌になるほど報じられてきた。



30年のときを経て今年、日本開催の2019W杯にこぎ着けた


 かつて国立競技場で7万人の観客を集めた早明戦の熱狂などすっかり忘れ去られ、ラグビーの試合はサッカーに比べてたいていガラ空き。2万人収容できる秩父宮は閑古鳥が鳴き、数少ない馴染みのオールドファン同士が「また会いましたね」と言葉を交わす。東大阪の花園でおこなわれる高校ラグビーも、テレビで全国放送されるのは決勝戦ぐらいだ。もとよりラグビーは世界が熱狂するメジャースポーツだ。が、日本ではラグビーの競技人口が先細りする一方なのである。



 そんな日本ラグビー界の苦境のなか、こうしてスコットランドとの秩父宮決戦から30年のときを経て今年、日本開催の2019W杯にこぎ着けた。ここまで低迷させた日本ラグビー協会への不満もあるが、それよりなにより、よくぞW杯を持ってきてくれた、とつくづく嬉しく思う。


 4年前の2015イングランド大会のとき、南ア戦でジャイアントキリングを成し遂げたエディ・ジョーンズジャパンは誰からも絶賛されるが、その前のジョン・カーワン・ヘッドコーチも強くした。ジャパンが今大会最大の注目チームに成長したのは間違いない。



本気で闘う相手ではないと考えられていたのもたしか


 しかし、本音をいえば、やはりその強さには半信半疑の部分もあった。国際大会はどれもそうだが、今度のW杯を見ても、とりわけ強豪チームは予選プールの試合日程や勝ち点を計算しながら、試合ごとにメンバーを入れ替える。わが予選プールAでは、アイルランドがジャパン戦でスタンドオフの名手ジョニー・セクストンをはじめバックスレギュラーの4人を外してきた。フォワードさえベストメンバーを組めば、ジャパンなど相手にならない、といわんばかりだ。


 その結果はご承知の通り。ジャパンはフォワード戦で互角以上の闘いをしてスクラムでファウルを誘い、バックス陣も躍動して快勝。焦るアイルランドを目のあたりにし、勇敢な桜の戦士たちを誇らしく感じた。だが、反面、ティア1と称される世界のトップクラスにとって、ジャパンがまだまだ本気で闘う相手ではないと考えられていたのもたしかだろう。



 プールA3戦目のサモアにも苦戦を強いられた。アイルランドやスコットランドがサモアに圧勝しているだけに、スコットランドとの大一番を前に、ジャパンの実力はまだまだなのだろうか、と不安にもなる。



10月20日のW杯準々決勝の南ア戦の結果はいかに


 そしてベスト8をかけた運命のスコットランド戦がやって来た。相手はボーナスポイント付きで勝たなければ予選敗退する。そこでスコットランドは4日前のロシア戦で14人のレギュラーメンバーを温存し、休養十分の選手をジャパン戦にぶつけてきた。



 前半3トライをあげたジャパンの21点に対し、スコットランドは1トライのみの7点に抑え込み、後半の開始早々2分過ぎにはさらに快速ウイング福岡堅樹のトライで28点とする。これで28対7。意外にあっさり勝てるかもしれない、と気が抜けかけたすぐあとだ。スコットランドが反撃を開始し、残り20分で7点差の21点まで追い上げられてしまった。


 やはりラグビーの母国は違う。そう唸らせる強豪のスキルとメンタルの強さがひしひしと迫ってくる。おまけに、ジャパンの様子が変だった。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが200日を超える合宿で鍛えに鍛え、これまで後半になればなるほど走り勝ってきた自慢のスタミナが切れかけ、足が止まりかけている……。



 スコットランドの大男にゴール前まで押し込まれ、守り一辺倒。互いに体力の限界を超えた攻防がずっと続く。


 残り4分で相手ボールを奪い、かろうじて7点差を守り切り、フルバックの山中亮平が横に蹴り出す。スタジアム全体が歓喜の叫びに揺れた。


 宿澤ジャパンの勝利から続く因縁のスコットランド戦。4年前のエディジャパンの大敗を僅差でやり返した。それはジャパンの正真正銘の強さを味わった瞬間でもあった。



「やったぁ〜」


 7万の観客が総立ちし、両手を突き上げる。歓喜の言葉はいっさい飾り気がなく素朴だ。


 日本のラグビー界にとって初めて足を踏み入れる10月20日のW杯準々決勝の南ア戦は、奇しくも、宿澤ジャパンで主将を務めた平尾誠二の命日にあたる。



(森 功)

文春オンライン

「スコットランド」をもっと詳しく

「スコットランド」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ