令和に再評価されるべき幻の名作『巨神ゴーグ』に、作家・安彦良和の神髄あり

10月17日(木)17時0分 文春オンライン

 漫画家/アニメーター・安彦良和のファンで『機動戦士ガンダム』(’79年)を知らぬ者はいないだろうが、ひょっとしたら『無敵超人ザンボット3』(’77年)を知らぬ方が世代的に現れてくる頃かもしれない。もう少し時が進めば『勇者ライディーン』(’75年)や『超電磁ロボ コン・バトラーV』(’76年)を観たことのない世代ばかりになろう。『勇者ライディーン』の前身である『0(ゼロ)テスター』(’73年)以来の安彦ファンを自任する者としてはなんとも遺憾だが、時代の波には逆らえない。



巨神ゴーグのDVDボックス。


 せめて後世に、大いなる時の流れに埋もれつつある傑作・秀作の数々を伝えようとキーボードを打っている次第だが、そんな“安彦良和作品”のうち令和元年の今、特に声高にシャウトしたいタイトルが『巨神(ジャイアント)ゴーグ』である。


安彦良和自身の次なる“冒険”だったNEXT『ガンダム』


 この作品は、タイトルにある巨神 = 巨大ロボットであるゴーグが主人公の巨大ロボットアニメだ。つまりザンボット3、ガンダム……と安彦が携わって来た歴代ロボットたちの系譜にあたる。「なんだ、いつもの巨大ロボットと同じ?」。当時初めて本作のタイトルに触れ、メインヴィジュアルを目にした筆者も一瞬そう思った。だがひとつ、それまでとは趣を大いに異にする点があった。ゴーグは人間が操縦しない、自分の意志で活動するロボットなのだ。だが、それまでと違うところはじつはひとつだけではなかった。



 物語の舞台はサモア諸島の東南2000キロに位置する神秘の島・オウストラル。この島の伝説と謎を調査中、多国籍複合企業GAILの放った刺客に暗殺された父・田神博士(声・千葉耕市)の遺志を継ぐべく、その一子・悠宇(声・田中真弓)は島へ向かった。彼に同行するのは、博士の教え子で“オウストラルに取り憑かれた男”ドクター・ウェイブ(声・キートン山田)と妹のドリス(声・雨宮一美)、それにウェイブの友人で何やらわけありな中年男性、通称・船長(声・今西正男)。船長の船で島に上陸した悠宇たち一行をいきなり謎の怪物が襲った。絶体絶命のそのとき、青い巨大ロボットが出現して危機を救った。



 島民から“ゴーグ”と呼ばれ神と崇められるそのロボットは、なぜか悠宇の呼びかけだけに反応し、GAILの追撃部隊の攻撃から悠宇たちを守り、島の地下深くに眠る異星文明の古代遺跡と3万年の眠りから覚めた異星人マノン(声・郡司みつお)の元へと導いて行く——という内容で、この作品が放送された1984年当時としては設定そのものが“異色”だった。


 1984年といえば『機動戦士ガンダム』の映画化と“ガンプラ”の大ヒットによる一大“リアル・ロボットアニメ”ブームが一段落した年。『ガンダム』と同じ富野由悠季監督の『伝説巨神イデオン』(’80年)、『戦闘メカ ザブングル』(’82年)や高橋良輔監督の『太陽の牙ダグラム』(’81年)、ニューウェーブともいうべき『超時空要塞マクロス』(’82年)等々数多くの作品が雨後のタケノコの如く創出された。そんなタイミングで『ゴーグ』は、まるで密林からヌッとその威容を見せるかのように姿を現した。




名作『宝島』のロボットアニメ的翻案作


『ガンダム』の安彦良和が原作・監督・レイアウト・キャラクター及びメイン・メカデザイン・作画監督を手懸けた『ゴーグ』は、安彦の『ガンダム』卒業宣言、そして新境地開拓として新鮮に映った。だがそれは決して新しいものではなく、むしろ“王道”だった。


 ベースはロバート・ルイス・スティーヴンスンの古典的冒険名作『宝島』(1883年刊行)。そこに『少年ケニヤ』(’51〜’55年)に代表される山川惣治的“戦時少年密林冒険譚”要素がプラスされ、それらの当世風(’80年代的)アレンジである事実に視聴者が気づくのはしばらく経ってから。安彦自身も後年、インタビューで「あの頃はちょうど『ガンダム』が一段落したタイミングで、まったく違うものを作りたかったんです。そのときに思いついたのが、僕自身が子供のときにワクワクした『宝島』を、今のシチュエーションで作るならどうなるか? というコンセプトでした」と答え、当時の視聴者・ファンである我々と想いを一にしていたことが分かる。



 だが、物語が進むにつれ『ゴーグ』は別の顔を見せるようになる。先進国首脳への干渉力まで持ったGAILとその軍事部門の暴走等を快く思わない米・CIAとの間に確執が生まれ、さらにレイディ・リンクス(声・高島雅羅)率いるギャング団や島のゲリラ部隊による反乱活動が絡み、事態はついに怒れる異星人と人類との全面戦争にまで発展。


 ここへ来て悠宇がじつは異星人と地球人のハーフの末裔である等衝撃の事実が次々に判明。GAILのオウストラル新支社長、ロッド・バルボア(シャア・アズナブルの池田秀一が熱演!)が元恋人・レイディへの愛に目覚め、異星人との全面戦争を防ぐべく各国首脳に対しミサイル攻撃中止の交渉に奔走——と、各キャラの意外性と濃密な人間ドラマが入り乱れ(そこが安彦作品の魅力でもあるわけだが)、いつの間にか『宝島』的少年冒険譚は姿を消していた。




安彦漫画の原点は『ゴーグ』にあり


 そこに後の『クルドの星』(’85年)や『我が名はネロ』(’98年)などの安彦漫画作品の“源流”を見出すことができる。

『クルドの星』の主人公・真名部ジローは日本人の父親とクルド人の母親との間に生まれたハーフ。ジローの母名義でクルド武装ゲリラのカシムが送った手紙を手に、そうとは知らずトルコのイスタンブールを訪れたジローは、政府軍とクルド人ゲリラの対立に巻き込まれ……というストーリーだが、“ハーフの主人公が謎の手紙に導かれ、未知の土地を来訪。戦争に巻き込まれつつ大冒険する”というプロットは『ゴーグ』のそれと同じ。辺境地クルディスタンへ逃れたジローは秘密の洞窟で、同じ“ジロー”の名を持つ少年と出会うが、まさにそれは悠宇とマノンの出逢いの再現に見えた。



 また『我が名はネロ』の主人公、ローマ帝国第5代皇帝ネロには、ヴィジュアルも含めて『ゴーグ』のロッド・バルボアの面影を見出せる。マザコンのネロに対しファザコン(実際にはグランドファザコン)のロッド。ユダヤ人奴隷・アクテを愛しながら母に猛反対されるネロに対しギャングのレイディとの愛を諦めるロッド。そのロッドは最後にはレイディとの愛を取り戻して生き延びるが、ネロは大いなる歴史と運命に逆らえず、何もかも失い孤独のうちに自害する……その姿は“真実の愛と人生に生きられなかったもうひとりのロッド”像が投影された。『ゴーグ』には漫画家/作家・安彦良和の“源泉”がある。



令和を迎えた今こそ再評価を待つ名作のひとつ


 NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』(’19年)でもカリカチュアライズされて描かれたが、世界的アニメーター・宮崎駿/高畑勲の『太陽の王子 ホルスの大冒険』(’68年)が公開当時は興行成績が振るわなかったように、また宮崎駿脚本・監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(’79年)が、当時“失敗作”と揶揄されたように、『ゴーグ』も『ガンダム』までには至れず約2クール = 26話で幕を閉じ、劇場映画化もされなかった。だが後年、『ホルス』や『カリ城』が世界的に高い評価を受けた如く、今こそ作家・安彦良和の“本質”を知るためのうってつけのテキストとしてこの『巨神ゴーグ』を広く大勢の方々にご覧いただき、語り継いでいただきたい——と、声高に叫びたい。今がそのラストチャンスである。

 なお、劇中で船長がレイディを捕らえた際、胸も露わになるセクシーシーンがあるが、当時はビデオでそのシーンばかり繰り返し再生していた事実をここに告白する次第。そんな安彦作品一流の“サービスシーン”も満載なので、今観ても充分楽しめよう。





(岩佐 陽一)

文春オンライン

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