「来年はもう来たくない」 ファイターズ2015年のドラ1・上原健太投手の覚悟

10月20日(日)11時0分 文春オンライン

 宙ぶらりんだった。CSも日本シリーズも見込みながらファンは自分のスケジュールを立てる。10月はなるべく他の予定が入らないように立ち回る。どのシチュエーションになっても動きやすいように身辺を出来るだけ軽くしておく。なのに。今年のファイターズは9月で試合が全部終わってしまい、私たちの体は宙ぶらりん。


 すっかり時間を持て余した宙ぶらりんたちはラグビーやバスケットやバレーで気持ちを埋めた。あ、よそ様のCSでも埋めた。そして、早く早く早く……と宙ぶらりんたちは宮崎へと気持ちを馳せた。みやざきフェニックスリーグ。10月7日、ついに来たぜ! フェニックス! 待ってました! ファイターズの選手が出る野球の試合!


 ……と毎日の試合の結果を見るだけで、伝えるだけで楽しくて、浮かれたままにフェニックス7日目の日曜日を迎えた。正確に言えば10月14日の月曜日を迎えた。平日はラジオの生放送がある私は当然のことながら宮崎に行くことは出来ず、届くスコアとインターネットと宮崎に見学に行っているリスナーさんから番組に届く情報と、そしてスポーツ紙に大いに助けられている。そのスポーツ紙に、月曜、こんな言葉を見つけた。


「来年はもう来たくない」


 大卒4年目の上原健太投手の言葉だった。



1993年生まれ世代の上原健太


ドラフト1位指名というプライド


 フェニックスはNPB12球団、韓国の3球団、四国アイランドリーグplus選抜が参加して10月の末まで宮崎県内を巡りながら試合が行われる。上原投手は13日(日)の韓国・斗山ベアーズ戦に先発して素晴らしいピッチングだった。4回をパーフェクト、奪った三振は8個でそのうち7個は連続三振。7連続は自分でも覚えがないというほどの出来だった。しかもブルペンでは決して調子がよくなかったというから、マウンドで修正するコツも手に入れているということ。だからなおさら、この言葉になる。「来年はもう来たくない」。強い気持ちが文字から伝わって来た。


 上原投手はファイターズで今一番多い1993年生まれ世代の一人だ。今回のフェニックスではその世代が一番年上になる。フェニックスリーグは秋の教育リーグなので主に若手の選手が出場する。若手であっても1軍で通年活躍したような選手であれば宮崎に来ることは滅多にない。自らの調整に任せられる。


 今回は93年組では、松本選手、井口投手、𠮷田侑樹投手、宇佐見選手が来ているけれど、上原投手には彼だけのプライドがある。ドラフト1位指名。プロに入ってしまえば順位なんて関係ない、という言葉は1位の選手には当て嵌まらない。活躍して当たり前、なかなか思うような仕事が出来なければ、この肩書はもっともっとついて回る。奇しくも前年の1位は広陵高校の1つ上の有原航平投手。ファイターズで1年目から先発ローテーションとして活躍する先輩の姿は、目標でもあり、プレッシャーにもなったと思う。


 190cmの長身、さらに貴重なサウスポー。即戦力として期待され、ルーキーイヤーから1軍のアリゾナキャンプに参加した。明治大学に通う頃は通学途中でモデルにスカウトされたことも何度もあったという彼の姿はアメリカの風景にとてもよく似合った。のびのびと練習を続け、帰国した後は、沖縄・国頭で行われる紅白戦に先発することになった。沖縄出身の彼にとっては紅白戦と言えども初の地元登板になるし、知り合いと見られる方もスタンドに多く見かけた。この紅白戦はその年の戦力を占う上でもとても注目される。ドラフト1位ルーキーは大きな歓声と期待の拍手で迎えられた。しかし、上原投手はここでつまずいてしまう。



2020年の秋の私たちは宙ぶらりんではない


 初の先発、最初に三振をとったものの、その後は連打を浴び初回に打者11人に対して8失点。スタンドから見ていた私からも上原投手の表情が緊張から焦りに変わっていくのがわかったし、スタンドにいたからこそ、その後に当時の吉井コーチがマウンドに行き失意の上原投手をベンチに半ば強制的に連れて帰る姿を俯瞰でしっかりと見ることになった。


 あの年はその後オープン戦で投げることもなく、シーズン終盤に一軍登板が1試合。2年目は先発が6試合あり、初勝利もあげた。そして無傷の4勝をあげた3年目の去年は初の開幕一軍、高校時代を過ごした広島ではホームランも放って自らの勝利に花を添えたり、勝ちは逃したが故郷・沖縄での凱旋登板もあった。すこしずつ階段を上ってきた、でも、今年は1勝止まりだった。そして、フェニックスへ。


「もう来年は来たくない」。この言葉をマスコミに漏らすことに改めての覚悟が感じられる。


 来年は大卒5年目。もう2軍にいる姿や登録と抹消を繰り返されることに、ファンも手放しで「頑張って」とは言えなくなってくるキャリアだ。今年のドラフト1位はサウスポー。社会人ナンバーワン左腕と言われるJFE西日本の河野竜生投手は即戦力として期待される。足踏みは少しだって許されなくなった。


 さ、来年のスケジュールを立てよう。予定だけれど、もう言い切ってしまおう。2020年の秋の私たちは宙ぶらりんではない。ファイターズは優勝し、CSを勝ち進み、きっと日本一になる。シーズン最後に見つめる先の輪の中には……絶対に上原投手の笑顔がある。そして私たちは泣くのだ。今年の分まで思う存分、嬉しい涙を流すのだ。CS、日本シリーズ、涙、全部見込んで、さ、スケジュールを立てよう。鬼のみなさん、どうぞ笑ってください。


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(斉藤 こずゑ)

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