ラグビーW杯ベスト4ならず……日本代表の熱き戦い、なぜ「多文化共生」は成功したのか

10月20日(日)21時48分 文春オンライン

  ラグビー日本代表の熱き戦いが終わった。世界ランキング6位の日本(A組1位)は、同6位の南アフリカ(B組2位)に3−26で敗れ、準々決勝で敗退した。


「ワンチーム」をスローガンに初の決勝トーナメント進出を決め、旋風を巻き起こした1カ月。チームは、16人の日本人選手と6カ国15人の外国出身選手によって構成された。日本代表が“多文化共生”を成功させた秘訣はどこにあるのか——。



南アフリカに敗れた日本代表 ©Getty


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外国出身選手が感じる「日本代表」の誇り


「基本的にラグビーは、民族や国籍を意識しない伝統がある。あらゆる人種の選手が世界中でプレーし、その国の代表になることを望んでいます」


 そう解説するのはラグビージャーナリストの村上晃一氏。外国籍のままの選手でも、〈両親または祖父母のうち1人が日本出身〉、あるいは〈日本に3年以上継続して居住している〉などの条件を満たしていれば、日本代表として試合に出場することが出来る。



 最も多い出身国は、トンガとニュージーランド(NZ)の5人ずつ。


「トンガの選手からすると、世界のどこかのチームでプレーして、さらにその国の代表に選ばれるというのは、すごいサクセスストーリーなのです。1980年代からそういう選手たちが日本代表に入ってきた歴史がある。今の代表にいる外国出身選手の多くは、長く日本で暮らし、学校やクラブチームにそれぞれの仲間やコーチがいて、自分はその代表として選ばれているという意識がある。だから、日本の文化や歴史についてもしっかり勉強するんです」(同前)


チームスローガンは「ワンチーム」


 だが、中には日本生活が浅く、“言葉の壁”にぶちあたる選手もいる。



「チーム内の共通語は日本語です。通訳もいますが、コミュニケーションを円滑にするため、日本通の外国出身選手たちも活躍している。例えばNZ出身のレメキ・ロマノ・ラヴァ(30)はトンガ語、英語、日本語の3カ国語を操れ、性格も陽気でチームの潤滑油的存在。サモア出身のラファエレ・ティモシー(28)も合宿ではリーダーグループの一員となったり、チーム内で通訳のような役割を担うこともある」(チーム関係者)


 またチーム内では、「ワンチーム」というスローガンのもと、様々な仕掛けが施されている。


「合宿所には“カツモト”と呼ばれる赤い甲冑を置いている。映画『ラストサムライ』で渡辺謙が演じた勝元盛次にちなんだもので、外国出身選手たちにも戦いの象徴として受け入れられました。2月の合宿では主将のリーチ・マイケル(31)が『チーム文化、チーム愛が深まるから』と主導して勝利の歌を制作。『カントリー・ロード』の替え歌で『ビクトリー・ロード』と名付けられ、W杯でも控え室で歌われています」(同前)



リーチマイケルによる「君が代」講座も


 歌という点では国歌「君が代」も、チームをひとつにするための大きな役割を担っているという。


「今回のW杯前にはリーチが音頭をとって、『君が代』の歌詞の意味を選手に教える講座が開かれました。さらに7月の宮崎合宿の打ち上げ後、“さざれ石”の見学にも行っています。その後のパシフィック・ネーションズカップでは、国歌斉唱で涙を流す外国出身選手の姿も見られました」(スポーツ紙記者)



 ピーター・ラブスカフニ(30)はW杯直前の壮行試合に際し、歌詞の一部を引いてこう語っている。


「小さな石が大きな岩になる。まさに私たちがやろうとしていること。一つになってゴールに向かっていく」


ミスの原因を掘り下げる文化が少なかった日本


 南アフリカ出身で来日4年目のラブスカフニは日本語がまだ不得意だが、アイルランド戦、サモア戦でリーチに代わってゲームキャプテンを務めるなど、チーム内での信頼も厚い。


「日本代表の練習が休みのとき、わざわざ所属のクボタに戻って、スタッフ一人ひとりに挨拶をしていたそうです。またチームの練習中は邪魔にならないようにずっと外周を走るなど、仲間からも人格者として認められています」(スポーツライター・多羅正崇氏)



 こうした取り組みによって一体となる日本代表だが、前出の村上氏は「今の日本ラグビーを体現しているのは、リーチとトンプソン・ルークです」と語る。


「2人は日本人の勤勉さ、優しさをよく理解しながら、外国人の強さやセオリーを知っている。何より日本代表であることに誇りを持っているのです」(同前)


『国境を越えたスクラム』 (中央公論新社)を執筆したノンフィクションライターの山川徹氏は、リーチについてこう解説する。


「5年前に主将に就任した時、日本人はミスをしても『どんまいどんまい、次がんばろう』と、その原因や失敗の本質を掘り下げる文化が少ないと感じた。逆に出身のNZではそこで深く掘り下げ、ミスの原因を互いに指摘し合い練習する。悪い意味で日本人らしくならず、厳しさとか掘り下げる姿勢を失わないようにしたいと話していた。多文化共生という意味ではとても良い姿勢で、様々なルーツの選手が個性やラグビー観をぶつけ合うことが代表のプラスになっています」



日本に帰化したルーク、恩返しを誓う具智元


 一方のルークは4大会連続でW杯出場を果たした、チーム最年長の38歳。


「2007年大会はNZ国籍での出場でしたが、2010年に日本に帰化しました。『日本との関係は、子どもや家族のライフになっている。だから僕は日本人として戦いたいと思った』と語っています。引退するという噂もありましたが、復帰して日の丸を背負うということは、僕らからはうかがい知れない熱い情熱を持っているはずです」(同前)



 日本への恩返しを胸に戦う選手もいる。韓国出身の具智元(25)はその1人。日本文理大附属高で指導した染矢勝義氏はこう語る。


「ご両親の、いい環境でラグビーをしてほしいという思いもあり、中学3年生の時に来日しました。お父さんは元韓国代表でアジア最強プロップとも言われましたが、W杯に出たことがなかった。ですから智元は『日本代表になってW杯に出る』と語っていました」


 その夢は、U-17の日本代表に招集されたことから現実味を帯びていく。


「韓国代表になるという選択肢はなかったみたいですね。お父さんが『今までお前を育ててくれた日本のラグビーにまずは恩返しすることが一番大事なことなんだ』と言ったそうです。韓国からも智元に『頑張れ』という声がたくさん届いているようです」(同前)


日本から海外へいく選手も



 最近では、日本から海外へいく選手も増えてきている。サモア戦で貴重なトライを挙げた松島幸太朗(26)はその代表例だと言える。


「松島は高卒後、南アに渡り、U-20の候補にも選ばれました。日本に帰国した後も豪州などでプレーをしていますが、そうした選手は今までいなかった。彼はジンバブエや南アにルーツを持ちますが、今後は様々なルーツを持つ日本人が海外で活躍する例も増えるでしょう」(前出・山川氏)


 こうした多種多様な背景を持つ選手を受け入れる土壌を持っているのも、ラグビーという競技の特質だ。


「体格や特徴が異なる選手たちが集まって、それぞれの個性を認め合い、強みとして生かして戦っていく。そうした多様性を持つ宥和的なカルチャーが、他のスポーツよりも根付いているのだと思います」(同前)


 多文化共生の理解へのヒントは、桜のジャージに詰まっている。



(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年10月17日号)

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