NHK朝ドラ『スカーレット』がネグった主人公の本当の来歴! 強制労働の朝鮮人を助けて警察に追われた事実をなかったことに

10月21日(月)16時50分 LITERA

朝ドラ『スカーレット』(番組HPより)

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 9月30日からスタートしたNHK連続テレビ小説『スカーレット』。舞台は戦後間もない頃、焼き物で知られる滋賀県の信楽。戸田恵梨香演じる川原喜美子が、男性ばかりの陶芸の世界へ飛び込み、女性陶芸家となっていく波乱の人生を描くドラマだ。視聴率も好調で、主演の戸田だけでなく、主人公の父親を演じる北村一輝ら脇を固める俳優の演技にも注目が集まっている。


 そんな『スカーレット』だが、ひとつ気になるのが、戦争をめぐる日本の負の歴史をねぐっていることだ。第一話は、昭和22年(1947年)、子ども時代の主人公・喜美子が家族とともに、住み慣れた大阪から滋賀の信楽へ移り住むところから始まる。借金を抱えた父親が借金取りから逃げツテを頼って信楽にたどり着いた、という導入なのだが、信楽にやってきた経緯が、ドラマの“モデル”となった人物のそれとまったく違うのだ。


 いや、単に異なるというだけではない。実は、その“モデル”の人物が信楽にやってきた経緯には、戦中、日本に強制的に動員された朝鮮人労働者を含む徴用工問題や、朝鮮人差別の問題が絡んでいるのだが、なぜか『スカーレット』は、その事実をストーリーから完全にカットしているのである。


 どういうことか。まず、このドラマは、実在する信楽の陶芸家・神山清子氏を参考にしている。神山清子氏は日本における女性陶芸家のパイオニア的存在で、骨髄バンクの設立に尽力したことでも知られる。


 NHKの番組公式サイトでは、わざわざ〈『スカーレット』は、脚本家・水橋文美江さんのオリジナル作品でフィクションです。そのため、登場人物に特定のモデルは存在していません〉と記されているが、NHKのPRサイトでは、番組統括が神山清子氏にインスパイアされて信楽で取材を重ねたと語っているし、「陶芸指導」としてクレジットもされている。ようするに、多くの朝ドラと同じく、実在の人物がモデルなのは明らかなのだ。


 そもそも、神山(旧姓・金場)清子氏は、『スカーレット』の主人公のように大阪出身ではなく、1936年、長崎の佐世保に生まれた。その半生をたどった伝記『母さん 子守歌うたって 寸越窯・いのちの記録』(那須田稔、岸川悦子・著/ひくまの出版)によれば、一家は戦争末期に佐世保から滋賀県の日野へ向かい、敗戦後、信楽にたどり着いたという。同書から引用する。


〈九州の佐世保の炭鉱で働いていた父が、追われるようにして一家を連れてこの滋賀県の日野にやってきたのは、もうすぐ戦争が終わるという一九四四年の九月のことだった。
 その頃、九州の炭鉱には朝鮮から強制的に連れられて来ていた人々が大勢働かされていた。
 明治の末、日韓併合政策をおしすすめた日本は、長い間、朝鮮を領土として、朝鮮半島の人々を無理やり日本人にして、言葉も奪い、氏名までも日本風のものに変えさせた。
 そんな朝鮮の人々を、父はかばったり仲良く付き合ったりしていた。〉


 実際、戦前・戦中の日本は、植民地化した朝鮮半島から人々を連れてきて、各地の炭鉱や工場などの劣悪な環境下で労働を強いていた。2015年、安倍首相の肝いりでユネスコの世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」に含まれている端島(通称、軍艦島)など、長崎県でも多数の朝鮮人が強制労働をさせられていたことは広く知られている。


●神山清子の父は炭鉱で働かされた朝鮮人の脱走を手助けしたとして警察に追われ信楽に


 神山清子氏の父は、そうした朝鮮人の人々をかばうなどしていたようだが、それが逆に、一家が佐世保から出ざるを得ない原因になってしまった。


〈清子の姓は、金場といった。朝鮮の人と似ている姓だったせいか、学校で「やーい、朝鮮!」と言ってからわれたり、いじめられたりした。
「どうして、私、日本人なのにいじめられるの?」
と、何度もなずねる清子に、父はこう答えた。
「いじめられたら、言い返してやれ。朝鮮人だろうが、日本人だろうが、人間にかわりはないとな」
 その後、厳しい労働に耐え切れなかった朝鮮の人が、炭鉱を脱走しようとしたのを手助けしたといって、警察に追われた父は、一家を連れて炭鉱の町から逃げ出したのだった。
 行く先々で清子たちをかくまってくれたのは、朝鮮の人たちだった。〉(『母さん 子守歌うたって』)


 朝鮮人への差別を物語るエピソードだ。実際、国内の各地炭鉱などで苛烈な労働と悪環境、差別や暴力に耐えられなくなった朝鮮人労働者が、脱走したり抵抗を試みたという記録は、公的文書によるものも含めて残っている。


 また、長崎関連の記録を紐解いてみると、一家がいたという佐世保でも、池野炭鉱、中里炭鉱、相ノ浦炭鉱 、柚木炭鉱など複数炭鉱で、朝鮮から連れてこられた人々が働かされていたことがわかる(竹内康人・編著『戦時朝鮮人強制労働調査資料集 増補改訂版』神戸学生青年センター)。


 証言も残っている。たとえば、当時、日鉄鉱業池野炭鉱の炭鉱婦だった女性によると、1944年ごろには、働いていたのは朝鮮人ばかりになっていたという。女性は、朝鮮人たちが置かれた環境をこのように振り返っている。


〈炭坑労働者の朝鮮人は、「半島」「半島人」と呼ばれ、それはもうとてもかわいそうでした。今思い出しても、涙が出ます。一番あわれなのは、食べ物がないことです。小さい粗末な木の箱の弁当箱の中身に米はない。シャギ麦というか、つぶし麦ばかりで、おかずはタクアン五、六きれだけです。〉
〈食べ物がなくて、腐ったみかんを拾って食べている朝鮮人を、憲兵がひどくなぐっているのを見たことがあります。どんなに体の具合が悪くても、休ませなかった。あるとき、四〇過ぎの朝鮮人労務者が、とても疲労がはげしくて「少し、上がらせてくれ」とたのんだが、聞き入られなかったので、風洞の中へ入った。それを見つけて引っぱられたが、一晩で顔の形相が一変してしまいました。それははげしいリンチを受けたからだと思います。〉(『原爆と朝鮮人 長崎県朝鮮人強制連行、強制労働実態報告書 第5集』長崎在日朝鮮人の人権を守る会)


●朝鮮人の炭鉱での苛烈な労働環境をめぐる数々の証言「朝鮮人の一人や二人死んだって…」


 さらに池野炭鉱では、新しく連れてこられた朝鮮人は未熟な技術のまま危険な作業をさせられていたという。元炭鉱婦の証言によれば、重い箱を頭から被って、17、8歳くらいの朝鮮人の新人が即死した事件もあった。


〈入坑して二週間目ぐらいの子でした。そのとき、上の人たちは、「朝鮮人の一人や二人死んだって、筆で書けば事はすむ。日本人(報国隊)だったら、指先一つ切ってもうるさいが……」といっていました。死んだその子の顔は、今でも覚えています。本当に朝鮮人は無理無体でした。みんな一生懸命に働いていたのに。〉(同上)


 ネット右翼たちは「朝鮮人は日本人と同じ待遇だった」などと嘯き、安倍政権は徴用工問題をまるで“韓国の言いがかり”かのように触れ回っているが、朝鮮人労働者は過酷かつ差別的な環境で無理やり働かされていた。背景にあるのは、日本が朝鮮を植民地にしたという優越意識と民族差別だ。それは、神山清子氏の父が“朝鮮人の脱走の手助けをした”なる言いがかりをつけられて警察から追われたことや、神山清子氏自身が苗字に「金」という字が入っていたというだけでいじめられたことからもわかる。


 ところが、『スカーレット』では一家が滋賀へ追われるまでの経緯や、主人公のモデルが「朝鮮人!」と呼ばれていじめられたことは、一切、物語に反映されていない。こうしたエピソードを描いていれば父親のキャラクターもより深みのあるものとなっただろう。何より、徴用工問題で歴史修正主義やネトウヨ的な“嫌韓言説”がはびこるなかにあって、史実や当時の社会状況を伝え残すという意味でも、こうしたエピソードがしっかり脚本に反映されていれば……と残念でならない。


 だが、こうした朝鮮人関連の話がカットされたのは、脚本を担当している水橋文美江氏の考えとは言い切れない。むしろNHK自体が、安倍政権から睨まれることや、ネトウヨによる“電凸”を恐れて、徴用工問題を彷彿とさせる話を“タブー化”してしまった可能性のほうが高いだろう。


 実際、NHKの朝ドラをめぐっては、2018年下期の『まんぷく』でも、同じようなことがあった。日清食品創業者の安藤百福と妻・仁子をモデルにしたドラマだが、なんと、安藤百福が台湾出身というルーツの部分が改変されており、これはNHKが日本のアジア侵略という歴史に触れることを避けた結果ではないか、と取り沙汰された。また、作中で主人公が憲兵から執拗な拷問を受けるシーンが放送されると、ネット右翼からの「日本人を貶めている」「反日ドラマだ」「NHKを潰そう」なるクレーム攻撃によって炎上させられたのも記憶に新しい。


 そうしたことを踏まえると、『スカーレット』から朝鮮人関連の話が完全に削られたのも、やはり、NHKの“過剰防衛”が原因ではないかと思えてならないのだ。いずれにしても、ここ数年のドラマでは、日本の負の歴史をネグったり、矮小化してしまう傾向がたびたび見られる。『スカーレット』は、女性が陶芸の世界を通じて“男権主義社会”に挑む物語であるはずだが、同じくらい、戦中・戦後日本の人権侵害にも正面から向き合うべきではないのか。
(編集部)




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