スワローズのヤンチャ者・上田剛史インタビューをもう一度

10月22日(月)11時5分 文春オンライン

 先日、上田剛史が9月、10月度の「スカパー! サヨナラ賞」を受賞した。9月4日、神宮球場での対中日ドラゴンズ戦。9回裏に6点差を追いつき、同点のまま迎えた延長11回裏、二死からサヨナラ3ランホームランを放ったことを評価されての受賞だった。台風一過のこの日、強烈な暴風雨の影響を受けてスタンドはガラガラだった。空席の目立つ神宮の観客席でこのシーンを見て、僕は歓喜した。観衆はわずか1万4000人程度ではあったけど、球場が大「上田コール」に包まれたことは、記憶に新しい。この受賞の知らせを聞いたとき、僕は思った。


(よし、いまこのタイミングしかない……)


 そう、今こそ上田剛史について書こう! 文春野球での登板も残り少なくなった今、満を持して上田のことを書こう。僕はそう決めたのだった。実は、上田に対してはずっと心苦しい思いを抱いていた。というのも、昨年出版した拙著『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)において、僕は上田にインタビューをしている。取材テーマは、上田を物語の中心に据えて、明るいヤクルトを象徴する「ヤンチャ者の系譜」を書こうと思っていたのだ。


 しかし、この本では実に多くの現役選手、OBたちにインタビューをしたことで、500ページに近い分量になりそうだった。そのため、どうしても「どれかを削らなければならない」ということで、この章を削除し、せっかくの上田のインタビューを丸々カットしてしまったのだ。以来ずっと、上田の姿を見るたびに僕の胸はチクリと痛んだ。だからこそ、今こそこのタイミングで、あのときお蔵入りした上田インタビューをご紹介したいのである。


 先に記したように、取材テーマは「ヤンチャ者」だった。だから、彼に聞いたのは、ヤクルトファンなら誰もが知っている「知人男性ネタ」、あるいは頻繁に更新される「インスタネタ」、ハワイで購入したセグウェイを税関で没収されたにもかかわらず、改めて日本で再購入するほどこだわった「セグウェイ」について。そして、若手時代にミーティングがあることを知らずに「遅刻」して、当時の小川淳司監督から罰金50万円を食らったものの、実は内緒で返してもらっていたエピソード……。つまり、王道、正統派とはまったく異なるインタビューを敢行したのだ。以下、その顛末のごく一部をご披露したい。



「知人男性」「セグウェイ没収」など、数々の“ヤンチャ”エピソードを持つ上田剛史


「知人男性」はおいしいネタだった


 最初に聞いたのは「SNSネタ」だった。最近でも上田は、話題の「TikTok」をいち早く取り入れ、奥村展征や塩見泰隆のダンス動画をアップしている。


——上田さんと言えば、インスタの更新がすごく頻繁ですよね。これはファンサービスを意識しているんですか?


上田 多少はありますね。最初は軽いノリでやっていたんですけど、今となってはフォロワー数も増えてますんでね。(15年の)優勝以降、一気に増えましたね。あとは例の「知人男性」、アレも結構大きいと思いますね。ファンの人から、「更新待ってます」ってよく言われるので、なるべく間をあけずに、意識して更新しようかなって思っています。


 実にありがたい。自ら「知人男性ネタ」を振ってくれた。ご存じない方のために簡単に説明すると、山田哲人や上田たちが、女性陣とレストランに入る姿を「合コンだ!」と『FRIDAY』誌にスクープされた。しかし、それは球団関係者たちとの単なる会食でしかない、たわいもない写真だった。山田の隣には上田も写っていたのだが、なぜか誌面には「上田剛史」の名前はなく、顔に目線をつけられた上で、「知人男性」と書かれていたのだ。その点について尋ねてみた。


——『FRIDAY』で「知人男性」と書かれたことについてはどんな気持ちなんですか?


上田 別にショックではなかったですね。まぁ、「笑いに変えればいいや」という感じです(笑)。だから(15年の)優勝のときにも、「知人男性」というタスキをかけてビールかけをしたんです。それもあって、ファンの人にも「知人男性」っていうフレーズがインパクトに残って、逆によかったと思ってますね。


——目線を施された「知人男性」ピンバッジが、公式に作られもしたし、ショックというよりは、逆に「おいしい」という感じなんですか?


上田 そうですね。選手たちも、僕の近くに来て指で目を隠して、「知人男性」って言いながら、いじってきたりしますからね。球場でも、ファンの人に「知人男性!」って声かけられたりもするし、いいネタというか「おいしいな」って思います。でも、もういいんじゃないですかね。僕ももう、「そろそろしつこい」って思い始めています(笑)。


 このインタビューは、16年のオープン戦の試合後に神宮球場で行われたのだが、僕はまったく野球とは関係のない質問ばかりする心苦しさを覚えていた。それでも上田は、どんなくだらない質問にも淡々と受け答えをしてくれていた。ナイスガイだ。



「問題児だから、やっぱり気になる」と小川さんは言った


 次に尋ねたのが「セグウェイネタ」だった。まずは、その経緯を自ら説明してもらおう。


上田 ハワイでセグウェイを買ったんです。だけど、税関でそのまま没収されました。でも、沖縄でまた売ってたので買い直しました。


 報道によれば、一台500ドル(約6万円)で購入したものの、ハワイの空港で没収されて日本に持ち帰ることはできなかったという。このとき上田は、「トリプルスリーのお祝い」と称して、山田哲人の分も購入したのだという。僕は、素朴な疑問をぶつける。


——どうして、そこまでセグウェイにこだわるんですか?


上田 最初はハワイで見て、「あれ見たことあるな。オレも乗りたいな」って思って乗ったら、めっちゃおもろかったんです。で、その余韻がすごく強かったし、空港で没収されたら、ますます欲しくなって。だから、沖縄で買って、東京まで船便で持ってきました。チームで持っているのは僕と、バレンティンだけです。


 その瞬間、少しだけ誇らしそうな表情になったことを僕は見逃さなかった。ということは、山田は没収されたままで、再びプレゼントはしなかったのだろうか?


——セグウェイをプレゼントしたり、インスタを見ていても山田選手とめちゃくちゃ仲がいいですよね。後輩との距離感って、どのように意識しているんですか?


上田 そこまで、「先輩・後輩」という壁を作りたくないなって思っていますね。それがいいことなのかどうかは、僕にはわからないけど、僕は下から堅く接してもらうのが好きじゃないんで……。冗談も言える関係がいいチームになる一つの要因じゃないのかなって思いますね。


 そして、いよいよ「罰金50万円騒動」に話が及ぶ。


——ぜひ、小川さんについて伺いたいのですが、上田さんが入団したときのファームの監督が小川さんでしたね。


上田 野球に取り組む姿勢を最初に学んだのは小川さんでした。ずっとガマンして使ってもらっていたので、後に僕が一軍でプレーするための経験を積ませてもらいました。5年目(11年)はずっとファームだったんですけど、シーズン中盤に一軍に呼ばれて、そこからずっと使ってもらって、クライマックスシリーズまで出させてもらいました。でも、小川さんにはかなり迷惑をかけましたね……。


——「迷惑」というのは、例の罰金騒動のことですよね?


上田 そうです(笑)。あれは報道されている通りですね。せっかくずっと使ってもらっているのにミーティングに遅刻して……。いや、遅刻というか、本当に知らされていなかったんですけど、「遅刻」という形になって。僕自身も、「これで試合に出れないな」って思ったのに、その後も使ってくれて……。そのときは罰金を渡しましたけど、僕のことを考えて後で、コッソリ返してもらいました。


 この時点で僕は、すでに小川さんに「罰金騒動」のことを聞いていた。小川さんは「つい、《罰金50万円》って言ってしまったんだけど、当時のあいつにそんな金があるわけがないんで、“どうせマネージャーから借りるんだろう”と思っていました。だから、そのままマネージャーに返せばいいと思っていたんだけど、マネージャーに借りずに自分で工面したので驚いた」と語っていたことを思い出す。


 この後も、上田は小川さんに対する感謝の言葉を続けた。一方、当時SD(シニアディレクター)だった小川さんも、上田に対してこんな言葉を残している。


「僕の立場でこんなことを言っちゃいけないんだけど、上田とか畠山(和洋)とか、問題児はやっぱり気になりますよ。川端(慎吾)みたいな優等生タイプなら、何も心配ないんだけどね(笑)」


 このインタビューから2年を経た今、小川さんはSDから監督に復帰し、上田はプロ12年目のシーズンを終えた。ファン感でピコ太郎に扮したこともあった。あるいは、試合中にミスやエラーがあると、たとえ上田は無関係であっても、「何があった! また上田か!」と言いながら、慌てて外に飛び出す男の画像が、一つの様式美であるかのようにネット上に頻出する。小川監督の言葉を借りれば、多くの人にとっても、「問題児だから気になる」し、ついイジりたくなる存在なのだろう。


 ファンにとっても、実に愛すべき存在である上田剛史。来季はプロ13年目。甲子園で斎藤佑樹からホームランを放ったあの日の輝きを、ぜひプロの世界でももう一度。上田ならできる、まだまだ伸びる。来年こそ、いい意味で言いたい。「何があった! また上田か!」と。……ようやく上田の原稿が書けた。少しだけ胸のつかえがとれた気がする(笑)。


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(長谷川 晶一)

文春オンライン

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