DIR EN GREYの最新シングルはものすごいことになっていた——近田春夫の考えるヒット

10月22日(火)17時0分 文春オンライン

『The World of Mercy』(DIR EN GREY)/『Beyond the epilogue』(locofrank)




絵=安斎 肇


 DIR EN GREYの最新シングル『The World of Mercy』には久々、「なんかよくわかんないけどものすごいことになってるなぁ」という気にさせられた。ついに“ビジュアル系的芸術の極致”というものに到達してしまったかと思えたほどだ。


 そういえばもうバンド名の字面からして相当な“美學”を孕んでいるではないか! 前々から何と読むのか、そしてその意味とは? ずーっとひっかかっていた私ゆえ、ここぞ良い機会! とばかり調べてみたりもした(ネットに普通に出てますんで気になる人はチェックしてみてくださいませ)のであるが……。


 ま、とりあえず閑話休題。


 さて、ものすごいことになってると申し上げたその状況は、一般に動画(プロモーション用)でも楽しめます。是非確認していただければ、私が決してオーバーなことなんぞいっている訳ではないことは、きっとわかってもらえるだろうと信じるが、一応一体どのような曲なのかは職務上説明しておかねばね!(笑)



『The World of Mercy』はハリウッドSFのサウンドトラックに用いられるようなSE的なシンセと、テンポ/音色のせいかどこか木魚を彷彿させるキックのビートで始まる。その歌い出しのあたりがまたそれにふさわしくお経っぽい(笑)。たしかに和風とはいいつつ、歌謡曲や演歌の文脈にはない発声ぶりはなかなかに異形/独特といえる。俗に“銀のある”と形容される、この渋い低音で一体何が歌われているのだろうか? 



The World of Mercy/DIR EN GREY(Fire Wall Division)作曲:DIR EN GREY 作詞:京。前作から1年5か月ぶり。


♪ 誰が知る? 本当の私 本当の心/誰が見る?


 の後が、ちょっと聞き取りにくかったので歌詞カードを紐解くと“抉れた”とある。コレ諸賢は何と読まれます? 私にはわかりませんでした。更にはそれに続く漢字がまた一層難しく、しかもここが一段と聞き取りづらい……我ながら学問の無さ、耳の悪さをつくづく呪った次第であるが、そうした愚痴はさておき、述べた景が一段落すると、たちまちボーカルは一気にハイトーンと化し、それがひとしきり終わるとまた例の“お経”が控えていた。大まかにいえばそんな構成の繰り返しだ。


 歌詞に関しては、文学的なレトリックと新聞の社会面の記事のような実務的手法が混在していたり、二人称の設定に視点の揺れが見出せるなど、個人的嗜好に於いてアラを探せばキリはないが、そうした——誤解覚悟でいうなら——アカデミックな整合性などものともせぬ、怖いもの知らずな言語感覚と、冒頭にも述べた“ものすごいことになってる”という印象とは、決して無関係なものではない。


 とにかく、DIR EN GREYの新譜に何より強く実感するのは、映像を含め隅から隅まで、他を自らと比較せぬ、あるいは意識せぬ迷いのなさだ。我が国に於いて彼らは稀にみる“実存的”な表現者たちなのではないかと、私は思った。



Beyond the epilogue/locofrank(IKKI NOT DEAD)1998年結成、大阪を拠点としてきたバンド。本曲で2枚目のシングル。


 locofrank。


 そういった視点から語れば、やっぱ強さには欠けるよね。





ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト〜世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。




(近田 春夫/週刊文春 2019年10月10日号)

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