パワフルかつシンプルなサウンドで絶大な支持を集めたグランド・ファンク・レイルロードの『グランド・ファンク』

2021年10月22日(金)18時0分 OKMusic

(OKMusic)

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グランド・ファンク・レイルロード(以下、GFR)と言えば「ハート・ブレイカー」「孤独の叫び(原題:Inside Looking Out)」「ロコ・モーション」「アメリカン・バンド」など、多くの大ヒット曲を生んだアメリカを代表するハードロックグループである。何度かの解散・再結成を繰り返しながら現在も活動を続けているものの、現在の日本では年配のリスナーを除いてはすっかり忘れられているというのが実状ではないだろうか。今回取り上げるのは代表曲「孤独の叫び」を収録したGFRの2ndアルバムとなる『グランド・ファンク』(’69)で、コロナ禍で家にいることが増えフラストレーションがたまっている今だからこそ、彼らのパワフルな音楽を浴びるように聴き、明日への活力にしたいものである。

シングル盤になった 長尺曲の「孤独の叫び」

GFRの3rdアルバムとなる2枚組の『ライヴ・アルバム』は、大阪万博が行なわれた1970年にリリースされた。このアルバムは日本の多くのロック少年たちを夢中にしたが、その熱が冷めずにいた翌年に初の来日公演を果たす。まさに絶好のタイミングでの来日となったのであるが、後楽園球場でのコンサートは嵐の中で決行されたこともあって、GFRは伝説のロックグループとなった。

特に当時のライヴで人気があったのは幕開きの「アー・ユー・レディ?」と「ハート・ブレイカー」「孤独の叫び」で、彼らの来日公演後には「孤独の叫び」のスタジオバージョンがシングルカットされることになる。ところが、この曲は9分半もあったために、レコード会社はシングル盤であるにもかかわらず33回転(通常のシングルEP盤は45回転)でのリリースという異例の対応をしている。要するに、曲を編集することなくフルバージョンで発売したのである。当時、長尺曲をシングル盤でリリースする際には、編集して短くするか、半分ずつをAB面に分けて収録するという方法が主流であったように記憶している。しかし、「孤独の叫び」に関しては、それらの方法では曲の魅力を半減してしまうということから33回転策が取られたのだ。

オリジナルではない「孤独の叫び」

GFRはカバー曲は少ないのだが、「ロコ・モーション」(リトル・エヴァ)、「フィーリン・オールライト」(デイブ・メイソン)、「ギミ・シェルター」(ローリング・ストーンズ)など、素材を巧みにアレンジするのが得意なグループだ。代表曲の「孤独の叫び」が彼らのオリジナル曲だと思っている人は多いかもしれないが、実はこの曲もアニマルズの大ヒット曲のカバーである。アニマルズのオリジナルは66年に世界的なヒットとなっていて、この時の日本盤タイトルはすでに「孤独の叫び」であった。

アニマルズの「孤独の叫び」も、実はアラン・ローマックス(フィールド・レコーディングの大家)が黒人の刑務所で収録した曲を集めたコンピレーション『ニグロ・プリズン・ソングス』(’58)所収のワークソング「ロージー」を、エリック・バードンとチャス・チャンドラーがアレンジしたもので、GFRのバージョンはカバーのカバーと言えるかもしれない。アニマルズの「孤独の叫び」もパワフルですごい演奏なのだが、GFRの演奏はアニマルズを上回っていると僕は思う。

GFRというグループ

話は前後するが、知らない人のためにGFRについて軽く触れておく。GFRはクリーム等に代表されるブリティッシュロックに影響され、当時アメリカではまだ少なかったハードロックグループとして、マーク・ファーナー(Gu)、メル・サッチャー(Ba)、ドン・ブリューワー(Dr)の3人で69年に結成された。

デビューは『アトランタ・ポップ・フェス』(69年7月開催、参加者12万人)の出演で、同年10月にはツェッペリンのアメリカツアーの前座に抜擢され、ハードでキレの良いサウンドは観客を魅了し彼らの名は全米に知れ渡る。同年11月には早くも、「ハート・ブレイカー」を収めたデビューアルバム『グランド・ファンク・レイルロード登場(原題:On Time)』をリリース、新人でありながら全米チャート27位を獲得すると、翌年にはこの作品がゴールドディスクに認定されるなど、華々しいデビューを飾っている。

デビューコンサートからアルバムリリースまで数カ月ということを考えると、このあたりのタイムスケジュールはプロデューサーのテリー・ナイトの仕掛けによるものだろうが、どちらにしても彼らのシンプルかつパワフルな音楽が時代にマッチしていたことは間違いないだろう。そのサウンドはマウンテンと並び後のアメリカンハードロックの原型となるもので、湿度の高いブリティッシュハードロックとはまったく違うものだ。カラッと乾いたシンプルな音作りで、ポップなメロディーと覚えやすいリフが印象的なスタイルだと言えよう。

GFRは69年のデビューから71年までがテリー・ナイトによるプロデュースで、この時期にはスタジオアルバム5枚と2枚組ライヴ盤を1枚リリースし、その間大きなツアーもこなしているのだから、とんでもない創作欲であったことがわかる。

本作『グランド・ファンク』について

そして、69年12月にリリース(日本盤は70年リリース)されたのが2ndアルバムとなる本作『グランド・ファンク(原題:Grand Funk)』で、デビューアルバムのリリースから4カ月しか経っていない。

収録曲は全部で8曲、うち6曲がマーク・ファーナーのオリジナルである。アルバムは、ファーナーの伸びやかなヴォーカルとメル・サッチャー(当時19歳!)の跳ね回るベースが印象的な「ゴット・ジス・シング・オン・ザ・ムーブ」でスタート、ファーナーによる津軽三味線のようなギターが聴ける「イン・ニード」、代表曲のひとつでライヴ映えする「ミスター・リムジン・ドライバー」、サザンロック・テイストのある「ウィンター・アンド・マイ・ソウル」などの佳曲が配置されている。最後に登場する当時のロック少年たちが狂喜した「孤独の叫び」では、渾身の名演が9分半にわたって味わえるのである。

本作はロックという音楽が思春期の頃にリリースされており、演奏技術や録音機材は完全ではないが、GFRのエネルギーやパッションはそんなマイナス面を完全に吹き飛ばしており、最高の仕上がりとなっている。まだ彼らの音楽を体験したことがないなら、この機会にぜひ聴いてみてほしい。きっと新しい発見があると思う♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Grand Funk』

1969年発表作品

<収録曲>
1. ゴット・ディス・シング・オン・ザ・ムーヴ/Got This Thing on the Move
2. プリーズ・ドント・ウォーリー/Please Don't Worry
3. ハイ・ファルーティン・ウーマン/High Falootin' Woman
4. ミスター・リムジン・ドライバー/Mr. Limousine Driver
5. イン・ニード/In Need
6. ウインター・アンド・マイ・ソウル/Winter and My Soul
7. パラノイド/Paranoid
8. 孤独の叫び/Inside Looking Out

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