宝田明「戦争は絶対拒否すべき。安倍さん、白旗あげなさい」

10月22日(木)16時1分 NEWSポストセブン

 昨年12月3日、NHKの夕方の情報番組「ゆうどき」に出演した俳優・宝田明氏は、『ゴジラ』出演時などの思い出とともに、幼少期を過ごした旧満州(現・中国東北部)のハルビンでのソ連軍の侵攻や、命からがら日本に引き揚げるまでの体験を語った。そして、「戦争は絶対に起こしちゃいけない」というメッセージはネットでも大きな反響を呼んだ。ノンフィクション作家の佐野眞一氏が、満州からの宝田氏の過酷な引き揚げについて聞いた。


〈宝田一家に帰国の目途がついたのは、敗戦の翌年末だった。満鉄で北京と旧奉天(現・瀋陽)のほぼ中間にある葫芦島まで行き、そこから日本行の船に乗り込んだ。宝田家はそのとき可愛がっていた犬を家に置いてきた。〉


「犬は連れていけませんから、みんな饅頭の中に青酸カリを入れて食わしたんです。すると5秒もしないうちに痙攣を起こしてひっくり返る。食べたばかりの饅頭をぶわっと吐き出したかと思うと、それっきり、もうぴくりとも動きません。でも我が家の犬にはそんなことできなくて、石炭箱の中に食料と水をたっぷりやって置いていったんですが……」


〈ハルビン駅から満鉄の列車に乗ったのは、夕闇迫る頃だった。これでハルビンともお別れだと宝田がぼんやりホームを見ていると、犬がホームに駆け上ってくるのが見えた。〉


「それがうちの犬だったんです。犬は列車の窓をずっとのぞきこみながら歩いてくるんです。犬の嗅覚は人間の八千倍鋭いといいますからね。僕は見つからないよう窓を閉めて、体を伏せてね。僕が列車の最後尾に行って見ていると、犬も列車を追ってタタタタって走ってくる。たまらんかったですよ」


〈引き揚げの混乱の中で、宝田家は中学3年の長兄を見失った。満州を去るとき、その長兄宛に「私たちはここに帰ります」と新潟県北端の日本海に面した村上市の本籍を書いて、ハルビンの駅頭に貼りだした。途中停車した駅ごとに、同じ張り紙を掲示した。


 帰郷してからは、母親が新潟市まで魚の買い出しに出かけ、村上の道端で「はい、ホッケいかがですか、タラいかがですか」と客を引くのが、宝田家の生業になった。〉


「あるとき、牡丹雪が降りしきる中、黒い人影がふっと近寄ってきた。髪の毛はぼうぼうで、人相が悪く、軍隊のオーバーを着ているんです。よく見ると、それがはぐれた兄貴だったんです」


〈長兄はソ連軍に捕まった後、石炭運びやロバの代わりに自分が石臼をひいてもらったなけなしの金をはたいて、密航船を雇い、九州の見知らぬ浜辺まで漂着した。そして自分を見捨てた家族を恨みながら、日本海沿いの寂しい道をとぼとぼ歩いて村上まで来たという。「砂の器」と「レ・ミゼラブル」を足したような壮絶な話である。


 宝田は最後に言った。〉


「日本には戦争放棄という世界に冠たる大法典があります。アメリカに対しては経済も協力しましょう、国債もうんと買ってあげましょうでいいんです。だけど、戦争に関しては絶対拒否すべきです。だから僕は安倍さん、もう白旗をあげなさいと言っているんです。その方が、歴代の総理の誰よりも立派な人だった、と後世の人から絶対尊敬されます」


〈物言えば唇寒しの状況が進行する世の中で、これだけのことが言えるのは立派である。 まさかミュージカルスターから憲法の話が出てくるとは思わなかった。この男、やはりただの二枚目俳優ではなかった。戦争の悲惨さとインタビューの醍醐味をたっぷり感じさせてくれた1時間半だった。〉


※SAPIO2015年11月号

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