スマホで安田さん批判に精出す人は憐れむ要素に事欠かない

10月27日(土)16時0分 NEWSポストセブン

帰国した安田純平氏(時事通信フォト)

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 ジャーナリストが無事生還することで迷惑を被る人はいないはずである。しかし案の定、議論は巻き起こってしまった。コラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。


 * * *

 本当に嬉しいニュースです。無事のご生還、おめでとうございます。シリアで武装組織に拘束され、3年4か月ぶりに解放されたジャーナリストの安田純平さん(44)が、10月25日夜に帰国しました。生きて帰ることを信じて待ち続けた両親や妻と再会し、さっそく母親の手作りのおにぎりやきんぴらごぼうをおいしそうに食べたとか。ご本人やご家族の喜びはいかばかりか。いやあ、よかったよかった。


 ……という話では済まないのが今の日本の、いや、もしかしたら人の世の残念さであり情けなさ。腕まくりして待ち構えていたかのように、ネット上ではバッシングの嵐が吹き荒れています。悲しいかな予想通りの展開です。いつ命を奪われるかわからないギリギリの状況を生き抜き、奇跡的に帰ってこられた人を非難して、何が楽しいのでしょうか。


「そっか、よかったね。でも、とくに興味ないかな」と感じるのは、まだわかります。毎日いろんなニュースがあるし、しょせんは知り合いでも何でもない人の話ですから。しかし、バッシングに精を出している方々は、積極的に関心を持って非難する理由を全力で捜し出し、手間と時間を使ってSNSなどに書き込んでいます。暇なんでしょうか。


 ネットだけじゃなくてリアルでも、安田さんを批判して悦に入っている人は少なくありません。そういう人を見て腹を立てるのも不毛だし、近づくと邪悪なオーラに巻き込まれてなおさら不愉快になります。「いや、そうじゃなくて」と反論したところで、話が通じる気もしません。ここは反発や怒りではなく、憐みの目を向けることにしましょう。


 手あかのついた「自己責任論」を振りかざして、危険な場所に行くのが悪い、そんなヤツを助ける必要なんてないと言っている人は、自分は常に安全な場所から石を投げつける側にいるという根拠のない自信を持っています。想像力のなさや叩ける相手を見つけて喜んでいるお人柄の醜さがにじみ出てしまっていますが、まあそれこそ自己責任ですね。


 安田さんが拘束されたときの状況や解放に至った経緯は、まだ何もわかっていません。しかし、一部の報道を受けて「間接的にせよ、税金を使って身代金を払うなんてケシカラン!」と憤っている人がたくさんいます。「税金を使って」と言えば自分の主張が自動的に正当性を持つと思っている単純さ、飲食店で「俺は客だぞ」と威張る人と同じく、「納税者」という強そうな立場を振りかざしたがるセコさに、ある種の悲しみを覚えずいられません。



 ジャーナリストという仕事を根本的に理解していない人も、たくさんいるようです。安田さんや、安田さんのように危険な場所に取材に行ってくれる人がいなかったら、たとえばシリアがどんなひどい状況になっているか知ることはできません。安田さんが拘束されたニュースをきっかけに、シリアという国を知り、目を向けた人も多いでしょう。無事に帰った今だから言えますが、安田さんは立派な仕事を成し遂げました。


「しょせん金目当てで行ったんだろう」とゲス顔で言う人もいます。紛争地帯に身を投じて多少の仕事につながったしても、リスクの大きさに比べたらまったく割に合いません。まして「有名になりたいだけだろ」という見方は笑止千万。たしかに安田さんはこうして有名にはなりましたが、おかげで的外れな批判にさらされています。戦う人を笑うだけの「戦わないヤツら」に見事になっていることに、きっと本人は気づかないんですね。


 帰国する飛行機の中で取材を受けて話した内容にイチャモンをつけたり、すぐに記者会見を開かなかったことを責めたりする声もあります。安田さんは帰国してすぐ、妻を通じて「おかげさまで無事、帰国できました。可能な限りの説明をする責任があると思います。折を見て、説明させていただきます」という談話を発表しました。


 解放されて間もない、きっとまだ気持ちの整理も何もついてなかったタイミングだっただろうに、飛行機の中で取材に応じただけでも、十分に立派ではないでしょうか。命からがら3年4か月ぶりに帰って来て、やっと家族に会えたんです。やがて開いてくれるであろう記者会見を待てないなんて、ずいぶんせっかちで、ずいぶん酷ですね。


 批判している人に、そういう厳しい要求に応えられるほどの精神力や覚悟があるとは、まったく思えません。スマホ片手に威勢よく他人を罵倒しているときの顔は、きっと見られたもんじゃないでしょう。本人は無自覚なのがせめてもの救いです。


 ことほど左様に、安田さんへのバッシングに精を出す人たちに対しては、どんなに憐れみの目を向けても憐れむ要素に事欠きません。憐れまれているみなさんも、もしかしたらこんなことを書いている私を憐れんでくださるでしょうか。同病相憐れむですね。いわば仲間ってことで、みなさんになるべく幸多かれと祈らせていただきます。

NEWSポストセブン

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