乃木坂46橋本奈々未「弟の学費負担」を美談ですませるな!「ロケ弁ほしさに芸能人になった」彼女が語る貧困の現実

10月31日(月)23時30分 LITERA

乃木坂46公式サイト「メンバー紹介ページ」より

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 先日、乃木坂46からの卒業と芸能界引退を発表した橋本奈々未。橋本は乃木坂の第一期生で"選抜メンバーの中の超選抜"である"福神"に全シングルで選ばれてきた人気メンバーなのだが、そんなトップアイドルである彼女が語った"卒業理由"がいま、話題を集めている。


 というのも、橋本がテレビ番組で語った卒業理由が、"弟の学費の目処が立った"というものだったからだ。


 しかも、橋本は31日放送の『乃木坂工事中』(テレビ東京)で、自身が芸能界入りを決めたのも"家族の経済状況"が理由だったとし、こう話した。


「もともと(芸能界に)入ったのは、本当にお金だったんですよ」
「めっちゃ貧乏だったんですよ。水道止まる、ガス止まる、みたいな。実家が。それでもなんとか(私は)1人目だからいろいろしてくれた。私にしてくれたから、弟にまで(お金が)回る余裕があるのかって思ったときに、私のせいで、弟は男の子だし......」
「それでなんとかしなきゃってところで、この年齢でいろいろ模索しているなかで、ここにきたという感じがある」


 自分が大学に進んだことで弟が進学できない状況になる......それをどうにかするために芸能界に入った、というのだ。


 大ブレイク中のアイドルグループの人気メンバーという華やかなイメージとかけ離れたこの告白に、ネット上では「しっかりしたお姉ちゃんをもってよかったね」「家族を支えるなんて偉い!」と、"美談"として盛り上がっている。


 だが、これは"美談"で消費されるような問題ではない。橋本の告白は、この国の多くの学生たちが背負わされている現実だからだ。


 じつは、橋本は昨年公開された乃木坂のドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』でも、乃木坂加入以前の困窮した生活について言及。彼女は地元・北海道から美大ではトップクラスの難関度である東京の武蔵野美術大学に進学したのだが、「大学内での思い出って、華やかだったというよりかは、ただ生活がつらい」と話している。


「奨学金はほとんど学費につぎ込んで、生活費はもう自分でバイト掛け持ちしてやりました。無理でした(苦笑)」
「親から完全に自立してやってくって啖呵切って(東京に)来てるから、なんか弱音も吐けないし、ってところでだんだん精神的に不安定になって」


 橋本は雑誌のインタビューでも当時を「おにぎり1個の生活でしたから」(「FLASHスペシャル」14年9月10日号/光文社)と振り返っているが、なかでも橋本が語る乃木坂のオーディションを受けた理由は象徴的だ。


「どうにか東京で生活、自分でする術はないかって考えたときに、芸能界のロケ弁が頭に浮かんで。芸能人になればロケ弁をもらえる」(前出ドキュメンタリー映画内の発言)


 オーディションを受けた動機が「アイドルになりたい」ではなく「ロケ弁がもらえるから」。夢も希望もないと感じる人もいるかもしれないが、しかしこの言葉は現実をよく表している。せっかく希望の大学に入っても、ただ生活費を稼ぐことでいっぱいいっぱいの毎日を強いられている学生は少なくないからだ。


 私大では学費が高騰をつづけ、国公立でも40年前と比較すると15倍にあたる年間約54万円(2015年度)とOECD加盟国のなかでも日本はとくに授業料が高い国だが、当然、しわ寄せを受けるのは家計であり、学生だ。藤田孝典氏の著書『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)では、現在の学生が立たされている苦境を大内裕和・中京大学教授がこのように述べている。


「学生が、親からもらえる家計からの給付は、この10年間で150万〜160万円から120万円へと、約40万円下がりました。仕送り額は、1990年代半ばは6割以上が月に10万円以上だったのが、いま、10万円以上は3割を割っていて、むしろ5万円未満がどんどん増えている。
 東京でアパートを借りて、親からの仕送りが5万円未満で、働かないで生活できるはずがないのです。首都圏の私大・短大生を対象にした調査では、仕送り額から家賃を除き、30日で割った「1日当たりの生活費」は、1990年の2460円から、2014年にはついに897円となりました。1日900円も使えないのが、いまの大学生です」


 家計支出の減少、そして奨学金を利用する学生が2人に1人という状況の背景にあるのは、親の経済状況の変化だ。現に、1世帯あたりの平均所得は2015年で約541万円だったが、これはピーク時の94年と比較すると122万円も減少している。さらに、非正規雇用の世帯やひとり親世帯となると、家計から学費や仕送りを捻出するのは困難な状況だ。


 結果、橋本のように多くの学生が、奨学金制度を利用しても「おにぎり1個」でしのいだり、バイトを掛け持ちするなどして学業に集中したくてもできないでいる。そして、橋本は"食い扶持を稼ぐ"ためにアイドルのオーディションを受けたわけだが、同じ動機でキャバクラやガールズバー、なかには風俗で働くことによって学費や生活費を賄っている学生がいるのである。


 家庭の所得の差によって子どもが将来の選択肢が狭められ、苦労を強いられる。その状況を、前掲書で著者の藤田氏は〈不公正で不平等と言わざるを得ない〉とし、〈年功賃金、終身雇用のないところで、私費負担で学費をまかなうことはもはや無理だということを認識しなくてはならない〉と指摘。だが同時に、社会で一向に理解が進まない理由を、こう述べている。


〈当然のように、高等教育に対する公費負担増加や公費予算増加が必要なのだが、そのようなことは、「高等教育にかかる経費は受益者の私費負担」という感覚がしみこんだ日本では、なかなか理解されない〉


 同様に、貧困問題への無理解もある。記憶に新しい「貧困女子高生」バッシングもそうだが、厳しい生活によって進学を諦めざるを得ないと話しても、「もっと我慢すればいい」「何も食べられないほど貧乏じゃないくせに」などと最低限の生活を水準にして非難する。


 きっと橋本も、貧困女子高生に向けられたような言葉を投げ付けられた経験があるのだろう。そう思うのは、ドキュメンタリー映画のなかで彼女が念を押すように、こう話しているからだ。


「まあ、そんなにお金がある家庭じゃないので。『言ってもそうでもないでしょ』って思われたり言われたりすることあるんですけど、本当にそうでもあるくらい結構お金がないんで」


 苦しいんだと声を上げても、「言ってもそうでもないでしょ」というマジックワードで封じ込められてしまう。貧困をめぐる議論は、こうしてなかなか先に進まない。橋本の苛立ちを隠さない言葉は、この社会の偏狭さを言い当てるものだった。


 引用してきた映画のなかで、今後の夢や目標を語るメンバーのなかにあって橋本は「自分ががんばるゴールは明確」と言い、「来年度に弟の初年度入学費を全額納入」ときっぱり明言していた。夢より生活──これを「美談」ともてはやすこの国は、なんと豊かなことだろう。
(大方 草)


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