「見ている人にとって、兵士郎が自己投影できるような役になるといいのかなと思いました」仲野太賀、「この映画を見て仲野太賀みたいな役者になりたいと思う人が絶対に出てくると思います」白石和彌監督『十一人の賊軍』【インタビュー】

2024年11月2日(土)19時10分 エンタメOVO

(左から)仲野太賀、白石和彌監督 (C)エンタメOVO

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 江戸幕府から明治政府へと政権が移り変わる中で起こった戊辰戦争を背景に、罪人たちが新発田藩の命令により決死の任に就く姿を描いた時代劇アクション『十一人の賊軍』が11月1日から全国公開された。本作の白石和彌監督と、新発田の地を守るため罪人たちと共に戦場に赴く剣術道場の道場主・鷲尾兵士郎を演じた仲野太賀に話を聞いた。



−監督、今回は多彩なキャストが出演していますが、キャスティングについては監督が望んだものはかなり実現したのでしょうか。

白石 この作品が今後の僕の監督人生を左右するなと思いました。これまでの集大成であり、新たな出発点になるであろうこの作品に、やっぱり山田(孝之)さんにはいてほしいなと思いました。太賀くんは今をときめく売れっ子で、次から次へと仕事がある中で、このタイミングで本当にキャスティングできてよかったと思いました。賊軍たちはごった煮の闇鍋みたいな感じにしたくて、歌舞伎俳優がいたり、相撲取りみたいなのやお笑い芸人もいたりとか、そういう泥くさい感じがいいかなと。一方、攻撃を仕掛けてくる官軍側は、玉木宏さんを筆頭に端正なイケメンたちが攻めてくるみたいなイメージで対照的に描いたら面白いんじゃないかなと思いました。

−仲野さんは、最初に脚本を読んだ時はどんな印象でしたか。

仲野 アクションシーン、特に殺陣のシーンがすごく重要だなと思いました。自分のフィジカルがどれだけやれるかで、映画の出来が変わってくると思ったので、すごくプレッシャーがありました。僕自身、殺陣をやるのはほぼ初めてだったので新たな挑戦だと思いました。なおかつ、時代劇のチャンバラ自体も今までやったことがなかったのでやるなら今しかないなと。かき立てられるものがすごくありました。

−殺陣は相当練習したのですか。

仲野 クランクインの半年前ぐらいから始めて、殺陣指導のアクション部の皆さんにみっちりと教えていただきました。完成した映画を見て自分でもかっこいいなと思いましたが、それは1人でできるものじゃないんです。自分の技術がなくても、受けの人の技術が高ければ、すごくかっこよく見えるものなんです。今回、大立ち回りで、何人もの人を斬りましたが、どれだけ殺陣ができないのかは、自分が一番よく分かっているので、本当に皆さんに助けられましたし、かっこよく撮っていただいたなと思います。

白石 最後はちゃんと仕上げてくれました。それは努力のたまものだと思うし、やっぱりいいものを持っているからだと思います。だから、工夫して撮ったという記憶があまりなくて、やってくれたものを素直に撮ったという感じでした。もちろん編集の中でリズム感を出したりはしましたが本当に立派でした。よかったですよ。「これからは剣劇スターでも行けるじゃん」という感じです。

仲野 頑張ります(笑)。

−仲野さんは、鷲尾兵士郎をどんな人物だと解釈して演じましたか。

仲野 兵士郎は剣術の達人で、阿部(サダヲ)さんが演じる内匠の指示に従って、賊たちを引き連れてとりでに立てこもります。新政府軍と旧幕府軍との間で板挟みになりながらも、侍としての誇りもあって、賊たちとは立ち位置も役回りも明確に違う中で戦(いくさ)に巻き込まれていきます。けれども、物語が進むにつれて兵士郎の信じるものや立ち回り方も大きく揺らいで変化していき、あるシーンにおいて自分自身も賊であると気付くんです。そうした兵士郎の変わっていく姿というのはすごく意識しました。

 この作品は、派手なアクションもありながら、戦いが終わった後に、痛快さではなく何だか分からないむなしさが残るんです。多くの人が死んで、声なき者の声が届かぬまま戦いが終わっていく。歴史上ではこういうことが重なってきたのだというのがすごく表れている作品だと思います。その点で、見ている人にとって、兵士郎が自己投影できるような役になるといいのかなと思いました。



−白石組はいかがでしたか。

仲野 もうバチバチにしごかれました(笑)。脚本の通り、どうしたって大変にならざるを得ない物語で、大変な撮影だったんですけど、結構な数のキャストが戦をやっている中で、どんどん状況がしんどくなってきたところを、監督が腕を組みながら遠目からずっと見ているんです。それで、こっちが「もう駄目です。もうきついっす」と悲鳴を上げたところで、目がキラキラと輝き出して、「よしカメラ回そう」みたいな。すごい監督だなと。熟成するのを待っているわけです。

白石 それが仕事だから(笑)。ただ、僕は群像劇が得意なつもりだったんですけど、それは、こっちの勢力は5人で、もう一方の勢力は例えば7人でみたいな作品だったんです。それが今回は10人以上の人数が同じ場所にいる。それで「やろうぜ」と言った時に、みんなが一斉にリアクションを取るんだけど、それだけで5、6カットもあるんです。だから撮影がなかなか終わらない。同じ群像劇でも違うんだ、こんなに大変なんだと思いました。

−改めて、時代劇の魅力とはどんなところにあると思いますか。

白石 結局はファンタジーだということです。資料を探せばいろいろと出てきますけど、その時代に生きいていた人は今はいないわけですから。だから、積み上げたものを壊せる面白さとか、リアルなところが追求できる面白さとか、映画のエッセンスが詰まっているところがある。やっぱり今とは社会の仕組みが違うので、その中で起きる不条理を描きやすいということです。ただ、人間の喜怒哀楽は変わらないので、基本的にはそれを描くことで、現代へのメッセージを送りやすいというか、やれることが本当にいっぱいあるなと思います。別に時代劇はジャンルではないので、時代劇の中でいろんなジャンルが作れるということです。そう考えるともう無限に可能性があるかなと。

仲野 今監督がおっしゃったように、人間の感情は昔も今も変わらない。でもフィクションというか、ファンタジーというところが現代への逆説的なメッセージとして届いたらいいなと。やっぱり生きるとか死ぬとか、斬る斬られるという究極の状態が体現できるのは時代劇ならではだと思います。戦争ものとかでもそれはあるんですけど、時代劇にはそこに美学や美意識があります。それを踏まえた上での表現は、なかなか他ではできない魅力があると思います。時代劇ならでは様式美もあるし、今回みたいなどろどろになる戦もある。そういう振れ幅の広さみたいなものが現代劇よりもあるのかなと思います。

−この映画の役割についてどう思いますか。

白石 僕は、基本的にはいつもエンタメとして映画を作っているので、作るたびにやっぱり自分はエンタメをやりたいんだということを自覚するんです。この映画が日本の映画界でどういう役割を果たすのかは分かりませんが、集団抗争時代劇を作れるチャンスはなかなかないので、「時代劇はまだまだいけるぞ」と海外の人たちにも興味を持っていただける作品になって、「時代劇やろうぜ」という起爆剤になってくれるとこんなにうれしいことはないです。あとは、この映画を見て仲野太賀みたいな役者になりたいと思う人が絶対に出てくると思います。

仲野 そう言っていただけるとすごくうれしいです。

(取材・文・写真/田中雄二)

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