俳優・加藤剛 自分をからっぽにして“役に住んでもらう”

11月3日(金)16時0分 NEWSポストセブン

加藤剛が俳優座について語る

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、役者になってから現在までずっと所属し続ける俳優座について、俳優座にある考え方が役者としての自分に及ぼした影響について語った言葉を紹介する。


 * * *

 離合集散の多い演劇界にあって、加藤剛は現在まで一貫して俳優座に所属し続けている。


「千田是也先生が俳優座を作られた時からの考え方でしょうけれど、ヒューマニズムに基づいた演劇表現をしているというのが、俳優座の基本にあります。それから、どんな作品でも自由にできる劇団だという気もしています。それが、僕が長く所属することのできた一番の理由ではないでしょうか。


『新劇』というくらいですから、新しい芝居をやっていこうという想いで作られた劇団だと思います。世の中の新しい考え、生活に合った考えに根ざした劇団でありたいということです。自分のために芝居をやるのではなくて、何か世の中の役に立つとか、人のためになるような仕事としての演劇でありたいというのが俳優座にはあります。


 僕もその考えに沿っています。ですから、今でもそうなのですが、どうすればお客様に、その演劇のテーマや内容をわかりやすくできるか、ということをまず第一に考えてやってきました。『わかってもらえる』ということが一番の目的なんです。


 自分たちの想いだけで演劇は成立しません。それだけでやったことはありません。劇場の中で、舞台とお客様が一つになって、一緒に一つのテーマについて考えたりしながら進んでいくのが大事です。そのためには、お客様に理解してもらうことが何より大切だということです」


《役を演じる》という行為に対し、捉え方は役者によって千差万別だ。「役になりきる」「役に入る」「役をつかむ」──。加藤剛の場合、「役に住んでもらう」という表現を使っている。


「『なりきる』というのは、あまり好きじゃないですね。なりきっちゃって、自分が好きに動くというのはよくない。演じている自分を見ているもう一つの自分を必ず置きながら、第三者の目で批判しつつ芝居をするようにしています。それが『住んでもらう』ということです。


 そのためには、自分の中に役が入ってきてもらいやすいように、自分自身をからっぽにしておくよう心がけています。その役に対応できる柔軟性をもった体にしておくということですね。


 どうしても『自分』というのには『自分なりの考え方』というのがあるでしょう。その一方で、役としての考え方がもう一つある。これがぶつかり合うことがあるんです。そうならないためにまず自分をなくし、その上で役に入ってもらうわけです。


 ここまで役者をやってこられたのは、やっぱり観てくださったお客様のおかげです。『よかったよ』とか『あそこに感動したよ』とか、そういう風におっしゃっていただいた時、喜びを感じることができます。そこが役者という仕事の喜びだと思います。役者は、お客様あってのものです。表現したものを観てもらって初めて成り立つ。誰もいないところで演じて喜びを感じる役者はいません。観てくださった方の心の中に何かが入って、何かが変わってくれたと言われるのが一番嬉しい。ですから、役者にはそれだけ責任があるわけです」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。


■撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2017年11月10日号

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