J:COM杯 3月のライオン 子ども将棋大会 全国大会、優勝は関西代表の中3・木村くん
2024年11月10日(日)8時0分 マイナビニュース
11月2日、東京の将棋会館で「第13回 J:COM杯 3月のライオン 子ども将棋大会」の全国大会が行われた。各地の予選を勝ち抜いた16人で争われた決勝リーグ・トーナメントの結果、関西代表の木村橙哉くんが優勝となり、審判長の渡辺明九段から賞状とトロフィーを受け取った。
開会に先立っては渡辺九段の紫綬褒章受章のお祝いも
今大会の出場者は全国の小・中学生で、7月21日に行われた北海道大会を皮切りに、東北、関東、東海、関西、中国、九州の各地区で地区大会が開催され、成績優秀者16人が将棋会館に集結し、全国優勝を争う。今回は小学3年生が1人、4年生が1人、5年生が2人、6年生が1人、中学1年生が2人、2年生が5人、3年生が4人である。
全国大会は、まず1ブロック4名のリーグをA〜Dの4ブロックに分け、各ブロックの優勝者による4人トーナメントで優勝を決めるシステムだ。リーグ戦では2勝1敗の選手が複数出る可能性もあるが、2人の場合は直接対決の勝者、3人の場合は改めて抽選を行ってからのパラマストーナメントで、準決勝への進出者を決めることになる。
開会のあいさつは全国大会審判長の渡辺明九段。「普段指したことがない相手が多いと思いますが、楽しんで指してください」と激励した。「普段指したことがない相手」と指す機会を持てるのが将棋大会に参加するメリットの1つである。
実はこの日の朝、渡辺九段が紫綬褒章を受章したという報道があった。40歳での紫綬褒章受章は将棋界では最年少の受賞となる。開会あいさつのあと、祝賀の花束が渡辺九段に送られた。「対局前に自分のことで恐縮です」と急な花束贈呈に驚いていた。
4ブロックに分かれてのリーグ戦から大会ははじまる
各ブロックのリーグ戦は将棋会館4階の大広間で、8つの将棋盤が並べて行われた。その奥にはお子さんの戦いぶりを見守る保護者の方々の席が用意されている。よほど目が良くないと駒の動きまでは見えないだろうが、「対局姿勢を見ています。表情をゆがめたり、落ち着きが無くなったりしてくると、『局面が苦しいんだな』とわかります」ということである。
リーグ戦なので1度負けても3局まで指せるというのも大きい。以前は初戦で敗退するとそれでおしまいのトーナメント方式だったが、昨年の第12回からこのシステムに改められた。本大会だけでなく、最近の子ども大会では「できるだけ参加選手に多く指してもらう」という傾向が強くなっていると思う。
リーグ第3試合で開始を務めたのは獺ヶ口笑保人四段だ。10月に四段昇段したばかりの新人棋士であり、実は本大会の第1回優勝者だ。「皆さん、この日のために頑張ってきたと思うので、どういう結果になっても全力を尽くしてください」と、昔の自分を思い出すかのように声をかけていた。
獺ヶ口四段だけではなく、第3回出場の高田明浩五段、第3、4回に連続出場し、第4回では準優勝の上野裕寿四段、第4回出場の礒谷真帆女流初段、第5回出場の加藤結李愛女流二段、第10回出場の木村朱里女流初段、第12回出場の岩崎夏子女流2級と、本大会からはのちのプロ棋士、女流棋士を多く輩出している。奨励会員として将来のプロ棋士を目指している者も多い。
今回、ただ一人小学3年生での参加選手となった鬼頭慶くんもそんな1人だ。残念ながらリーグは3連敗で終わったが、年上相手に臆することなく戦っていた。普段はネット将棋で腕を磨いているそうで、「将来は棋士になりたいです」とハッキリ語っていた。
Cブロックは3人が並んで10秒将棋のパラマストーナメントに!
準決勝を戦うベスト4が決まりつつある中、Cブロックでは波乱があった。高津礼音くん、木村橙哉くん、奥田歩穂くんの3人が2勝1敗で並び、改めてパラマストーナメントが行われることになったのである。抽選の結果、初戦は木村—奥田戦となり、その勝者が高津君と戦う。パラマストーナメントは持ち時間なしで初手から10秒将棋という超早指しである。
一般論として、子どものほうが大人より早指しの傾向はあるが、初手から10秒というのは子どもの早指しとしてもかなりのハイペースである。実際「10秒将棋はネットで経験したくらいです」と参加者は語っていた。
この超早指しを制したのは木村くん。初戦で奥田くんを破ると、枠抜けの一戦ではリーグで敗れていた高津くんにリベンジを果たす形となった。
準決勝は特別対局室で
準決勝は特別対局室に場所を移して行われた。対戦カードは白井遥都くん(中2/中国代表)—西彩之介くん(中3、九州代表)、木村橙哉くん(中3、関西代表)—辻大輔くん(中2、関西代表)となり、それぞれ西くんと木村くんが勝った。
決勝が始まる前に、惜しくも敗れた白井くんと辻くんへ、3位を表彰して渡辺九段から賞状とトロフィーが送られた。白井くんと辻くんに話を聞いた。
白井くん「目標は優勝でしたが、自分の力は発揮できたので3位はしょうがないです。菅井先生(竜也八段)の将棋をよく見ています。ネット将棋で勉強し、これからはアマチュア選手として活躍できればと思います」
辻くん「準決勝まで来れたので、できれば決勝まで進みたかったです。ネットでは毎日指しており、奨励会に入ってプロ棋士を目指したいです」
決勝戦は渡辺九段・香川女流四段による解説も行われた
決勝は将棋会館地下1階の銀河スタジオにて行われた。テレビの収録もつき、プロ公式戦である銀河戦さながらの戦いである。別室では解説が渡辺九段、聞き手は香川愛生女流四段によるテレビ用の解説も行われていた。
決勝は持ち時間15分、使い切ったら1手30秒の秒読みと、こちらも早指しの公式戦並だ。振り駒の結果、西くんの先手番となり、後手木村くんの三間飛車から対抗形に進んだ。
中盤では西くんが先攻するも、うまく機会をとらえて反撃に出た木村くんが優勢に立ち、そのまま押し切って優勝を決めた。木村くんは第11回、第12回でも全国大会へ出場しており、参加資格がある最後の大会となる今回で悲願の優勝を果たした。
渡辺九段は大会を振り返って「16人が皆、遜色のない戦いぶりでした。特に決勝の2人には良い思い出になったのではと思います」と語った。
改めて、決勝を戦った2人に話を聞いた。まずは西くんから。
西くん「全国大会へ出場できてとてもうれしいです。決勝の将棋ではよかったところはなかったですが、実力は出せました。将来は奨励会試験を受けたいと思います」
居飛車党で、特に角換わりを得意とするのは藤井聡太竜王・名人の影響だという。好きな棋士には渡辺九段を挙げた。渡辺九段の日常を奥様の伊奈めぐみさんが描写した漫画「将棋の渡辺くん」を読んでのことだそうである。
続いて木村くん。
木村くん「今回はどの将棋も集中して思い切りよく指せました。準決勝は指運が幸いし、決勝は持ち時間が15分あったのも大きかったです。1年1年を大事に勉強できたのがよかったのかもしれません」
これからは将棋は趣味として楽しむそうだ。得意戦法は決勝でも採用した三間飛車で、好きな棋士はその三間飛車が面白いという西田拓也五段を挙げた。
息子さんの戦いを1日中見守っていた、木村くんのお父さんにも話を聞いた。
「将棋一本でやってきたわけではないですが、結果を出せたのはよかったです。これからは受験があるので、そちらへ切り替えるいいきっかけになったのではないでしょうか」
最後に、改めて獺ヶ口四段から聞いた話を紹介する。
獺ヶ口四段「私は第1回のJ:COM杯まで、全国大会へ出たことがありませんでした。その大会で当時日本将棋連盟会長を務められていた米長先生(邦雄永世棋聖)に褒めてもらったのはうれしく、ありがたかったです。第1回大会にも渡辺九段はいらっしゃっていて、決勝の感想戦でのやり取りについて『強いね』と褒められたことも覚えています。今回の参加選手を見て、昔の自分もこうだったなあと懐かしくなりました。プレイヤーの熱量は第1回から変わっていませんが、序盤の精度が圧倒的に向上していると思います」
ますますレベルが上がるであろう子ども大会、次回の参加選手の頑張りにも期待したい。