文部科学省は英語教育から手を引くべき 大前研一氏が提言

11月11日(月)7時0分 NEWSポストセブン

受験生は大迷惑(イラスト/井川泰年)

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 2020年度に予定されていた大学入試共通テストへの英語民間試験活用の延期が発表された。そもそも決定への経緯が不透明で、英語教育の専門家が審議に加わっていない、その民間試験の試験場が全国をくまなくカバーしていないため地域格差が生じるなど、様々な問題を抱えていた。経営コンサルタントの大前研一氏が、大学入試「英語民間試験」が間違っている根本的理由について解説する。


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 大学入試センター試験に代わって2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される予定だった英語の「民間試験」が、萩生田光一文部科学相の「身の丈発言」がとどめとなって2024年度まで延期された。当然である。


 それらの問題もあるが、すでに2年前に私が指摘したように、より本質的な問題はその試験によって何を測りたいのかが不明なことである。つまり、重視するのが英語の読解力なのか、要約能力なのか、ヒアリング能力なのか、会話能力なのか、筆記能力なのか、あるいは海外に派遣された時の実戦対応能力なのか、さっぱりわからないのだ。


 というのは、学生に必要とされる英語の能力は大学ごと、学部・学科ごとに違うはずだからである。本来、その違いに沿って大学側が個々に試験問題を作るべきなのに、それを目的も採点基準も全く違う複数の民間試験に丸投げするという発想自体、文部科学省が英語教育を全く理解していないことの証左にほかならない。


 たとえば、私が学長を務めているビジネス・ブレークスルー(BBT)大学では、次のような最終試験を行なっている。


 まず、かなり長い文章を読ませて、どんなことが書いてあるか、日本語で1200字以内に要約させる。BBT大学は通信制オンライン大学なので、辞書で調べたり友人らと携帯電話で相談したりするカンニングはOKだ。次に、学生が出してきた答えに対し、より詳細なことや具体例などを質問して2時間以内に800字で書かせる。これはそれぞれ質問が異なるし、時間の制約もあるから、カンニングはできない。


 この試験方式は労働集約型なので採点する教官たちは大変だが、我々が学生に求めている能力──みんなの意見を聞いて結論をまとめていく能力と突発的な事態が起きた時に人に頼らず自分なりの答えを導き出せる能力—があるかどうかを確実に測ることができる。


 また、私がMIT(マサチューセッツ工科大学)大学院の博士課程を受験した際は三つの言語ができないといけなかったので、第1言語を英語、第2言語を日本語、第3言語をドイツ語にした。筆記試験後のドイツ語の試験は、ネイティブ2人と会話してコミュニケーション能力を測るものだった。


 ことほどさように、大学入試の英語(語学)試験は、学部や学科の目的によって内容や方法が変わって当然なのである。たとえば、理系では外国の文献を調べて自分の論文をまとめるための読解力や筆記能力が求められるだろうし、文系ではヒアリング能力や会話能力を重視すべき学部や学科があるはずだ。英語は語学である以上、コミュニケーションのツールである。そのコミュニケーションが主として論文や学会の発表なのか、会話なのか、メールなのか、それとも会社のプレゼンテーションなのかなどによって、求められる能力は大きく異なるのだ。


◆安倍政権下で一気に加速


 ただし、TOEFLなど国際的な試験の結果では、日本人の英語力は常に最下位グループだ。たとえば、2017年のTOEFL スコアで日本は世界170か国中146位、アジアに限っても29か国中26位という惨憺たる状況である。その根本原因を分析して対策を取ることもなく、大学入試の英語試験を外部の業者に委託するというのは無責任極まりない。


 そもそも民間試験は高校までの学習指導要領と無関係なのだから、文科省は従来の学習指導要領至上主義を放棄したに等しい。文科省は民間試験と高校学習指導要領の整合性を確認したとしているが、もし文科省が学習指導要領や教育プログラムに自信があるなら、その延長線上で進捗度を測る共通試験を自分たちで作るべきである。


 それができないのであれば、もう文科省は“無条件降伏”し、英語教育から手を引くべきではないか。その代わり、各大学が独自の視点からテストを考案するなり、業者と共同開発するなりしたほうが、受験生や保護者に対するメッセージが明確になるだろう。


 もともと英語民間試験の導入の議論は、第二次安倍政権発足直後の2013年4月、自民党や経済同友会が大学の英語入試に、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を総合的に測定する外部資格試験TOEFLの活用を提言したことで一気に加速した。そして早くもその2か月後の同年6月には、安倍内閣が大学入試に「TOEFL等外部検定試験の一層の活用を目指す」とした「第2期教育振興基本計画」を閣議決定し、これが既定路線となったのである。


 それ以降、様々な批判や反対が続出する中で、TOEFL以外の民間試験も活用できるように変更し、それら複数の業者の意見を聞くなどして後付けで今のような制度を整えた。つまり、受験生のためではなく、文科省の省益と業者の利権のためのものであり、汚職や天下りの温床になりかねないのだ。あまりにも杜撰で不可解な英語民間試験は、延期ではなく即刻「白紙撤回」すべきである。


※週刊ポスト2019年11月22日号

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