【インタビュー】映画『アースクエイクバード』ウォッシュ・ウエストモアランド監督 「“東京ノワール”と呼べるような、新たなノワールが構築できると思いました」

11月13日(水)10時0分 エンタメOVO

ウォッシュ・ウエストモアランド監督

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 1989年の東京で日本人写真家と恋に落ちた外国人女性ルーシー(アリシア・ヴィキャンデル)。だが、やがて彼女は三角関係に心乱され、行方不明だった友人殺しの容疑までかけられる。スザンナ・ジョーンズの同名小説をリドリー・スコットのプロデュースで映像化したNetflix映画『アースクエイクバード』が11月15日(金)から独占配信開始となる。本作を監督したウォッシュ・ウエストモアランドに製作の舞台裏などの話を聞いた。



−この映画を作るきっかけは?

 製作に入る2年ぐらい前、リドリー・スコットの製作会社で別のミーティングをしたとき、この映画の製作者でもあるマイク・プルスから「君はきっとこの本が気に入ると思う」と、原作本を渡されました。そして、1989年の日本が舞台になっていると聞いて、「実はその頃、僕も日本に住んでいたんですよ」という話をしました。だから、すぐに自分と通じるものがあると感じました。実際に原作を読んでみると、主人公のルーシーの異常な心理状態に引き込まれていきました。そこで“東京ノワール”と呼べるような、新たなノワールが構築できると思いました。

−本作には、リドリー・スコットの『ブラック・レイン』がちらっと映ります。本作と同じく日本を舞台にした、『ブラック・レイン』が公開されたのも89年でした。何か関係性や影響はあったのでしょうか。

 確かに、主人公のルーシーが『ブラック・レイン』の翻訳作業をしている様子が映ります。僕としては、『ブラック・レイン』とこの映画をパラレル(平行)で見せられるシーンだと思いました。また、時代的にも、同じく日本を舞台にしたノワールの『ブラック・レイン』が映るのは、タイミングが合っていますし、それをルーシーが翻訳しているというアイデアは面白いと思いました。

−外国のスタッフが撮る日本の風景は新鮮に映ります。特に今回は、監督と音楽はイギリス人、撮影は韓国人、日本人も数多く参加するという、多国籍なスタッフでした。その中での日本でのロケの印象は?

 今回はインターナショナルなスタッフと、素晴らしい共同作業をすることができました。美術の種田陽平さんをはじめ、スタッフの95パーセントが日本人で、「本物の日本を捉えたい」という僕の意図を分かって力を貸してくれました。物語的には、日本に住んでいる外国人たちを中心にして進んでいきますが、僕としては、外国人が日本に来たときに感じる心理も表現したかったのです。

−この映画は、異文化の中の異邦人ということも描いていますが、もう一つの大きなテーマは死と罪の意識についてではないですか。

 主人公のルーシーは、日本に住むことで、自分のつらい過去を乗り越えて新たな人生を築こうとしています。でも、過去の記憶が何度も戻ってきてしまいます。彼女の過去は幾つかの“死”と関わりがあり、彼女はそれに対して責任を感じています。ですから、今あなたがおっしゃったことはこの映画の核心を突いています。死はとても普遍的なもので、どの文化にも存在し、つながりがあり、誰もが理解することができるものだと思います。また、恐怖心や罪悪感にまつわる迷信も、どの文化にも存在しています。なので、ルーシーはつらい過去やトラウマによって錯乱状態に陥りますが、最後に彼女を正気に戻してくれるのも、そうした普遍的なつながりなのだと思います。

−ルーシー役のアリシア・ヴィキャンデルが、大変頑張って日本語のせりふを話していました。特に取調室での日本語の長い独白が印象的でした。ここは英語でもよかったはずだと思いましたが、あえてそうしたのでしょうか。

 (日本語で)3分間。ルーシーのキャラクターを考えれば、あのシーンは日本語でしかあり得ないわけです。ただ、アリシアには撮影前に「とても高いレベルでの日本語のせりふが必要になるけど、安全策として、難しいと思ったら英語にすることもできるよ」と説明しました。ところがアリシアが「ノー」と(笑)。それを聞いて僕は「やった!」と思いました。彼女はハードな練習を重ねて、ディテールまで押さえていました。ご存じのように、日本語と英語とでは言葉の順番も違いますから、せりふとして口にしたときに、言っている言葉の意味を理解していないと、気持ちが込められません。その点、彼女はとても頑張って、最後の3分間を見事にやってくれました。あんなことができる女優はあまりいないと思います。

−物語の鍵を握る禎司を演じた小林直己はいかがでしたか。彼も英語のせりふをとても頑張ったと思いますが。

 直己とアリシアは、英語と日本語で互いに助け合っていました。2人の共演シーンは見ていて美しいものがありました。今回は奈良橋陽子さんと一緒にオーディションをしましたが、なかなか禎司役に合う人と出会うことができませんでした。そこに直己が現れて、僕は彼の中に、禎司役に必要な、強さ、苛烈さ、カリスマ性や闇といったものを感じました。彼も禎司を演じるには写真が大切だということを理解してくれたので、撮影前から自分でカメラを持ち歩いて写真を撮って、現像して、という準備をしてくれました。彼とはいろいろとディスカッションもしたので、撮影に入るときには、完全に禎司として現れてくれました。アリシアと直己と一緒に仕事ができたことで、一つ一つのシーンの真実に迫ることができました。ただ、この映画の真実はダークなものだし、2人の関係性も難しいものでしたが、彼が禎司になってくれたおかげで、ストーリーが成立したと思います。禎司は、一目で人を引き付けるけれども、同時に危険も感じさせるキャラクターだったので。

−日本に住んだこともある監督の好きな日本映画や監督は? 今回は大女優の佐久間良子さんも出ていましたね。

 日本映画で存在感を示し続け、三船敏郎をはじめ、偉大な俳優や監督たちとも仕事をしてきた佐久間さんが出演してくれたことは大変な光栄なことでした。撮影中も、楽しい話をたくさんすることができました。僕は小津安二郎の映画が大好きで、僕の『アリスのままで』(14)は親子の物語でもあったので、小津の『東京物語』(53)から多くのインスピレーションを受けました。この映画はノワール的な要素が強いので、ダンスのシーンでは黒澤明の『酔いどれ天使』(48)を意識しました。また、黒沢清の『CURE』(97)や、石井岳龍の『エンジェル・ダスト』(94)など、90年代のノワール的なテイストのある作品にもインスパイアされました。僕の日本文化への興味は、日本映画を通して培ったものが多いです。

−では、最後に映画の見どころと、日本の観客に一言お願いします。

 僕は、この映画は苛烈なものを含んだミステリーだと思います。犯罪を解いていくという側面もありますが、ルーシーの心理に重点を置いて描きました。彼女はつらい経験をたくさんしていて、罪悪感からの解放を求めています。事故や複雑な状況で近しい人が亡くなって、自分が罪悪感を抱えている人は少なくないので、彼女に共感できる部分も多いと思います。観客には、ルーシーのエモーショナルな道のりに気持ちが通じて、一緒に付いてきてもらえればうれしいです。

(取材・文・写真/田中雄二)

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