「人前でパンツを脱いじゃう」障害のある子どもたち。性被害から彼らをどう守るか

11月16日(火)12時0分 婦人公論.jp


放置されてきた、障害のある子たちの<放課後の性>とどう向き合うか(写真提供:写真AC)

障害のある子どもや発達に特性のある子どものための福祉サービスで、利用者が飛躍的に伸びているという「放課後等デイサービス」。一方「サービスの現場で問題になっているのが性に関するトラブル」だと指摘するのが、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組む坂爪真吾さん。サービスに携わる職員が起こした性被害が新聞等で報道される今、坂爪さんも「人前で服を脱ぐ、性器をいじる、といった行動が見られる彼らを社会で守ることは急務」と言いますがーー。

* * * * * * *

コロナ禍で注目。利用者数22万人を超える「放課後等デイサービス」とは


2020年2月27日、新型コロナの感染拡大を防ぐために、安倍晋三首相(当時)は全国の小中高校に3月2日から春休みまでの臨時休校を要請した。

突然の休校によって、行き先が無くなってしまった子どもたちの預け先として、学童保育に注目が集まった。

学童保育とは、日中保護者が家庭にいない小学生の児童(=学童)に対して、授業の終了後=放課後に適切な遊びや生活の場を提供することで、児童の健全な育成を図る保育事業の通称である。「子どもの頃、放課後に学童に通っていた」、あるいは現在、「自分の子どもを学童に通わせている」という人も多いはずだ。

学童保育の領域において、この数年間で飛躍的に利用者数を伸ばしたサービスがある。それは「放課後等デイサービス」である。

放課後等デイサービス(以下放デイ)とは、障害のある子どもや発達に特性のある子どものための福祉サービスである。6歳から18歳までの就学年齢の子どもが通うことができ、障害や特性に配慮された居場所の中で、子どもたちに生き生きと過ごしてもらうことを目的としている。

2020年4月の時点で、全国に約1万4千の事業所があり、利用者数は22万人を超えている。生活介護や就労継続支援B型(一般企業などに就職が難しいような各種障害や難病を抱えている方に働き場所を提供する目的で定められた制度)と並び、障害福祉サービスの中でも、最も利用者数の多いサービスの一つになっている。

放置されたままの「放課後の性」


そのサービスの現場で今、性にまつわるトラブルが問題となっている。

障害の有無にかかわらず、全ての人は性的な存在である。そして、子どもであっても、性的な欲求や興味関心は備わっているし、他者から性的な対象として見られることもある。

しかし現実では、学校でも、家庭でも、そして放デイにおいても、障害のある子どもの性に関する話題はタブー視されがちである。性的なトラブルが起こった時に参照できるようなガイドラインもない。学校や家庭での性教育も、満足に行われているとは言い難い。

私が代表を務める一般社団法人ホワイトハンズでは、放デイの職員、及び利用者である子どもの保護者を対象にして、現場で起こっている「性に関するトラブル」についてのウェブアンケートを実施した。

アンケートには、保護者88名・職員21名から回答が寄せられた。人前で下着を脱ぐ、裸になる、異性の子どもや職員に抱きつく、つきまとい行為を繰り返す、異性の服を盗む、スマホで自分の裸の画像を送ってしまう、SNSやアプリで知らない大人に出会ってしまう・・・など、放デイの現場では、性に関する様々なトラブルが日常的に起こっていることが明らかになった。

現場の職員は、性に関するトラブルにどのように対応したらいいのか分からない。職員の低賃金や長時間労働などの待遇の悪さ、人材不足、施設の狭さなどの問題もあり、「性の話をしている余裕はない」という事業所も少なくない。行政がガイドラインを策定することもない。親も自分の子どもの性は直視したくない。学校との情報共有もうまくいかない。

誰もが思うように動けない中、お互いに責任を押し付け合う中で、障害のある子どもたちの「放課後の性」は放置されたままになっている。

報道された放デイ職員によるわいせつ行為


そのような中、2021年11月4日の「読売新聞」にて、放デイで職員による子どもへのわいせつ行為が相次いでおり、特に車での送迎中に性暴力に及ぶような手口が横行している、という報道がなされた。

『パンツを脱いじゃう子どもたち-発達と放課後の性』(著:坂爪真吾/中公新書ラクレ)

同紙の全国調査では、放デイにおいて、2016〜20年度の間、少なくとも職員25人が、39人の子どもにわいせつ行為をした疑いのあることが明らかになっている。

福祉施設の職員による障害者に対するわいせつ行為や性暴力は、四半世紀以上前から問題になっていたとされる。職員としての立場を利用して、自分の身に起こったことを他者に説明できない(あるいは、そもそも被害を認識できない)障害児・者を狙って、卑劣な形で自己の性的欲求や支配欲を満たそうとするのは、決して許されないことである。

しかし誰もが見て見ぬふりを続けている中では、職員によるわいせつ行為や性暴力を未然に防ぐことは難しいだろう。

「子どもたちの性」に立ち向かう職員


「放デイにおける職員による子どもへのわいせつ行為が問題に」といった報道がなされると、職員に対する不信感や疑いの目が強くなってしまうかもしれない。

しかし、限られた人員と時間の中で、日々悩みながらも「子どもたちの性」に真摯に向き合っている職員は少なくない。今回のアンケート調査でも、そうした職員の声が多数寄せられた。

「思春期の女性の身体を触ることに抵抗があるので、中学〜高校生の女子の靴を脱がせる介助や靴下をはかせる介助は、できれば女性職員にお願いしたい。でも、人手が足りない場合は、男性職員がやるしかない」

「女子児童の保護者から『今日は生理痛がある』という連絡があっても、具体的にどう対応すればいいか分からない。それでも、子どもたちから見れば、自分は『先生』なので、甘えたことは言っていられない。性的なトラブルに対処できないとは言えないし、言うべきでもない」

「身体の発育が早く、生理が始まったら泣いてパニックになることが予想される子どもがいたので、保護者の要望もあり、本人に対して事前に生理のことを教える機会を設けた。実際に生理が始まった時、想定していたよりも少ない混乱で済んだ。そのことが口コミで伝わって、保護者の友人から『自分の子どももお願いします』と言われたこともある」

「生理の対応だけでなく、子どもができる仕組みなどについても、踏み込んで教えた方が良いと思ったが、保護者から『そこまでは教えないで』『血が出るようになるということと、生理用品の使い方だけを教えてほしい』と言われた」

「子どもたちに教えられることはいっぱいあるようで、実は少ない。私たちは、子どもたちに対して、本当に大事な話ができているのかな・・・と考えることもあります。卒業までの時間は短いです」

「性について教えるべきなのか、それとも知らない方がいいのか、家庭で教えるべきなのか、それとも放デイで教えるべきなのか。子どもの知的レベルによって判断は変わるので、いつも迷います」

こうした回答を読むと、現場で頻発する子どもの性のトラブルに対して、限られた時間と人手の中で試行錯誤しながら、そして保護者の意向にも配慮しながら、一所懸命対応している職員の姿が浮かび上がってくる。

今必要なのは、放デイの職員だけに「子どもたちの性」と向き合う負担を押し付けずに、家庭や学校、地域で包括的にサポートしていけるような仕組みを作ることであろう。

表面化している困りごとは、あくまで氷山の一角


障害のある子どもの性に関するトラブルの背景には、以下の3つの課題がある。

1.個人的課題・・・生活習慣や対人関係の作法が身についていない、親子関係や家庭環境の問題、うつ病・不安障害などの二次障害

2.社会的課題・・・性に関する知識や対人関係の作法を学ぶ場所がない・教えてくれる人がいない、発達障害者への社会的支援の不足・無理解など

3.課題解決を困難にしている価値観や思想・・・「性や交際に関する知識は自然に身につく」という放任主義、自己責任論、公の場で性を話題にしづらい空気、性に対する忌避感や嫌悪感、障害者への差別意識など

障害のある子どもの性に関するトラブルを解決していくためには、それぞれの領域に対して、多角的にアプローチしていく必要がある。

例えば、表面化している困りごと=人前で服を脱いだり、パンツの中に手を入れてしまったり、といった行動に対して、「性に関する科学的に正しい知識を教える」という正攻法を取ったとしても、「そもそも生活習慣や対人関係の作法が身についていない」という個人的課題、「それらを学ぶ場所や機会、教えてくれる人がいない」という社会的課題、そして「公の場で性を話題にしづらい空気」が根強く残っている場合は、焼け石に水で終わってしまう可能性が高い。

そのため、発達支援(療育)を通して生活習慣や対人関係の作法を学び、専用アプリなどのICT(情報通信技術)の活用で障害特性に基づく困難をカバーし、医療的なケアを通して本人の心身の状態を整え、親の会や当事者の自助グループ、NPOなどが「学ぶ場所や機会」を創出し、メディアでの啓発や情報発信を通して「公の場で性を話題にしづらい空気」を変えていく、という多元的なアプローチが必要になる。

実は近所や町内で起こっている身近な問題だということ


放デイの事業所数が急速に増加する中で、福祉とは全く無関係な異業種にいた人たちが、経営者や指導員として携わるようになった。その過程で、これまで福祉職が長年黙認あるいは放置してきた障害児・者の性に関する問題が、現場の課題として表面化するようになってきている。

近所で放課後等デイサービスの開業が相次ぐ状況を見て、「自分の住んでいる地域に、こんなに多くの障害のある子どもたちが暮らしていたのか」と驚いた方も多いはずだ。

見方を変えれば、放デイが全国各地に広まったおかげで、障害者の性に対する認識が「人里離れた山奥の障害者施設内で起こっている、遠い世界の問題」ではなく、「自分たちの近所や町内で起こっている、身近な問題」へと変化している、と捉えることもできるだろう。

性に関する問題は、自分自身、他人、そして社会とのコミュニケーションに関する問題である。性に関する知識やスキルがない、ということは、自分自身、他人、そして社会とのコミュニケーションをうまく取れなくなってしまうことを意味する。

そう考えると、障害のある子どもたちに性に関する知識やスキルを身につける機会を保障することができれば、不幸な被害を減らすことにもつながるだけでなく、子どもたちの将来にとって、そして私たちの社会全体にとっても、大きな財産になるはずだ。

放デイの現場で起こっている性のトラブル、そして、それらを解決していくことの必要性について、今後、世間の関心が高まっていくことを期待したい。

※本稿は、『パンツを脱いじゃう子どもたち-発達と放課後の性』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

「障害」をもっと詳しく

「障害」のニュース

「障害」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ