宮沢和史&又吉直樹が語り合う 表現者としてのお互いへの視線、勝敗がない言葉との格闘

11月16日(土)8時0分 オリコン

言葉について語り合った宮沢和史と又吉直樹(写真:西岡義弘)

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 シンガー・ソングライターの宮沢和史と、芸人で小説家のピース・又吉直樹。一見、交わりそうのないフィールドで活躍する両者を深く結びつけているのが「言葉」だ。2人は10月18日に東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールで開催された『宮沢和史・デビュー30周年記念コンサート 〜あれから〜』で、宮沢のソロ曲「ゲバラとエビータのためのタンゴ」のポエトリーリーディングを披露。異彩を放ったその一瞬の世界観は、多くの観客の心を震わせた。

 今年デビュー30周年を迎え、より精力的に音楽活動を繰り広げる宮沢と、人生すべてにおいて宮沢の言葉に多大な影響を受けてきたという又吉に、今回のコラボレーションと、表現者としてのお互いへの視線、意識について、たっぷりと語り合ってもらった。

■2人で詩を読んだ会場に激烈な磁場が生まれた(宮沢和史)

【宮沢和史】又吉くんに出演してもらったのはアンコールの一発目。それまでライブも2時間半くらい進んでいたんだけど、あの場面が一番強烈だったという人が多いんですよ。
【又吉直樹】あの夜はなかなか眠れなかったです。宮沢さんと一緒にステージに立てたうれしさや緊張感もさることながら、すごい詩を読んでしまったという余韻で。

【宮沢和史】今年5月にも一度、2人であの詩を朗読しているんです。そのときもすごく評判がよかった。ただ、2001年に発表している曲なので、今回は内容を2019年度版に全部書き直させてもらいました。やっぱり又吉さんは“言葉の人”なので、2人でこの詩を読んだらきっとあの会場に激烈な磁場が生まれるんじゃないかとイメージして。やってみて実際そうでした。

【又吉直樹】僕は中学の頃からTHE BOOMのファンですけど、2001年度版のあの曲にも多大な影響を受けました。「ああ、宮沢さんはこういうふうに世界を見ているんだ」ということがすごく刺激的で、頼もしくもあって。
【宮沢和史】あの歌詞はメモ代わりというか、現実で起こっていることを記憶しておくために書いたものなんです。ただ、あくまで僕が切り取った「現実」ですし、意見はいろいろあっていい。だから又吉さんにも、もし賛同できない部分があったら読まなくていいし、正直に言ってほしいとお伝えしました。

【又吉直樹】僕は、そのまま読みたいと答えました。古本には、前に持っていた人の傍線が引かれていることってあるじゃないですか。あれ、けっこう気になるんですよね。なんでこの人はここに線を引いたんだろう? って。で、読み進めていくと、その本の読みが自分が思っていた以上に広がる。「ゲバラ〜」もそれと似た体験をした感覚がありました。しかも、それがすごく信頼している宮沢さんの切り取った“現実”だったから──。僕も20年舞台に立っていますけど、久々に足が震えました。あの「ゲバラ〜」の2019年度版はリリースするんですか?

【宮沢和史】今後どうするかははっきり決めていないけど、現時点では又吉くんと読むためだけに更新したバージョンです。
【又吉直樹】じゃあ、30周年コンサートにいた人はものすごく貴重な体験をしたわけですね。
【宮沢和史】僕は歌手がメインだけど、言葉はずっと大切にしてきたつもり。だからあのコンサートは言葉と取り組んできた30周年でもあったんです。そのひとつの集大成に、“言葉の人”である又吉さんが付き合ってくれて、本当にありがたかったですね。

■社会の常識とされていることを疑う視点を教えてくれた(又吉直樹)

——又吉さんは、姉の影響でTHE BOOMを聴き始め、「宮沢さんの歌詞で言葉を覚えた」とのことですが、芥川賞作家の源流ともなった“言葉”とは?
【又吉直樹】文章を書いていると、「これは宮沢さんの影響やな」と思うことがよくあるんです。たとえば「有罪」(13thシングル/93年発売)は、初めて聴いた中学生のときは歌詞のメッセージは読み取れなかったんです。それでもすごく脳が揺さぶられる感覚があって、何度も聴くうちに自分なりにたどり着いたのが、常識というのはひとつの可能性に過ぎないんだということ。そんなふうに社会で常識とされていることを、一回疑ってみる視点を教えてくれたのが宮沢さんだったんです。

【宮沢和史】「有罪」も初期の曲ですけど、初期のものは今読み返すと稚拙だなと思うこともあるんですよ。だけど逆に、今ではもうとても書けない歌詞だったりもする。ドブ板の隙間から世の中を見ているような、バイト先の厨房の裏口から空を見上げているような、独特の位置感覚があるというかね。

【又吉直樹】影響を受けた曲はいくつもあるんですけど、「いつもと違う場所で」(23thシングル/00年発売)の歌詞は、最初から最後まですべての言葉が好きで、とくに後半の<僕のこの小さな命がほんの少しだけ地球を回してることに気づき>というところは、すべての人に聴いてもらいたいです。ただきれいな言葉だけだと届かないものが、詩になると徐々に言葉と自分が信頼関係を結んでいけて、いつしか言葉と自分が同化したような感覚になるというか。それが宮沢さんの歌詞の力だと思います。

【宮沢和史】そう言ってくれるのはうれしいんですけど、昔はあまり自分の書くものに自信がなかったんです。こういう歌詞が書きたいんだという理想があって、ひたすら言葉と格闘していた。そうすると前に書いた歌なんて歌いたくもないし、忘れてほしいくらいに思うんです。でも、それももう何周もしたというか、言葉との格闘には勝敗がないってことに気づいたのかな。ようやく各時代に書いた歌詞が、愛おしく思えるようになりました。そもそも発表したものは撤回できないしね。小説もそうですよね。又吉くんは、たとえば刊行した小説で、あとから「こう書けばよかった」と思うことってある?

【又吉直樹】あとになって語り足りなかったと思うことはありますけど、あのときはこういう感情だったから仕方ないと割り切っています。たとえば、『火花』で<生きている限りバッドエンドはない。僕たちはまだ途中だ>と書いたんですけど、その言葉って結局はどこまで行ってもハッピーエンドとバッドエンドに縛られていると気づいたんです。だけど、劇的な人生の瞬間よりも、実はその先のほうが圧倒的に長い。そこを書いてみたいと思ったのが最新刊の『人間』なんです。劇的な挫折を経た人間が、当時のことをどう消化して、何を考えて今を生きているのかということを描いています。

【宮沢和史】表現者になりたくてなれなかった“かつての若者たち”の物語ですよね。今まさに読んでいるところですが、とても興味深い。
【又吉直樹】そんなふうに、前作で書ききれなかったことが、次作を書くモチベーションになってるところはあるかもしれないです。
【宮沢和史】そこはすごく近いです。あのときはこういうふうに表現したけど、「ちょっと待てよ、これだけじゃ言い足りなかった」ということをまた何年後の作品で書くという、点と点が線になっていくようなものの作り方というかね。ただ、音楽と違って小説はバンバン書けるものでもないだろうから、よりじっくりとした言葉との格闘になるんだろうなと想像します。音楽であれば年に10数曲は発表できるんですけどね。

■今は30年間で一番肩の力が抜けていて、なんでも書ける感覚がある(宮沢和史)

——宮沢さんは2016年に体調不良で音楽活動を無期限休止していただけに、今年5月のソロアルバム『留まらざること 川の如く』リリースはファンを歓喜させました。
【又吉直樹】アルバムに収録されている「歌手」を聴いたときに、THE BOOMの「手紙」(27thシングル/95年発売)を思い出しました。いつか自分の伝えたいことを具現化してくれるロックンローラーが現れたら、マイクを置くかもしれないということが歌われている曲です。ファンとしては「そんなときは来ない!」という心境で聴いていたんですけど。それから25年近く経って「歌手」を聴いて、「ええ、どうしよう……」と思ったんです。「歌手」って、自分はもう歌手じゃないんだ、ということを歌っているじゃないですか。

【宮沢和史】歌手を引退した数ヶ月後に書いた歌詞だったんです。もう人様に見せることのない歌詞なのにも関わらず、気づいたらメロディに乗せやすいように書いている(笑)。
【又吉直樹】そう! お会いしたときに「こんな歌詞なのに、結局は歌いやすいように書いていた」というエピソードを聴いて、それでまた「手紙」を聴き返して、それこそ点と点が結びついて、すべてが必然性のある言葉と感情で繋がっている! と解釈しました。

【宮沢和史】感情もそうだけど、昔はどんなに言葉と格闘しても「歌手」みたいな歌詞は書けなかったし、歌えなかった。でも今は30年間で一番肩の力が抜けていて、なんでも書けるという感覚があるんです。
【又吉直樹】だからやっぱり宮沢さんはどこまで行っても歌手なんです。たとえペースはゆっくりになっても、それこそ歌わなくなっても、歌手を引退なんてできない。そのことにすごく感動したし、うれしくなりました。

■いろいろな場で言葉をアウトプットしてほしい(宮沢和史)

——宮沢さんと又吉さんを結びつけるもうひとつの要素に「沖縄」という土地があります。不朽の名曲「島唄」(11thシングル/93年発売)に止まらない宮沢さんと沖縄との関わり。そこには2人の共通点でもある「言葉」が深く関係しています。
【宮沢和史】先日、エイサーのチームと一緒にインドに行ってきたんですけど、もうめちゃウケでしたね。インドの若い子たちもステージに上がって、みんなでカチャーシーを踊りまくり(笑)。沖縄の国際性や底力を改めて思い知らされました。

【又吉直樹】僕の祖母は100歳で、もうあまり動けないんですけど、親戚が集まって誰かが三線を弾くと、キレよくカチャーシーを踊り出すんです。またそれがカッコいいんです。
【宮沢和史】思うに琉歌(沖縄諸島の伝統的な詩)のリズムじゃないかと。和歌は七五調だけど、琉歌は八八八六調で読み始めが裏拍から入る。すごくリズミカルなんです。音楽というのは裏拍の文化なので、どこの国に行ってもウケるんですよ。
【又吉直樹】琉歌はまだ触れたことがないんです。勉強したいと思ってはいたんですが。

【宮沢和史】僕も最近ようやく琉歌を書くことに挑戦しているところなんですが、又吉さんにもぜひ琉歌を書いたり読んだりしてもらいたい。もちろん小説は今後も書き続けるでしょうけど、一緒に朗読して、やっぱりステージに立つだけで発する存在感があると思ったし、何より“言葉の人”ですから、いろいろな場で言葉をアウトプットしてほしい。なかでも、たった30文字で沖縄のあらゆる事象が表現できる琉歌という言葉と格闘する又吉さん、そんな姿をイメージするとワクワクします。
(文:児玉澄子/写真:西岡義弘)

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