中国人技能実習生が逃亡し不法就労者「黒工」になるまで

11月16日(金)7時0分 NEWSポストセブン

ネットの中国人不法就労者コミュニティには工事現場から中華料理店までさまざまな求人がある

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 2018年6月現在、在日中国人の総数は74万人。うち不法滞在者は9500人ほどとされ、彼らの大部分が「黒工」(ヘイゴン)と呼ばれる不法就労者となっている。もっとも日中間の経済格差が縮小した昨今、当初から不法就労を目的に来日する中国人はほとんどいない。黒工たちの多くは、劣悪な労働環境や低賃金が指摘されている外国人技能実習生が就業先から逃亡したパターンか、留学生がオーバーステイしたパターンである。日本人の目には決して見えてこない、在日中国人社会の最末端にうごめく人々の姿をルポライター・安田峰俊氏がお伝えする。


 * * *

「ネットの黒工コミュニティに求人投稿を出したのは事実です。ここは田舎で、働いてくれる中国人がいない。コックでもホールスタッフでも人手が欲しかった」


 千葉県東部、九十九里浜の近くに建つ格安中華料理店で、40代の中国人女性店長はそう話した。周囲には田園地帯が広がり、店の外に出ると堆肥の臭いがプンと鼻を突く。


 近年、地方の国道沿いなどに、原色のどぎつい看板を出す中国人経営の格安中華料理店が増加している(台湾料理を名乗る例も多い)。遼寧省出身の彼女の店も同様で、倒産した定食屋に居抜きで入居。一家が住み込みで経営していた。


 私が店を知った契機は中国のチャットアプリ『QQ』だ。店長はなんと、不法滞在者が集まる複数の在日中国人コミュニティに、堂々と店名を出して求人を投稿していたのである。



「募集に応じた人はいなかった。うちの店は実際には黒工を雇っていません」


 取材に対して、彼女はそう嘯いてみせた。店内のメニュー表には「台湾ラメン」「カレ炒飯」と怪しい日本語が殴り書きされ、中国人なのに漢字すらも極端にヘタである。中国の貧困層には文字を書く習慣が少ない人も多い。不法就労者と接点を持つ在日中国人もまた、社会の周縁にいる存在なのだろう。


「俺は黒工になる前は技能実習生だった。中国側のブローカーに『日本で実習生になれば3年間で35万元(約567万円)を稼げる』とウソを言われ、連中に100万円の仲介料を支払って15年に来日。千葉県の機械工場で働いていた」


 埼玉県西川口の中国人街で暮らす張岳(仮名、27歳)は取材にそう話した。江蘇省出身の彼は来日2年後の正月、買い物に行くフリをして技能実習先の会社を逃亡。不法就労者になった。


「虐待などは受けていなかった。逃げた理由は、中国側での説明と違い月収10万〜15万円程度と賃金が安すぎたことと、一時帰国が認められなかったことだ」


 技能実習生は生活の管理が厳しく、休暇時の短期帰国が認められなかったことが大きな理由だったという。張は中国に妻と幼い娘がおり、実習期間中の3年間、1度も家族に会えないまま低賃金労働を強いられ続けることが不満だった。


 現在、「黒工」となった張は東京近郊の工事現場や解体現場、食品工場などで1週間〜数か月程度の短期労働を繰り返し、技能実習生時代の倍となる月収20万〜30万円を稼いでいる。仕事は『QQ』のコミュニティに投稿された求人に応募すればすぐに見つかるという。



「東京五輪の関連施設の工事もある。ただ、20年の開催に間に合わせるために日程がタイトで激務らしく、俺は避けるようにしている」


 西川口では在日中国人のブローカーを通じて、別名義で木造アパートを借り、仲間の黒工たち5人と暮らしている。隠れ家の写真を見せてもらうと、近年の中国の若者の価値観の変化を反映しているのか、室内は意外と清潔だった。


「中国国内でも、上海で宅配便の仕事をやれば月収1万元(約16万円)以上は稼げる。日本は物価も高く、黒工になるのは決して得じゃない。俺たちは技能実習先を逃げ出したから、仕方なくやっている」(張)


【PROFILE】安田峰俊(やすだ・みねとし)1982年滋賀県生まれ。ルポライター。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。最新刊に『さいはての中国』(小学館新書)がある。


※SAPIO2018年11・12月号

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