【インタビュー】安達祐実の強いマインド “悪口やエゴサ”見えない相手を乗り越えて
2019年11月18日(月)8時15分 シネマカフェ
エイジレスな安達祐実、「本当に“強い”とはよく言われる」
「私、こだわりも、ルーティンも、ゲン担ぎも本当に、ほぼないんです。仕事に関しても、“楽しく”。人によっては“現場で和気あいあいとやるものじゃない”という考えもあるかもしれないですけど、せっかくやるなら私は楽しくやりたい、というくらい…がこだわりですかね? みんなで楽しく、気持ちよく仕事できるように」。
「小さいときは、もちろん自分で雰囲気作りをする立場になかったというか、できなかったというか。けど段々大人になると、年齢的にも下の人たちばかり、ということになってきて。自分がその場の空気を作れるような場面もちょこちょこ出てきて、うまく回っていけばいいなと思います。“そんな年になったんだなあ”と思いつつ(笑)」。
年端もいかない子どもの頃から、演じる世界に身を置いた安達さんの言葉は、経験に裏打ちされながらも、実に軽やかだ。出演作はドラマ、映画、舞台と枚挙にいとまがないが、 その数と同じだけ、演じる責任も負ってきた。
プレッシャーに押しつぶされる夜はなかったのか? 「もう女優なんて嫌だ」と思うことはなかったのか? 人目や作品の評価が気になって仕方がないときだってあるのでは?——次々に浮かぶ質問を一蹴するかのように、安達さんは「本当に“強い”とはよく言わるんです」と、さらりと話す。
「こうやってインタビューをしてもらう機会があるので、昔を思い返すことはあります。私…、どんどん気楽な人間になっていっているのかも、と思いますね(笑)。例えば、作品をやったら“どう見てくれているんだろう?”と気になりますから、エゴサーチもするんです。よくないことも書いてあるんですけど、それを受け入れる準備は全然できているというか。指摘されても“そうか! あ、次からはこうしてみようかな”って思うんです。落ち込むとかではなく、“じゃあどうしようか”と考え方が建設的になっています」。
「すれ違うだけの人から悪口を言われたり、頭をはたかれたりすることもあった」
かつて、安達さんが主演したドラマ「家なき子」が一世を風靡した。本放送時の1994年には、SNSはもちろん、インターネットが流通していない時代。だからこそ、過去に起こった、こんなエピソードも聞かせてくれた。
「『家なき子』をやっていたときは、まったく知らない、本当にすれ違うだけの人から悪口を言われたり、頭をはたかれたりすることなんかもありました(苦笑)。…だから “大体の人がこう思っているのかな”とわからなかった時代のほうが、私にとっては怖かったです。自分の置かれた立場を確認していたいタイプなので、いま(SNSなど)は便利だし、すごくありがたいなと思って使っています。けど、それに翻弄されちゃうと怖いと思いますけど」。
自分のことを見つめ直す目、他人から見られる俯瞰の目、両方の目をバランスよく養っているからこそ、受け入れながら進んでいくことができるのだろう。自己分析の通り、「強い」人だし、「強くなった」人でもある。
「俳優業は待つ仕事というか、オファーをいただいて、やれるかどうかなので“どっちに転がっていくかな?”くらいの感じで、これからの明確な目標はありません。できるだけ続けられる限り、俳優をやっていられたらな、は思っています。ともうだいぶ長くやってきたので、本当に自分がそそられるものをやっていくのでいいんじゃないかな、といまは思っています」。
そして、プライベートでは、「東京出身ですし、自分のことをものすごく都会育ちだと思っていたんですけど、ここ1〜2年は地に足のつけた“老後に向けて…”みたいな気持ちが実はすごく強くて(笑)。穏やかに年を取っていけたらいいなと思っているから、ものを大切にしたり、おうちのことをきちんとやって、お掃除して、ごはんを作れるときは作って、子どもとの時間を楽しんで、草花を愛でる、みたいな生活をしていきたいです(笑)」。
「家無し子でーす」の台詞には「いいのかな?と思いながら(笑)」
安達さんの2019年劇場映画ラストを飾るのが、日本語版の吹き替えを務めた『ゾンビランド:ダブルタップ』だ。2009年に公開され、スマッシュヒットを放った『ゾンビランド』の10年ぶりの続編となった本作では、人食いゾンビで埋め尽くされた地球で唯一生き残ったタラハシー(ウディ・ハレルソン/小山力也)ら4人組の、その後が描かれる。
近年、流行りの「ゾンビもの」について、安達さんは「何回か観たことはあるんですけど、グロテスクな描写がそんなに得意ではなくて、“怖い、どうしよう!”と思っちゃう(笑)。でも、『ゾンビランド:ダブルタップ』は、ちょっと違いますよね。ドキドキ感もありながら、楽しく観られるので私の中では“ゾンビもこんな風に楽しめるんだ!”と、新たな発見でした。相当面白かったです!」と嬉々とした表情になり、身を乗り出した。
安達さんが担当した人物はと言うと、本作より登場したブロンドの明るい、ちょっぴりおバカキャラの生き残り・マディソン(ゾーイ・ドゥイッチ)だ。「最初、台本を家で読みながら練習しているときは、ストーリーに没頭するのではなく、“…できない、難しすぎる役!”と思いました。私自身にまったくない要素がたくさんあるので、テンションの持っていき方が難しかったですね」と安達さんは苦労を口にする。しかし、実のところアテレコはスムーズに進み、「さすが」という空気になったという裏話も。
「いえいえ! 日本語で吹き替えるのは、普通のお芝居と全然違うので本当に難しかったです。ただ、声をあてていくと、ちょっとずつ一体化してきて親近感が湧いてくるんです。全然自分じゃないのに、自分みたいに思えてくる感じがあって、すごく不思議でした」。
通常、字幕版と日本語吹替版では英訳が異なるもので、本作でも安達さんが「家無し子でーす」という、まるで「家なき子」オマージュのセリフと思わしき箇所が吹替版のみで楽しめる。「このセリフ、いいのかな? と思いながら発しました(笑)。改めて聞くと、ちょっと私の声の戸惑いが見えると思います」とのこと、安達さんの声のほんのわずかな変化も、お楽しみポイントだ。