実名で「拡散希望」したらデマだった… 余計な義憤を抱く愚

11月18日(月)16時0分 NEWSポストセブン

記者会見する元愛知県豊田市議の原田隆司氏(時事通信フォト)

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 何か事件が起きると、それに関連した真実なのかどうかよく分からない情報がSNSをかけめぐる。デマであることも多いが、情報を拡散する人たちは、実はいろいろとピントがずれている。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、余計な義憤を持ってしまう実名のSNSユーザーの行為がいかにバカバカしいかについて考えた。


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 8月に茨城県の常磐自動車道で発生した「あおり運転殴打事件」に関連し、無関係な女性のことを宮崎文夫容疑者と一緒にいた「ガラケー女」だというデマを拡散した愛知県豊田市の市議・原田隆司氏が辞職した。原田氏は心からの謝罪を述べているが、実に迂闊なお人だ。


 今回女性がガラケー女とされた理由は、宮崎容疑者が彼女のインスタグラムをフォローしていたことと、「ガラケー女」同様帽子とサングラス姿の写真を投稿していたことだけである。「だけ」なのだ。これだけで多くの人が「こいつがガラケー女だ! けしからん!」とばかりに拡散。原田氏も「早く逮捕されるよう拡散お願いします」とまで書いた。


 女性は原田氏に100万円の損害賠償を求める通知書を送ったが、その後同氏から届いた手紙には謝罪はあったものの、賠償金への言及はなかった。督促にも応じず、原田氏が「なんで自分だけ」と話しているのを知り、提訴に至ったという。


 この「なんで自分だけ」という発言だが、「そりゃそうだろうよ」というのが率直な感想だ。だってあなた身元が割れていて、しかもしっかりとした立場の方でしょ?


 ネットの誹謗中傷やデマ拡散が厄介なのは、書き込み者の特定がしづらい点にある。以前、横浜DeNAの井納翔一投手が「嫁がブス」と匿名掲示板に書かれ、書き込んだ女性を特定し、約200万円の慰謝料と訴訟費用の負担を求めた。この時の訴訟費用は77万円だったが、これには弁護士による掲示板運営者への開示請求等の費用も含まれている。


 ツイッターや5ちゃんねる(かつての2ちゃんねる)などの運営が開示請求に応じるまでには手間も時間もかかるもの。だったら原田氏のように、住所特定が容易なデマ拡散者から賠償請求や訴状の送付をするのは至極普通の判断である。


 2011年の滋賀県大津市のいじめ自殺事件で、無関係の女性を加害生徒の母親とブログに書き、写真まで掲載したデヴィ夫人は女性から訴えられ、165万円の支払いを命じられた。この時も、「ネット探偵」が加害生徒の父親とされる男性とたまたま一緒に撮影された写真を基にこの女性を「母親」と断定。これにデヴィ夫人が釣られる形となった。


 今回のデマに巻き込まれた女性の弁護士は、今後特定できた人間に順次責任を追及していく構えのようだが、実名の書き込み者は証拠を取られていることだろう。ビクビクしながら待つしかない。


 今回原田氏は、余計な義憤など持たなければ良かったのである。ネット上の「犯人特定」ほどあやふやなものはない。根拠薄弱ながら勝手に断定した匿名の人間が垂らした壮大な釣り針にひっかかり賠償金を要求されたうえに職を失うなんてバカそのもの。あおり運転を撲滅したい気持ちは分かるが、「ガラケー女」は別にあおり運転をしていないという点でもピントがズレているのである。


●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など


※週刊ポスト2019年11月29日号

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