ボロボロのプレハブの「飯場」暮しを体験 一番きつかったこととは?

11月19日(日)11時0分 文春オンライン


『飯場へ: 暮らしと仕事を記録する』(渡辺拓也 著)


「建設労働者が寄宿する飯場とその制度は、日本の近代化のなかで形作られてきたものです。ところが、その原型となる戦前の監獄部屋(タコ部屋)を記録したものや、日雇い労働者の寄せ場などの研究のなかで、短く考察されているものは幾つかあるものの、実地に飯場へ踏み込んだうえで研究をまとめた書というのは、本書のほかに例をみないと思います」


 先日、渡辺拓也さんが出版した『飯場へ』は、フィールドワークで渡辺さんが数カ所の飯場に入って働き、そこで得た経験や観察から、様々な分析を試みた書だ。


「もともとは大阪各地の公園に点在しているテント村の研究をしていたのですが、ある時、ホームレスをしていた職人さんに“飯場に入ってみないとワシらのことは分からない”と言われたことがきっかけでした。私も飯場に入る前は、しんどそうとか、上下関係がきつそうとか、鬼のように搾取しているんじゃないか、というマイナスのイメージがありました。実際、最初に車でつれていかれたところは田んぼに挟まれたボロボロのプレハブで壁も薄く、本当にみんなここで生活をしているのかと思いました。でも暮してみれば、みんな紳士的ですし、親切で、規則正しい生活をしていて、結構楽しく生活できた。考えてみれば、飯場の経営者も、労働者には働いてもらわないとならないから、そんなあからさまに酷い場所ではないですよね(笑)」



わたなべたくや/1979年山口県生まれ。北九州市立大学卒、大阪市立大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。現在は大阪市立大学大学院都市文化研究センター研究員。専門は労働社会学。共著に『釜ヶ崎のススメ』などがある。


 第一章の「飯場日記」は、2003年夏、はじめて入った飯場での記録だ。飯場での生活や、そこから派遣された現場での職人の手伝い、慣れない土木作業への戸惑いや苛立ちなど、そのまま記されている。


「私は研究者なので、自分の感情を入れ込んだエピソードを出してよいのか迷いがあり、調査者自身の内面や立場も明かすべきだと思い切るのにだいぶ時間がかかりました。飯場での仕事で一番きつかったのは、第八章で詳述しているコンクリ打ちの作業でしたが、そこでの仲間との意思疎通の難しさなどを示す際には、ノートから感情的な記述を意図的に抽出したりもしています」


 労働者同士のコミュニケーションの問題や、思いがけず「怠けている」と他人から評価されてしまう問題などは、どんな職場にも共通することかもしれない。


「本書を1つのサンプルとして、自分の職場や仕事について、当り前と思っていることも疑って考えるヒントにして欲しいですね」



『飯場へ: 暮らしと仕事を記録する』

「飯場」の労働者は、どのような環境で働き、なにを考えて生活しているのか。文字通り近代日本を作り上げてきた飯場に、人類学を学んだ著者が、フィールドワークの一環として実際に入って働き、労働条件や仲間との関係など様々な角度から分析する。著者自身のはじめての「飯場日記」も読みごたえがある。





(「週刊文春」編集部)

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