「マイナースポーツの域を出られない」ベイスターズの前球団社長が指摘するラグビー協会の準備不足

11月19日(火)6時0分 文春オンライン

 横浜DeNAベイスターズの初代球団社長として経営を再建し、その後も日本ラグビー協会の特任理事やスポーツ庁参与(現在はいずれも退任)など、スポーツビジネスの世界で活躍を続けてきた池田純氏の著書『 横浜ストロングスタイル ベイスターズを改革した僕が、その後スポーツ界で経験した2年半のすべて 』が現在発売中。そこで今回は、著者である池田氏に、自国開催のW杯で盛り上がったラグビーの未来について率直な意見を語っていただいた。



池田純氏


◆ ◆ ◆


「これはしっかりやらないとヤバいぞ、と」


「いま、思いきり憂いてなきゃいけないはずなんです。ラグビーがこんなに盛り上がってる。素晴らしいことだけど、これはしっかりやらないとヤバいぞ、と」


 そんなふうに語るのは、横浜DeNAベイスターズの前球団社長で、退任後には日本ラグビー協会の特任理事などを務めた池田純氏だ。


 池田氏は、協会特任理事に加え、サンウルブズの理事やCBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)といった役職も経験した。だが、紆余曲折のすえ、いずれの役職からも現在は退き、ラグビー界とは距離を置いている。


 すでに部外者となった人間があれこれと問題を並べ立てたところで建設的でない、と池田氏は考えている。だから、取材者にクギを刺すように、こう前置きをする。


「もう関係のない立場なので。協会に対する批判の急先鋒になるつもりはないし、盛り上がりに水を差そうとも思いません。そこはハッキリと申し上げておきたいです」


 それでも、問いを投げかけられれば、答えは出てくる。


 外にいながらにして、見えること、わかること。なぜ「憂いてなきゃいけない」のか。池田氏の見立てに耳を傾けた。


マイナースポーツの域を出られない


「ラグビーのW杯が日本で初めて開催される。熱しやすい国民性を持つ日本人が、初めて世界最高峰の戦いに生で触れる。それによって、日本にラグビーブームとでも呼ぶべき盛り上がりが起こる。これは、予測できることでしたよね。


 そして今大会では日本が強豪国を打ち破り、過去最高成績のベスト8まで駆け上がったから、到来したブームはより顕著なものになりました。情報番組からバラエティ番組まで、代表選手たちはしばらく引っ張りだこの状況となっています。過去にも、ラグビーだけでなく、女子サッカーのなでしこジャパンだったり、去年の女子カーリングだったり、他競技も含めて、似たような光景は幾度となく繰り広げられてきましたよね——」


 W杯開催によって起きた状況を、池田氏はそうなぞった。


 たしかに、自国の選手が好成績を収めたスポーツのビッグイベント直後、日本では一時的なブームが起きやすい。閑古鳥が鳴いていた試合会場に観客が押し寄せたり、選手が人気タレントばりにテレビ画面の向こうで笑いをとったりする。


 そして、その先に何が待ち受けているのかも、池田氏のみならず多くの日本人は知っているのではないか。


 少し時が経てば、テレビ番組から選手へのゲスト出演の要請は途絶え、試合会場からは徐々に人が減り、結局マイナースポーツの域を出られない。


「ブームを、より継続的な“文化”につなげていくには......」


 皮肉にも、2015年のラグビーがそうだった。W杯で南アフリカを破り、大金星と称えられ、ブームが巻き起こったのに、日本ラグビー界は盛り上がりと引き潮にただ身を任せた。多くのラグビー関係者が苦い教訓として記憶しているはずだ。


 なればこそ、2019年のW杯はその教訓が生かされるべき機会なのだ。


 ところが、池田氏の目に、日本のラグビー界がW杯を機に巻き起こったブームを、ブームで終わらせない気概を持って動いているようには見えない。むしろ「準備不足ではないか」と首を傾げざるを得ないのだ。


「ブームを、より継続的な“文化”につなげていくには、この熱を国内リーグに波及させていくことが極めて重要です。W杯が終わった瞬間に、いや、W杯開催中からも、ラグビー界はトップリーグへとコミュニケーションを転換するべきだった」


 たとえば、と池田氏は言葉を継ぐ。



透けて見える諸々の「準備不足」


 W杯には、日本の国内リーグであるトップリーグに在籍する選手たちが数多く出場した。日本代表としてだけでなく、他国の代表としてプレーした外国籍のトップリーグ所属選手もいる。彼らが一堂に会するような、記者会見のような場を設定することはできなかっただろうか。


 彼らがナショナルチームのユニフォームではなく、トップリーグの各所属チームのユニフォーム姿で、リーグの看板を背負って立つ場を作る。そうすることで、今だからこその注目度のもとで、“にわか”も含めたラグビーファンたちにリーグの魅力を訴えかけられたのではなかっただろうか。


 だが現実には、トップリーグにからんで報じられたのは、2021年秋の開幕を目指す新プロリーグ構想などについてだ。構想——つまり、現在検討中。


 仮に、W杯を本気でラグビー文化定着の最大の好機と捉え、戦略的なロードマップの中に位置づけていたならば、大会閉幕の瞬間に「こんなリーグが始まります!」と声高らかに叫べていたのではないか。


 それができず、「いま考えている最中です」と淡々と語るしかない現実。代表選手への報奨金の捻出が喫緊の課題となり、日本代表のテストマッチの予定なども矢継ぎ早に出てこない。その一方で、来年予定されているイングランド戦については、協会の発表前にイングランドのエディー・ジョーンズHCから暴露されてしまったり……。そういうところにも、「準備不足」の内実がどうしても透けて見えてしまう。手ぐすねを引いて備えていたというより、いまになって動き出している印象を拭えない。


「考えて、発言し、行動できるリーダー。そういう存在が絶対に必要」


「これも毎年のことですが、年が明ければいろんなことがリセットされます。特に来年はオリンピックイヤー。今年、ラグビーでこんなに盛り上がったことも、徐々に新しい興奮に上書きされ、忘れ去られてしまうのではないでしょうか。


 だから、本当のリーダーであれば現状を憂いてるはずなんです。空気が切り替わってしまう年末年始までのこの限られた時間に、この熱を文化にまで持っていくには、いったい何をすればいいんだろう? って」


 この、現状を真摯に憂いている存在が見えてこないことにこそ、問題の本質がある。池田氏の言葉に力がこもる。


「選手たちががんばってラグビー熱が高まった。次にがんばるのは組織です。『よし、ここからはおれたちの番だ』って、動かなきゃいけない。でも、いまみたいに盛り上がっている時に危機感を口にしてアクションを起こすことは、組織の一構成員にはできません。それができるのは、やっぱりリーダーなんです。『おれはこんなラグビー界にしたい』『だから全責任を負ってこれがしたいんだ』『だけど現状ではヤバい』と。そんなふうに考えて、発言し、行動できるリーダー。すべてを背負えるリーダー。そういう存在が絶対に必要だと思います」


現実を知っておくことは、何より大切な「準備」


 ベイスターズの球団社長を退任後、サッカー界や大学スポーツなど、変革の意欲に応じる形で、池田氏はいろいろな組織と関わりを持ってきた。その経験を踏まえると、同じような問題が、ラグビー界だけでなく、さまざまなスポーツ界に存在するという結論に行き着く。



 変わる姿勢を打ち出しながら、いつまでも変われない組織。


 競技界を本当の意味で背負って立つリーダーの不在。


 そうした世界に対する考察と、自身の体験、そして貫いた行動哲学は、11月15日発売の『横浜ストロングスタイル ベイスターズを改革した僕が、その後スポーツ界で経験した2年半のすべて』にまとめられた。


 実際に読んでみると、正直なところ、すべてがハッピーな内容とは言えまい。それこそ憂う気持ちが強まる。だが、そうした現実を知っておくことは、何より大切な「準備」だ。


 東京オリンピックを控え、これからまさに日本がスポーツブームの最高潮を迎えるいまだからこそ、手に取るべき一冊なのかもしれない。


文・日比野恭三




(日比野 恭三)

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