柄本明「50年やっても、芝居はやっぱり恥ずかしい。この仕事は宝くじみたいなもんだから、若い人には勧めない」

11月21日(日)18時0分 婦人公論.jp


「どんな仕事でも、たいてい、《青春の誤解》から始まるものでしょう。要するに、実態を知らないまま足を踏み入れるわけだから」(撮影:大河内禎)

現在、東京・明治座で「田舎医者シリーズ」を原作とした舞台『本日も休診』の主演を務めている柄本明さん。「劇団東京乾電池」の座長として45年、団員を率いてきた。今も数多くの舞台、映画、テレビドラマに出演し、その迫力ある存在感で異彩を放っている。役者という仕事のこと、そして家族のこと——柄本さんの「今」は(構成=篠藤ゆり 撮影=大河内禎)

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「青春の誤解」が大勢集まってくる


役者を始めて、何年になるのかなぁ。自由劇場に入ったときからとすると、50年近くになるんじゃないの?

どんな仕事でも、たいてい、「青春の誤解」から始まるものでしょう。要するに、実態を知らないまま足を踏み入れるわけだから。音楽をやりたいとか、絵を描きたい、文章を書きたい、芝居をやりたい、だの……。

僕の場合もそういった青春の誤解から始まって、たまたま役者が自分の身の丈に合ったのかどうかわからないけれど、いろいろな仕事が来るようになったりして。まぁ、そんなところですよ。

僕が座長を務める劇団東京乾電池も、創立して45年になります。劇団では、僕は演出もやっていますが、「青春の誤解」がけっこう大勢集まってくる。でも、すぐに青春じゃなくなりますからね(笑)。役者として残っていく人は、ごく一部です。だって、この仕事、宝くじみたいなもんだもん。だからねぇ、芝居をやろうなんていうのは、若い人には勧めないなぁ。(笑)

やっぱり、芝居は恥ずかしいこと


基本、僕は今でも、アマチュア演劇をやっているつもりなんですよ。ただ、職業としてやっていくには、やはり映像や商業舞台にも出ないとね。

自分では、とくに忙しいとは思っていません。でも、たとえば取材で、「テレビや映画でお忙しいのに、舞台もやっていますね。本当にお芝居が好きなんですね」なんて言われるのは、イヤなんですよ。別に、好きとか嫌いとかじゃない。もちろん、嫌いではないからやっているんだけど、人前で何かやるわけですからねぇ。やっぱり、恥ずかしいことですから。

もう少し言えば、観ている人を感動させたいなんて、そんな野望を抱くわけでしょう。なんか、情けないですよ(笑)。そういう思いは、役者に限らず誰しも多少は持つかもしれないけれど、役者というのはそれが割とあからさまに見える仕事じゃないかな。そこには、自慢もあったりして。要するに、人から見られる仕事だから。それがなんか、恥ずかしいというか、いまだに慣れない、というか……。

「含羞」という言葉で表現したらいいのかな。

自分が芝居や映像を観る立場になった場合、含羞がない人は苦手ですね。「どうだ、オレは!」みたいな人は。

ところがなかには、「どうだ、オレは!」という感じが、むしろチャーミングに見える人もいます。同じことをやっても、「なんか、押し付けてくる感じがイヤだな」と感じる人と、「押し付ける感じが、かえって可愛らしいよね」みたいな人がいる。このあたりに理屈はないし、本当に難しいですね。


「家族が同業というのは難しいとも聞くけど、うちは、仲は悪くないですよ。むしろ、かなりいいほうなんじゃないかな」

みんな同じ職業になっちゃった


うちの息子(俳優の柄本佑さん、柄本時生さん)は二人とも、僕と同じ「青春の誤解」の道に入ってしまいました。まぁ、これもしょうがないですねぇ。

最近、長男の佑が『婦人公論』に出たそうで——僕にどっか似ていますか?

「自分が出た作品は観たくない」と言っていたんですか。それは、ごく普通だと思いますよ。僕も、観ないものなぁ。とくに、できあがったばかりの作品を観るというのは、どうもねぇ……。

映画に関しては、何年、あるいは何十年か経って、たとえば早稲田界隈を歩いていて早稲田松竹の看板見て、「あっ。これ、オレ出てるな」とか。そんな感じでふらっと入って観たりするのが理想かな。

昔ながらの名画座はどんどん減ってきたけれど、そういうところで映画を観るのが好きですね。僕は、趣味と呼べるものはな〜んにもないから。強いていえば、映画を観ること。昨日も3本、観ました。

結局、うちの家族は、みんな同じ職業になっちゃった。家族が同業というのは難しいとも聞くけど、うちは、仲は悪くないですよ。むしろ、かなりいいほうなんじゃないかな。

奥さん(女優の角替和枝さん)は、残念ながら2018年に亡くなってしまってね。命日が10月だったので、もう3年経ちました。不在には慣れませんねぇ。時間が薬になるとよく聞くけど、どうも、そんなことはないみたいです。いまだに慣れないというか、たぶん、一生、慣れないんじゃないかな。まぁ、僕も、もうじき死んじゃうからね。(笑)

人間のダメな部分もひっくるめて


仕事を選ぶ基準なんてものは、別に何もないですよ。ほんと、何もない(笑)。どうでもいいなんて言ったら怒られるけれど、なんだろうなぁ、こういう仕事をやっている以上、いろいろな役がやってくる。いただいた仕事を、ひとつずつやっていくだけです。

ところがこの秋に主役を務める舞台『本日も休診』は、商業演劇としては珍しく、僕が発案、みたいなことになっちゃって。原作は、見川鯛山(みかわたいざん)という、那須高原で診療所を開いているお医者さんのエッセイ「田舎医者」シリーズです。

見川さんは、代々続くお医者さんの家系に生まれ、山麓の小さな診療所で辺地医療を全うされた。僕も何度かその診療所を訪ねたことがありますけど、本当にちっちゃな診療所でねぇ(笑)。重病人は診られないから、黒磯のほうの大きな病院を紹介して、村のお医者さんとして長年つとめられた。そのかたわら、村の人たちを題材に、面白おかしく脚色したエッセイを何冊も書いたんです。

10年以上前に、知り合いが持っている那須の別荘に行った時、見川先生の本があって。別荘の持ち主は、先生に診てもらったことがある、と。読んでみたら、これが面白くてねぇ。そういえば40年ちょっと前に、森繁久彌さんがテレビドラマでやっていらしたな、と思い出しました。

見川先生は、文章のほうでは獅子文六さんのお弟子さんだったそうで、那須の自然描写もすごくいいんですよ。冬は寒くて厳しいけれど、春にはばぁーっと生命力があふれる。その様子とか、目に浮かぶようでね。

ある種の「文明批判」でもある


そして、これは森繁先生も言っていらしたけど、ちょっと色気のある話や困った人の話をユーモラスに書いているので、なんか民話のような感じも受ける。時間の流れ方も、現代とはかけ離れているというか。でも、その裏に、時代の矛盾も見えてくる。

診療所のまわりには、満州から引き揚げてきた人たちが開拓した地域があって、苦労が報われず貧しい家庭も多かった。ところが高度成長期に経済の波が押し寄せてきて、別荘地としてどんどん土地が買い上げられていく。それで急にお金持ちになっちゃった人もいる一方で、突然大金を手にしたために、かえって悲劇が生まれたり——。そんな出来事もユーモアを交えて書いているけれど、その底には、ある種の文明批判みたいなものもあるんじゃないかな。

先生本人は、「本日休診」の札をかけては、川にアユ釣りに行ったり、山に狩猟に行ったり。登場人物全員が、ちょっとダメ人間の部分があるんです。たとえば体調が悪くて「酒をやめろ」と言われているのに、相変わらず酒ばっかり飲んでは「飲んでない」とウソつく人もいる。でも大酒を飲むようになったのは、奥さんが亡くなってからだ、とか——。

ときには「あいつはろくでなしだ」なんて口調で書いているけれど、その言葉は額面通りではない。「でも、根は優しい」と思っているんですね。人間のダメな部分もひっくるめて、丸ごと引き受けている。先生は本当に人間がお好きというか、たぶん性善説の持ち主で、「人間、捨てたもんじゃない、大丈夫だ」という信念があるんでしょうね。

笑ったり、ほろっとしたり


人間ってのは、しょせん、愚かなものですよ。僕だって、愚の骨頂だと、ず〜っと思ってきました。つい上を目指してしまうのも、人間の愚かさでしょう。経済でもなんでも、右肩上がりがいいと思ってしまう。それは神様が、人間に欲望というものを持たせたから。だから、どんなお金持ちでも、現状では満足できない。これはもう、しょうがないですね。神様というのは、残酷だと思います。

その愚かなところに、ちっちゃな花が咲くというか——昭和の、山あいの村が舞台の『本日も休診』は、そんな世界観があふれていると思います。

エロスの描き方も、なかなかいいんですよ。僕はたまに、住んでいる地域の小学校で朗読を頼まれたりするんだけど、高学年には見川先生のエッセイから、ちょっとエッチなことが書かれているものを読み聞かせたりしてね。エッチなシーンもあえて端折らずに。子どもたちはみんなシーンとするというか、ピーンと張り詰めた空気になる。

今、そういう話は子どもたちにはしてはいけない、みたいな空気があるでしょう。でも、僕なんかは、ちょっと過剰に子どもを保護している感じがするんだよね。一方で、ネットでは過激なものがどんどん流通しているでしょう。なんだか、バランスがおかしくなっている気がしますね。

そんなこんなで、見川先生のエッセイは素敵だなぁと思い、舞台化することになったわけでして。笑ったり、ほろっとしたり、そんなお芝居になるんじゃないかと思います。

なにより、演じている人、作っている人が楽しくできればいいんじゃないかな。共演は笹やんこと笹野高史、ベンガルや佐藤B作など、昔からの仲間というか、戦友みたいなものだから。演出のラサール石井も、脚本の水谷龍二も昔からよく知っているし。「お願いしますよ」と話しただけで、パッと話が通じます。まぁ、なんというか、老人の同窓会みたいな感じです。(笑)

実際の見川先生は、長身で、なかなかカッコいいんです。だから僕なんかが演じるのは、本当はおこがましいんですけどね。がんばって、やらせてもらうつもりです。

婦人公論.jp

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