歌声喫茶ともしび70周年!高田馬場移転2年…コロナ禍で閉店していた「ともしび」が再オープン!ベイビーブーのホームグラウンド、68年の歴史がつながる

2024年11月21日(木)10時0分 婦人公論.jp


高田馬場駅から見える「ともしび」の看板

2024年11月222日、「歌声喫茶ともしび」が、高田馬場への移転から2年、12月には創業70周年を迎える。コロナで閉店を余儀なくされてから再オープンに至るまでを聞いたルポを再配信します。
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お客が声を合わせて店内で歌う「歌声喫茶」は、1955年前後、東京などの都市部で流行。多くの若者が集い、ロシア民謡、労働歌、反戦歌、歌謡曲、童謡などが歌われた。その後ブームが去り、ほとんどの店が閉店していく中、新宿の「うたごえ喫茶 ともしび」は多くのファンに支えられ繁盛していたが、コロナ禍で閉店を余儀なくされる。歴史の灯を消さないよう、再開に向けて奔走していた人々の熱意で、2022年11月22日に場所を移して再オープンすることが決定した。2年間の思いを、ともしびのメンバーや、かかわりの深いコーラスグループ、「ベイビーブー」に聞いた。(構成◎吉田明美 撮影◎本社 奥西義和)

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「歌声喫茶ともしび」として営業再開


新宿の地でファンに愛された「うたごえ喫茶ともしび」が新天地・東京高田馬場駅近くに場所を移して、「歌声喫茶ともしび」として生まれ変わり、営業を再開するという。

「本当に長らくお待たせしました。ようやく再開できることになってほっとしています」と語るのは店長の齊藤隆さん。オープン前夜、スタッフたちが慌ただしく準備を急ぐ中、その表情は明るい。

「歌声喫茶は新型コロナウイルスとの相性は最悪ですよ。狭い店内で隣の人と肩をふれあいながら、大声で歌を歌って、食べて飲んで心地よくなるんですから、もう手も足も出ない状態です」という齊藤さんたちは、2年前の緊急事態宣言でいったん休店。

夏からは70人の定員を20人に減らして、昼の2時間だけ限定して営業を再開したものの、やはり立ちゆかなくなり、みんなで話し合った結果、9月にはいったん店を閉めるという苦渋の決断をする。齊藤さんは「68年の歴史を持つ〈ともしび〉の灯をこんな形で消すことになるなんて、考えもしなかった。重い責任を感じていました」と話す。

まずは物件探しから始めた


閉店した時点では先が見えず、不安しかなかったという齊藤さん。「でも、どこに行ってもみなさんが『ぜひ再開してほしい』『待ってるよ』と声をかけてくださるんです。こんなに待っていてくれる人がいるのだと励みになりましたね。ご支援もびっくりするほど集まって、多くの方の熱意を感じました。いつかは再開しよう、するしかないと思って、まずは物件探しから始めました」

広さもほどよく、ピアノやアコーディオンなどの楽器演奏ができて、店内で全員で大声で歌うことが許され、70代、80代の常連メンバーも来やすいことが条件。そして家賃も折り合えるスペースを求めてまずは新宿近辺から探し始めたという。

そして、高田馬場駅から歩いてすぐの物件が見つかった。新店舗はビルの1階でエレベーターを使わずに入ることができる。防音設備を含めたリノベーションを済ませ、新宿店で使っていたピアノやテーブル、椅子などの家具はそのまま運びこんだ真新しい店内は、とても明るく、前の店舗よりも広く感じる。

この新店舗での再開をことのほか喜んでいるのが、歌声喫茶ともしびをホームグラウンドとして活動してきた男性コーラスグループ「ベイビーブー」の5人。11月22日のオープニングにももちろん駆けつけるという。

「2011年にベイビーブーのメンバーが初めて店を訪れたときのことは今でも覚えています。若い彼らはこの店に場違いで、スタッフが追い返そうとしちゃったんです」と齊藤さんは笑う。その後、ベイビーブーはこの店でかけがえのない存在となった。


5人組のコーラスグループ ベイビーブー

ベイビーブーを支えた「うたごえ喫茶ともしび」


「いやもう、初めて店内に入ったときは、その音量にびっくりしました!」と語るのは、リーダーのユースケだ。「僕らはそのころグループの方向性に悩んでいました。勉強のために〈うたごえ喫茶ともしび〉に行くことを勧められて、軽い気持ちでのぞいてみたんです」

バリトン担当のケンもカルチャーショックを受けたと振り返る。「僕らはカラオケ文化で育った。大人になってから生演奏で合唱することなんてないですからね。声量と迫力に圧倒されました」

「しかも知らない曲だったこともショックでした」というのはリードボーカルのチェリー。「店内に毎月のリクエストランキングが18曲掲示されているんですが、10曲以上知らなかった。あまりのことにあ然としました」

ベイビーブーは当時、オリジナルソングで勝負するおしゃれなコーラスグループとして活動していた。若い女性がファン層の中心だったという。

「そのころ、神戸と原宿でマンスリーライブをやっていたのですが、オリジナルと昭和歌謡のカバー曲の半々で選曲していました。オリジナルだけでは限界があったけれど僕たちが愛する昭和歌謡を増やすとファンが減っていく。この先、歌い続けていけるのか?と不安を抱えながら活動していたんです」とチェリー。「このままじゃいけないということは感じていました」

そんな中での「ともしび」訪問。メンバーそれぞれが転機を感じていた。各地で地道な路上ライブを続ける一方で、定期的にともしびに通い始め、常連になったメンバーたちは、2013年からマンスリーライブを開催するまでになる。

うまいけど、泣けないね


元来、歌声喫茶は、巷にある昭和歌謡、フォークソング、童謡唱歌、シャンソン、ロシアの歌など、様々なジャンルの歌をみんなで声を合わせて歌う空間。ベイビーブーもオリジナルではなく、カバー曲を歌うという方向にシフトしていく。

「でもそのころの僕らは、どんなポピュラーな名曲でも、僕らなりの個性的なアレンジで、おしゃれに歌うというスタイルを続けていました」というユースケ。ある日、「ふるさと」を歌った時のお客さんからの一言が、彼らを変えることになる。

「君たちの『ふるさと』はうまいけど、泣けないね」。

もしかしたら、自分たちは聴く人の思い出を壊すような歌い方をしてしまっていたのではないだろうか、本当に聴いている人たちのことを考えて歌っていただろうか、という原点に立ち戻ったベイビーブー。勉強のためにのぞいた「ともしび」は本当に彼らを成長させてくれていた。

ボニージャックスとの出会いも、ここ「ともしび」だった。店長の齊藤さんは、ボニージャックスのメンバーである故・西脇久夫さんとベイビーブーの出会いを、偶然ではなく必然だと話す。

「西脇さんは昔からのお客さまでした。いつもビールを美味しそうに飲んで、気分が乗ってくるとお客様と歌うことも。ある日、ベイビーブーのマンスリーライブに偶然西脇さんがいらして、目を輝かせて聞いていたのを覚えています」

フニクリ・フニクラの大合唱


ボニージャックスから「僕たちの後継者」と5000曲の楽譜を引き継いだベイビーブーは、ボニージャックスとともに小田原の童謡大使にも就任している。

ともしびを舞台にベイビーブーの方向性はしだいに固まっていった。とはいえ、オリジナルをしばらく封印してカバー曲を歌うことに多少の抵抗があったというのはトップ・テナーでアレンジ担当のシノブ。「どうしてもカバー曲は、〈人の褌で相撲を取る〉感覚があったんです。しばらくは音楽的な真っ向勝負をしていないんじゃないかという気がしていました」

ベース担当のユウも「たしかに最初はとまどいがありました」と語る。「でもそれが変わったのは、上野の水上音楽堂での〈フニクリ・フニクラ〉だったんです。1200人のお客さんがベイビーブーのフニクリ・フニクラを本当に満足気に楽しそうに一緒に大合唱してくださったことに感動しました」

シノブも「果たしてオリジナルでこれだけのお客さんを喜ばせることができるのかなと感じたんです。それからはカバー曲で人々を感動させよう。あたたかい気持ちを届けようと覚悟が決まりました」

20代、30代の若者も足を運ぶように


ベイビーブーはともしびを舞台に新たなファン層を開拓。ライブに足を運んでくれるお客さんも増えてきた。と同時に店側にも客層に変化が訪れる。

「ベイビーブーのおかげで若い世代が増えてきたんです」と喜ぶのは齊藤さん。シノブが音楽学校で教えていることもあり、20代、30代の若者も足を運ぶようになったともしびは、文字通り世代を超えた空間となっていた。

2017年にはオリジナルソング「ごめんね…ありがとう」と「花が咲く日は」を発売。毎月欠かさず開催を続けたライブで披露したところ、リクエストがどんどん増えていく。

「最初に知らない曲ばかり並んでいたリクエストランキングの中に、自分たちの曲が入るようになりたいという気持ちはずっと持っていました。いつかはトップになりたいとも…」と話すチェリー。

その夢は2018年にかなう。ついに「花が咲く日は」がリクエストランキングの1位に輝いたのである。そしてその記録は2019年にも続き、いったいいつまでこの記録が伸びるのかと誰もが注目する中でのコロナ禍への突入だった。

何かの形で恩返ししなくては


2020年春、緊急事態宣言を受けてともしびは休業。ベイビーブーもすべてのライブが中止に追い込まれることになる。どこにも出られず、もどかしさだけが募る中でベイビーブーはいち早くYouTube配信を始める。Twitterでは3月5日から1年以上、毎日欠かさず歌声を届けた。

明日はどうなるかわからないから、やれることはなんでもやっておこうと、不安との闘いの中での発信だった。反響は上々。ファンからの喜びの声が続々と寄せられる。

9月、「うたごえ喫茶ともしび」が閉店。機材や家具を運び出した後の店内から、ともしびメンバーの最後の配信にはベイビーブーも参加した。

「がらんとした空間からの配信が終わり、新宿店での最後の時間を皆で愛おしんでいたのを覚えています」と齊藤さん。

「僕らを育ててくれたともしびがなくなって、何かの形で恩返ししなくては、という気持ちが湧いてきました」というのはケン。

その気持ちが〈ドアを開けたら 聞こえてくる〉という歌詞から始まる歌を生んだ。ケンが作詞作曲した「みんなのメロディー」。これをシノブがアレンジしてベイビーブーが歌い、ともしびにプレゼントしたのだ。

若いスタッフたちの支え


「『みんなのメロディー』が配信されたときは、感動しました」と齊藤さん。「動画の間に、『ともしび』の写真も出してくれて、本当に励まされた。そこについているコメントも、再開を待っているというものばかりでした」

「ともしび」の新宿店はなくなったが「歌声喫茶ともしび」としての活動は、「出前うたごえ」や「うたごえライブ配信」という形で続いていた。その配信を支えてくれたのは、ともしびの若いスタッフたちである。

母親がベイビーブーのファンだったという諒佑くんは、常連から転じてスタッフとなった。「コロナ禍になって、なんとかしたい、ライブ配信の可能性があるならがんばりたいと思ったんです」と今では欠かせない人材となっている。

「ともしびは、店長の齊藤さんはじめ、みんなが僕たちにやりたいことをやらせてくれる。ダメなときはダメだと率直に伝えてくれる。とても居心地がいいです」

短大時代、偶然、ベイビーブーの路上ライブに出会ったというきのぴーさんも「みんなで歌うって素敵なことだって、ここで教えられました」と話す。

「その日はたまたまいやなことがあったんだけど、ベイビーブーの歌に助けられたんです。だからベイビーブーが出ているというともしびに行ってみようと思ったけど、すっかりはまって、ベイビーブーがいない日にも来るようになった。アルバイトを始めてもう3年になります」と笑う。

歌声喫茶ともしびでは、自然発生的に若者のサークル「ぱれっと」もできた。メンバーは12人あまりいるという。

みんなで歌えば、優しいうたになる


いろいろな人の力を結集させて、ついに11月22日に再スタートのテープが切られる。当分は、マスク着用、定員の半分以下、入れ替え制でのスタートだがすでに予約は続々と入っているという。

「再スタートにあたって歌集をリニューアルしたんです」と齊藤さん。これまでは緑の歌集と赤の歌集の2本立てだったが、緑の歌集はそのままに、もともと209曲収蔵されていた赤の歌集からリクエストがなかった数曲をカット、新たに90曲をプラスして、青の歌集として生まれ変わった。


再オープンに合わせて歌集も新しくなった

歌声リーダーの清水正美さんは「人気の昭和歌謡がたくさん加わりました。「パプリカ」など新しい歌も入っています。プラスするにあたっては、若いスタッフの意見を聞き、みんなで時間をかけて検討を重ねました。すべてみんなで全部歌ってみて、それから決めたんです」と話す。

その新たな青い歌集の1ページ目を飾るのはケンが作詞作曲した『みんなのメロディー』である。「ベイビーブーの皆さんがプレゼントしてくれた『みんなのメロディー』を、「新生ともしび」のテーマソングとして第1曲目にしました。この歌の中に歌声喫茶の醍醐味が込められています。これからもずっと皆さんと歌っていきたいです」と齊藤さんは話す。


ケンがともしびの為につくった「みんなのメロディー」。次のページは、ベイビーブーにオリジナル曲「こころの旅」の詞を提供している五木寛之氏が手掛けた手掛けた「青年は荒野をめざす」

オリジナルノンアルカクテルもできた。下のほうに沈んだ赤いシロップの上に青いソーダが浮いている。これは歌集が赤から青に変わったことを表しているという。ベイビーブーのメンバーはこの日初めて試飲。「おいしい!!」と評判は上々だ。

私たちの生活を一変させた新型コロナウイルス。「みんなで声を揃えて歌を歌う」というただそれだけのことさえ、ままならない日々が続いた。しかし、私たちは少しずつ共存する術を探ってきた。2年の時を経て再生する「歌声喫茶ともしび」。高田馬場は待ち望んでいたファンの聖地となるだろう。

ベイビーブーもまたクリスマスコンサートを始め、さまざまなライブで歌声を届けながら、ともしびに、また通えると喜んでいる。

その原点は、みんなで声を揃えて歌うこと。みんなで歌えば、優しいうたになるから……。

婦人公論.jp

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