沢尻エリカ降板&再撮 大河ドラマ演出家が語る「現場はかつてないほどの大混乱」

11月23日(土)11時0分 文春オンライン

沢尻エリカ逮捕 「大河ドラマ撮り直ししなくてよい!」が多数派 その理由とは?——アンケート結果発表 から続く


 沢尻エリカ容疑者の逮捕を受けて、撮影が進んでいたと伝えられていた来年放送予定の大河ドラマ『麒麟がくる』の「代役を立てての撮り直し」が21日に正式発表された。


 この決定に先駆けて、『文春オンライン』では「<緊急アンケート>沢尻エリカ逮捕の波紋 大河ドラマ『麒麟がくる』の撮り直しに賛成? 反対?」を実施。「撮り直しすべき(賛成)」が48.1%、「撮り直ししなくてよい(反対)」が51.9%と、「撮り直ししなくてよい」が上回る結果となった。( #1で全ての結果を公開中 )。



麻薬取締法違反の容疑で逮捕された沢尻エリカ容疑者 ©getty


 大河ドラマの演出経験があるNHK出身の映画監督・大友啓史さんにこの結果について感想を聞いた。


 大友さんは、NHKドラマ『ハゲタカ』や朝ドラ『ちゅらさん』の演出、2010年には史上最年少の若さで大河ドラマ『龍馬伝』のチーフ演出を務め、2011年に独立。来年には、芥川賞原作映画『影裏』や、人気シリーズ『るろうに剣心』新作の公開を予定している。


 ◆◆◆


「撮り直ししなくてよい(反対)」が多かったことは少し意外です。それは「撮り直すor撮り直さない」という問題以前に、「法律に触れる罪を犯してしまった人間を、これから放送する番組に出すわけにはいかない」という判断が、当然であると考えるからです。



 映画など出資を募って制作した作品で、再撮影のための資金を用意することが容易ではないとしたら、当事者が様々なリスクや批判を覚悟のうえで公開に舵を切るという判断も考えられなくはないでしょう。一方で、NHKは国民の方々からの受信料で成り立っている「公共放送」です。「公共のための放送」という視点から考えると、他の映像作品と横並びの判断はできません。


 今回の沢尻さんの件は視聴者も大きな関心を持っているでしょうし、近年社会問題化しているドラッグに関する件ですから、よりセンシティブにならざるを得ないと思います。


 ただし、これまで何度か大河ドラマ(『秀吉』、『龍馬伝』)の演出に携わった現場の人間として言わせてもらうと、撮り直しなんて「ふざけんなよ!無理だよ、そんなの!」とか、「何でよりによって自分の作品で」とか、誰かに泣きつきたい気持ちになってしまうのが正直なところです。



 以前に、NHKドラマ『ハゲタカ』(2007年)で、代役を立てて再撮影をしたことがあります。ですから、その大変さは理解しているつもりですが、それでも大河ドラマは別格と言っていいほど大変だと思います。しかも放送まで2カ月を切っている状況ですからね。



放送の半年以上前からスタートする大河ドラマの撮影


 まず、1年がかりの、全50回近くに及ぶ放送。当然セットも大掛かりになるし、撮影に関わるスタッフは言わずもがな大変な人数です。そのため撮影に関するスケジュール調整はすべて効率化を考えて、非常に細かく設定されています。当然俳優のスケジュール拘束期間も、民放などに比べてかなり潤沢なスケジュールを押さえることになります。私が演出チーフを担当した『龍馬伝』も撮影は1月放送開始の半年前からスタートしていました。現在では、「働き方改革」の影響で、もっと早くから撮影が始まっていると聞いています。



 例えば、沢尻エリカさんの演じていた濃姫が登場するであろう清州城のセットを想定すると、そこに関連するシーンは何週かに分けてまとめて撮り切るスケジュールが組まれているはずです。


 美術スタッフが脚本に沿ってセット図面を作り、その青図を見ながらどのような芝居を組み立てるか演出家がプランを練り、それに基づき撮影の数日前から大道具スタッフがセットの建て込みを開始、装飾スタッフや小道具スタッフが出来上がったセットに飾りこみをしていきます。そこでようやく収録する土俵が出来上がり、技術スタッフが照明機材や撮影機材を準備、ライティング(照明)などの仕込みをし、リハーサルを経て毎週3〜4日かけて、一日毎に放送の15分〜20分ほどの素材をスタジオ収録していきます。


 もちろん、シーンによっては、スタジオ撮影だけではなく、遥か遠路でのロケ撮影もあります。そうした撮影を重ね、その後、編集、ダビングなどの作業を経て、一本の放送回が完成します。


放送までの残された時間を考えると……


 こういった作業の末撮り上げた撮影素材が無駄になっただけでなく、再撮影のためには、ばらしたセットをもう一度組み直す作業がある。となると、10話以降の通常スケジュールの撮影と並行しながら、川口春奈さんが登場する再撮影分を、もう一度ゼロから準備していくことになります。川口さん自身のかつら合わせや、衣装合わせ、所作の確認なども含め、撮影スタッフが2班、3班同時に動かないと間に合わない。新しいスタッフや人員が、動員されることになるかもしれません。



 これは現場の制作スタッフや、もう一度同じ演技を要求されるキャストからしたら大きな負担でもあり、放送までの残された時間を考えると、現場は未だかつてないほどの大混乱に陥っているんじゃないでしょうか。



映画『億男』で感じた女優・沢尻エリカの可能性


 沢尻さんがこんなことになってしまったとは言え、大河ドラマの制作発表会見で「集大成を見せます」と意気込んでいたことを反芻すると、彼女の現場でのパフォーマンスは相当高かったんじゃないかと予想します。


 去年公開された映画『億男』という作品で、僕は彼女とはじめて仕事をしました。映像で一際栄えるその存在感と、演じるときの集中力には驚かされましたね。『パッチギ!』(2005年)という、彼女にとっての女優デビュー作以降何度か彼女を撮っている山本英夫さんがカメラマンだったので「沢尻って、すごいんですね」「そうなんだよ!」という会話で盛り上がったのを覚えています。



 彼女の俳優としての可能性や素晴らしさに触れた身としては、自分の才能に唾棄するような行動と今回の顛末に、自業自得とはいえ、本当に残念な思いと強い失望を感じざるを得ません。大河ドラマもきっと素晴らしいものが撮れていたであろうことを考えると、スタッフの悔しさと憤りの深さが想像できます。


 事実関係はこれからより明らかにされていくのでしょうが、自分が犯した行為の重さ、自分が一番輝くであろう場所で、それを支えている人たちに多大な迷惑をかけたことを、時間が経つにつれ、痛恨の思いで自覚されていくことと思います。



この危機を乗り越えて、素晴らしいドラマを見せてほしい


 それにしても、現場の人間として一番心配しているのは「モチベーション」の問題です。「すごいものが撮れた!」と思っていればいるほど、「もう一度撮り直す」というのは苦行や拷問にも近い、制作者や演出者にとってしんどいことです。


 気持ちを切り替えて撮影に挑むこともなかなか大変だと思いますが、代役の川口春奈さんとともに、スタッフ制作陣が、「沢尻さん以上にもっとすごいものを撮ってやる」という意地を発揮してほしいと、勝手ながら期待しています。


 川口さんは、時代劇が初めてであり、大河ドラマ初出演と聞いていますが、それでネガティブなことなど何1つありません。川口春奈さんにとっては、大きなチャンスでもある。初めてだからこそ、発揮できる力があると思います。スタッフやキャストの皆さんには、この危機を乗り越えて、素晴らしいドラマを見せてほしいと、一視聴者として願っています。



INFORMATION


映画『影裏』 


https://eiri-movie.com/


出演:綾野剛 松田龍平 筒井真理子 中村倫也 平埜生成 國村隼 永島暎子  安田顕他


あらすじ

今野(綾野剛)は、転勤で移り住んだ盛岡で日浅(松田龍平)に出会う。慣れない地でただ一人心を許せる存在。まるで遅れてやってきたかのような成熟した青春の日々に、今野は言いようのない心地よさを感じていた。しかしある日、日浅は突然姿を消してしまう。日浅を探し始めた今野は、日浅の父に捜索願を出すことを頼むが、何故か断られてしまう。そして見えてきたのはこれまで自分が見えてきた彼とは全く違う別の顔。陽の光の下、ともに時を過ごしたあの男の“本当”とは?


2020年2月14日(金)よりロードショー




(「文春オンライン」編集部)

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