映画「火花」が“全ての人にかかわる”理由

11月25日(土)17時0分 文春オンライン

「有無をいわせない生の舞台の、異常な魅力に取りつかれ、その虜になることがまた芸人にとって、このうえない快感でもあった。」


 ビートたけしの自伝エッセイ『浅草キッド』(太田出版・1988)の一節である。


 公開されたばかりの映画『火花』もまた、舞台の魅力に取りつかれた者たちの物語だ。原作はいうまでもなく又吉直樹の同名小説である。



©2017『火花』製作委員会


エキストラへの演出と、たけしの「有無を言わせない生の舞台」


 文春今週号には、巻頭グラビア「原色美男図鑑」に徳永役の菅田将暉、「阿川佐和子のこの人に会いたい」に又吉直樹と映画を監督した板尾創路、「ドキュメント 男の肖像」に神谷役の桐谷健太と、『火花』関連の人物が登場する。


「この人に会いたい」で板尾監督は、漫才師が書いた漫才師の物語を、「漫才師じゃない映画監督に撮らせたくないな」と思ったという。その一方で映画は役者のものなので、漫才師が主役を張るのも違うと思い、結果、大阪弁ネイティブの菅田将暉と桐谷健太が配役される。


 その菅田は劇中と同様に、相方役の2丁拳銃・川谷とふたりで公園などでネタあわせをし、また板尾監督は機会があるたびにスタッフの前で漫才をやらせる。



菅田演じる徳永の相方役を演じたのは「2丁拳銃」の川谷修士 ©2017『火花』製作委員会


 そんな菅田・川谷のコンビ「スパークス」は最後の舞台のシーンで、一発本番の撮影に挑むことになる。おまけに本物の劇場でおこなわれた撮影の現場で、板尾監督はお客さん役のエキストラに「面白かったら笑ってください。泣きたかったら泣いていいし、帰っても構いません」と伝える。たけしのいう「有無をいわせない生の舞台」をリアルに生み出そうとしたのだろう。


米朝の名言と、ボケとツッコミと客の三者による「火花」


 かつて桂米朝は、芸に悩み、ついには自ら命を断った弟子の桂枝雀の死に際して、「芸に到達点はない。あるとしたら、その日その時の客と演者の間にだけ成り立つ。焼き物なら形に残るけれど、そういうものではないのです」と語っている。



桂米朝 ©安藤幹久/文藝春秋


 落語に限らず、舞台はナマモノだ。温まったり冷めたりする、とらえどころのない客と、その温度に否応なしに影響されてしまう演者。ときに残酷な結果をもたらす修羅場に喜びや居場所を見出す者たちを描く映画だからこそ、一発本番で撮影したのだろう。そこでのボケとツッコミ、そして客の三者による刹那の邂逅がもたらす火花が本作の最大の見せ場となる。



桐谷健太が語る「誰ひとり無駄じゃない」というセリフの意味


 板尾監督は「答えのない世界に飛び込む葛藤や不安まで描ければ、漫才師だけじゃなく全ての人にかかわる話になっていくんじゃないか」と自作を語る。


 神谷を演じた桐谷健太も、役者という答えのない世界に夢をもってやってきた。18のとき、大阪から上京し、大学にいきながら養成所で演技を学ぶのである。しかしオーディションに通うもなかなかうまくは行かず、「みんなこうやって実家へ帰っていくのかな」と思いもしたと「ドキュメント 男の肖像」で振り返っている。



©2017『火花』製作委員会


 劇中、神谷は「誰ひとり無駄じゃない」と徳永に話しかける。《夢に破れ憧れの世界から退いていく者に対して捧げられる言葉》である。


 このセリフについて桐谷は語る。「あれは芸人だけでなく、かつて夢を目指した人みんなに言ってる気がするんです。でっかい花火を夜空に咲かせられる人もいれば、ちらっと一瞬だけ火花を上げて終わる人もいる。でもすべてはその火花から始まってるんだって」


芸人から俳優になった三浦誠己、将棋から映画の道へ転じた豊田利晃


 そういえば桐谷の元相方を演じたのは、芸人から俳優に転じた三浦誠己である。三浦は才能と情熱の欠如から芸人を辞めると決意する。次に何をやろうかと思った時に、映画の話が来る。そして芸人を辞めた後、その映画を見た者から別の仕事が来たという。(注) その映画とは『青い春』、本作の脚本(共同)の豊田利晃が監督する映画ではなかったか。豊田もプロの棋士を目指し、将棋の奨励会に所属していたが、その道を絶ち、映画の世界に来たのであった。



芸人から俳優に転身した三浦誠己(右) ©2017『火花』製作委員会


 予告編でも使われる、漫才の魅力を説くセリフ「この壮大な大会には勝ち負けがちゃんとある。だからオモロイんや」。答えはなくとも勝ち負けはある。そうであるがゆえに切りがないほど悩みもするし、自分で自分を見限りもする。


 なるほど漫才師だけでなく全ての人にかかわる話だ。


(注) 「三浦誠己、千原ジュニア慕う"鬼軍曹"の過去 - お笑い芸人から俳優への転身秘話『本質と才能と情熱』」



INFORMATION

大ヒット公開中 ©2017『火花』製作委員会


火花


監督 板尾創路

原作 又吉直樹

出演 菅田将暉、桐谷健太、木村文乃




(urbansea)

文春オンライン

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