【インタビュー】オンラインシアター始動 別所哲也が提唱する「ライフスタイルとしてのシネマ」

2017年11月27日(月)19時0分 シネマカフェ

「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」の代表を務める別所哲也

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2008年2月14日のバレンタインデー。短編映画を専門とする映画館「ブリリア ショートショートシアター」が横浜みなとみらいで産声を上げた。

この時期、各地に続々と複数のスクリーンを有する“シネコン”がオープンし、その陰で、かつて一世を風靡したミニシアターが冬の時代を迎えようとしていた。

「時代に思い切り逆行してましたね。業界内でも『何考えてるの?』って言われましたよ(笑)」

「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」の代表として、映画館の開館に深く携わった別所哲也はそうふり返る。駅から近いとは言えない立地にある、わずか1スクリーンの短編映画専門の映画館はしかし、その後10年にわたって多くの人々に愛されることになる。

そして2017年12月2日をもって、定期建物賃貸借契約の終了にともない、同映画館は10年の歴史に幕を閉じる。もちろん、ショートフィルムの灯が消えることはない。2018年2月14日には、より多くの人々にショートフィルムを届けるべく、新たにオンラインの映画館「ブリリア ショートショート シアター オンライン」が始動する。

ゼロから人々が集う場所を作り上げ、育ててきたこれまでの10年、そして、これからの10年について、別所さんに話を聞いた。

別所さんが自ら発起人となり、のちの「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」となる短編映画祭「アメリカン・ショートショートフィルムフェスティバル」を始めたのが1999年。回数を重ねていく中で、作品を出品する映画人や観客から多く寄せられるようになったのが「映画祭以外で、ショートフィルムを見られる場所はないのか?」という声。そうした要望に応えるべく、横浜みなとみらいの開発事業の一環として進んでいた映像事業誘致の計画に参画。映画祭が10周年を迎えた2008年にオープンに至った。


「映画祭が“成人式”を迎える10年後も続いていることを目標に——そんな思いで、まさに清水の舞台を飛び降りる覚悟で10年契約のハンコを押しました(笑)。当時は不安の方が大きかったですよ」。

だが、みなとみらいの巨大なマンションの2階にオープンしたシアターは、映画館として強い個性を発揮し、存在感を放っていく。

「複数のスクリーンを持つシネコンがあちこちにできることで、より多様になるはずだったのに、逆に均質化が進んだ。その中で、単館の個性的な映画があることを再評価してもらえる場所を作れたと思います。すごくマニアックな劇場になるんじゃないか? と思ったんですが、シニアの映画ファンの支持を集める劇場になったし、地方から映画ファンが足を運んでくれたり、なかなか自分の作品を上映できないクリエイターたちが集う場所にもなった」。


さらに、別所さんにとって嬉しい驚きだったのが、同劇場が地域におけるコミュニティ・シアター、住民たちのコミュニケーションの場として機能したこと。

「昔なら、井戸端や駅、神社仏閣、銭湯が街のコミュニケーションハブとして機能していたけど、映画館が地域のそうした役割を担う存在だと再認識させてもらいました。それは2011年の東日本大震災も大きく関係してます。コミュニティって何なのか? と改めて考えさせられ、防災の上での情報交換の場にもなりました。普通、映画館って週末に賑わうものだけど、地域に根付くことで、平日に地域の人がお茶を飲みながら観に来たり、子どもを預けた後で足を運んだり、平日の稼働率が上がるんです。大きな“地縁”のない新しい街だからこそ、人が人と『もっと寄り添いたい。コミュニケーションを取りたい』という力が働くんだなと感じました」。

劇場の閉館は寂しい限りだが、この10年で培ってきた経験、知の蓄積を、今度はより広い間口で、オンラインシアターという形で活かしていくことになる。

「契約が終わる10年目を前に、8年目くらいから『次の10年をどうすべきか?』ということを考えてきました。ショートフィルムを巡る環境の変化——デジタル化の浸透、課金の方法や著作権の在り方、広告のシステムなどが整ってきた中で、これまで実際の映画館で“人肌”で感じてきたことを、それが伝わりづらいとされるオンラインでチャレンジしてみるべきなんじゃないかと」。


オンラインでの映像配信としては、ここ数年で「Netflix」や「Hulu」「Amazon プライム」といった配信事業がしのぎを削り、“戦国時代”の様相を呈しているが、別所さんは、新たに立ち上げる「ブリリア ショートショート シアター オンライン」は「決して既存の配信サービスの競合ではない」と語る。

「最近、“ライフスタイルショップ(=衣食住にまつわる商品を取り揃え、生活スタイルをまるごと提案する店)”というのをよく聞きますが、僕らが提案するのは『ライフスタイルになるシネマ』。ただ作品を置くのではなく、生活の延長として、映画的な体験や情報が集約されたWEBメディアでありたい。地縁、血縁、ネット縁って言い方を僕はよくするんですが(笑)、SNSなどを通じて、いろんな経験や共感を、瞬時にいろんな人と共有できる時代です。例えば、母の日に何を贈ろうかとネットで探してる内に、そこで母の日について描いたショートフィルムに出会ったり、パリに旅行に行く前に情報を集めていたら、そこで僕らのシアターにある映画に出会ったり…映画というものとの出会いのアプローチがこれまでと違う形になっていくと思います。人々の日常に寄り添う物語を提供する、人々の生活や行動様式にくさびを打つ、そんなシアター、メディアになれたらと思います」。


“TV離れ”などが叫ばれるが、人々は決して、物語を欲していないわけではない。若者はスマホでYouTuberのアップした動画に夢中になり、レシピ動画やトリセツ動画を“作品”として楽しんでいる。古くからの映画ファン、アート志向の人々の中には「あんなのは芸術でも映画でもない」という声もあるかもしれないが、別所さんは「21世紀は“ノールールこそがルール”」と語り、警戒するどころか、新しい映像表現を大いに歓迎する。

「そういう(否定的な)声は、漫画が世の中に出始めた頃に否定したり、アニメやコスプレに夢中になることを一部のマイノリティのカルチャーだと揶揄していたのと同じだと思います。僕はYouTuberの作品やレシピ動画も物語性や共感を内包したシネマチックな可能性を感じてますし、彼らの手法がやがて映画にも取り入れられていくと思います。大げさに聞こえるかもしれませんが、そういう全てをひっくるめたビジュアルカルチャーが、今後、全ての産業を引っ張っていくことになると思います。スマホで全てを買うことができる時代だからこそ、そこに共感できる“物語”があるかどうかが大事になってくるんです」。


一方で、オンラインのみならず、“リアル”なイベントも打ち出していくつもりだ。「どんなに技術が発達して、スマホで何でもできるようになっても、人間というのは寂しがり屋だから」——。それは20年近くにわたる映画祭、そして10年におよぶシアターの運営の中で肌で感じた確信である。

「音楽産業でもフェスが盛況ですが、映画祭も“体験型”にシフトしていっているのを感じます。例えば星空の下、家族で寝袋にくるまって、川べりで橋げたをスクリーンにして映画を見る“ねぶくろシネマ”という試みだったり。昔、各家庭に風呂がなかった時代はみんな銭湯に行ってたけど、内風呂ができたら銭湯に行く必要がなくなる。それでも温泉文化は廃れないし、アトラクションとしてのスーパー銭湯のようなものができたりする。体験やアトラクションを売ることって大事です。“オフ会(※SNSなどネット上でつながっている人々が、現実世界で集まり、親睦を深めること)”ってよく言ったもので、いまの時代、まずはネットで検索し、ネット上でつながり、その後、リアルな関係性が築かれていくという、ひと昔前とはONとOFFが逆転した時代になっているけど、オンであれオフであれ、人間にお祭りと物語が必要なのは間違いない! その“場所”を常に提供し続けていきたいと思います」。

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