泡沫候補 その多くは泡のように消えない人たち

11月29日(水)16時0分 NEWSポストセブン

選挙で使われるものと同じタスキ着用の畠山理仁氏

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 選挙報道で「その他」として小さな紙面や画面にまとめて押し込められる候補者たちがいる。泡沫候補と呼ばれる彼らは、落選を繰り返してもまた、選挙に立候補する。フリーランスライターの畠山理仁氏は彼らを無頼系独立候補と呼び、その独自の戦いを『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)としてまとめ、2017年第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。畠山氏に、独立候補たちとの出会いとその魅力について聞いた。


 * * *

──先日の衆議院議員選挙のときも多くの候補者が立候補しましたが、そのなかからどうやって無頼系独立候補を探すのですか?


畠山:1180人を一人で追いかけるのは物理的に無理なので、まず、公示日翌日に新聞を広げて立候補者一覧をマーカー片手にチェックしました。無所属をあらわす「無」という字だけを追って、「同じ無所属でもこの人は元民進党だから違う」といった具合に選んで独立系無所属の人をリストアップします。リストができあがったら、その人たちが立候補している地域の選挙管理委員会に電話をして、候補者の連絡先を教えてもらい住所録をつくります。そして、片っ端から電話をかけて選挙活動の予定を聞くんです。


 それから、教えてもらった予定を見比べて、効率よく取材をして回るにはどうしたらいいかを考えます。鉄道マニアが、乗り継ぎをいかに効率よくやるか時刻表を見ながら考えますよね。それと同じようなことを選挙でやっています。というのも、なるべく多くの候補者に会えるようにするためです。国政選挙になると予定を組むのが大変ですが、楽しいですね。


──そもそも、選挙の取材にこだわるようになったきっかけは?


畠山:学生時代にライターの仕事を始めていたのですが、そのときお世話になっていた編集プロダクション代表から頼まれて、地方選挙の手伝いをしたのが強い関心をもつきっかけでした。街宣車に乗ったり、選挙事務所に刻々といろんな情報が集まり散っていく様子を見聞きしたりするのが面白かったですね。票の行方はもちろん、どこで怪文書がばらまかれたとか、その場に居合わせないと分からないことばかりでした。あのとき面白いと感じたことが選挙の原体験となっています。


──その体験は、すぐにライターとしての仕事にもつながったのでしょうか?


畠山:それがそうでもなくて(苦笑)。その後、『週刊プレイボーイ』でニュースのページを担当するようになってから、毎週の企画会議に選挙関連のものを何度も出しましたが、なかなか通りませんでした。取材をして誌面になるころには選挙が終わっているということもありますが、有名ではない誰だか分からない候補者を取材することばかり企画案にしていたからでしょう。


──なぜ、有名ではない候補者にこだわったのですか?


畠山:ネタ探しのために新聞をみると、毎週のように選挙の記事があることに気づきました。記事とはいっても一行情報のような、どこの選挙に誰が立候補しているのか記してあるだけの簡潔なものでした。でも、妙に気になることが書いてあるんです。


 無所属の候補者には、肩書きから人物像を想像しづらい人が多い。たとえば革命家、ディレッタント、路上演奏家など。そういう気になる人を見つけると、他のニュースネタに混ぜて、この候補者に会いに行きたいという企画を会議に出していました。ほとんどその企画は通りませんでしたけれど。


──仕事として独立系候補に関わるようになったのはいつからですか?


畠山:同じ『週刊プレイボーイ』で大川興業の大川豊さんが「政治の現場 十番勝負」という連載を始めるとき、取材と構成を担当するよう声をかけてもらってからです。僕がボツになる選挙ネタばかり出していたのを覚えていてくれた当時の担当編集者が、「きっと総裁と話が合うだろう」と言ってくれたんです。1998年の10月に始まった連載は、その後「政治の現場 すっとこどっこい」とタイトルを変えて結局、7年くらい続きました。このときの濃密な体験が、いまも続けている選挙取材、独立候補の方々への取材につながっています。


──大川さんは独立系候補をインディーズ候補と呼び、ライフワークのように追いかけていることでも知られていますね。


畠山:大川さんとは、いろいろな政治の現場、数多くの選挙に行きました。自民党など大手政党の立候補者だけでなく、独立候補のこともたくさん教えてもらいました。とはいえ、やはり、連載では大政党に所属するメジャーな政治家、候補者について取り上げていました。でも取材は、メジャー候補の何倍もインディーズ、独立系の候補者たちを追いかけていたんです。連載記事に出来なかった独立系候補者たちのことを、2007年に『日本インディーズ候補列伝』という本にまとめるのに関わったことで、初めて独立候補への取材が仕事として形になりました。


──当時、取材した独立系候補のなかで、とくに印象深い候補者として思い浮かぶのは?


畠山:いろいろな人が思い浮かびますが、やはり最初に紹介してもらった山口節生さんは強烈な第一印象でした。埼玉県にお住まいの、20年以上前からいろいろな選挙に立候補して、政治に関心を持って欲しいと訴え続けている人です。この山口先生によって、独立候補の凄さを知りました。


──独立系候補の凄さとは、どんなことに現れるのでしょう?


畠山:とにかく“くじけない”人たちです。世間は独立系候補に冷たいですが、それでも立候補する人は、くじけない。泡沫候補と呼ばれますが、泡みたいに消えない人たちが多いですよ。山口さんもそうで、選挙活動もゲリラ的で予測がつかないことをします。先日政界を引退した亀井静香さんの写真を、自分の選挙ポスターに使ったこともありました。


──自分以外の写真で選挙ポスターをつくってもよいのでしょうか?


畠山:本人の写真を載せなくてはいけないという規定はないのですが、普通は載せますよね。名前だけしか載せない候補はいますが、他人の写真を載せるのはかなり思い切った作戦です。公職選挙法上は問題がないとしても気になるので、「亀井さんに許可をとったのか」と聞いたら、とっていないと言うんです。選挙に、政治に関心を持ってもらえるのであれば、思いついたアイデアをとにかく実行できるのが山口さんです。


 初めて大川さんから紹介してもらった山口さんがこれだけ大胆なのだから、他の独立系候補者たちもきっと、予想を超えているだろうと思って会いに行くと、僕がそれまで思っていた常識の枠では測れない人たちがたくさんいることに気づかされました。すぐに記事にするなどの仕事になるかどうかは別として、選挙と独立系候補は抜群に面白い取材対象ですね。ハズレがありません。みんなスゴいんです。


──とはいえ、仕事になりやすいのは大政党などに所属するメジャー候補たちです。それでも独立系候補にこだわるのはなぜですか?


畠山:理由は様々あります。取材が面白くて楽しいということもありますが、色々な人が選挙に出られる状況が健全だと思うからです。彼らの場合、ユニークな行動に目が行きがちですが、訴える政策には「なるほど」とうならされることも少なくありません。当選者が、落選した独立系候補が訴えていた政策を一部で採用する例もあります。


 それに何より、選挙で独立系候補と会うたび、「こんなに自由に生きていいんだ」とエネルギーをもらっています。彼らは総じて明るい人が多く、サービス精神もあるので、真面目な顔で、周囲の人を笑わせようとする。そもそも、選挙に出るということは大変なことです。いくつもの障害を乗り越えて実現させています。だから、どんな候補者のこともバカにすることはせず、簡単に切り捨てないで欲しいです。


●はたけやま・みちよし/1973年、愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中の1993年より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。関心テーマは政治家と選挙。ニコ生ではイチローに間違えられたことも。著書に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)。取材・構成として『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著、扶桑社)、『10分後にうんこが出ます』(中西敦士著、新潮社)、『新しい日米外交を切り拓く』(猿田佐世著、集英社)なども担当。第15回開高健ノンフィクション賞受賞作『黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)が発売中。

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