外出困難なスタッフが各地からロボットを操作し、カフェの接客を。目の前に話者がいるような不思議な気分に

12月2日(木)12時0分 婦人公論.jp


明るい店内は家族連れや一人客などで盛況。ドリンク1杯からカフェメニューが楽しめる

2021年、東京・中央区にオープンして話題となった「分身ロボットカフェ」。ロボットを操作するのは、難病患者や障害などの理由で外出が困難な人たちだという。そこで働くスタッフに話を聞いた(取材・文=古川美穂 撮影=本社写真部)

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ロボットを操るのは外出が困難な人たち


「いらっしゃいませ!」

人間のスタッフと一緒に出迎えてくれたのは、直立した白いロボット。シェフスカーフを首に巻いたスタイリッシュな雰囲気で、アーモンド形の大きな目が印象的だ。

東京・日本橋のビルの1階にある「分身ロボットカフェ」。ここで働くロボット「オリヒメ(OriHime)」は、カメラ、マイク、スピーカーを搭載し、インターネットを通してコミュニケーションできる。遠隔操作する人はパイロットと呼ばれ、その多くは難病や障害などさまざまな事情で外出が困難な人たちだ。

バリアフリーの店内にはシンボルツリーや観葉植物が配され、車椅子の来店者もゆったり軽食を楽しんでいる。客席は予約推奨のダイナーとバーコーナー、予約不要のカフェラウンジの3エリアからなる。ダイナーのテーブルの上には、高さ20センチほどのオリヒメが1台ずつちょこんと載っている。

席に着くとオリヒメがパッと緑色に目を光らせ片手をあげて、「本日こちらのテーブルでオリヒメのパイロットを務めます、米重ちふゆと申します。よろしくお願いします」と明るい女性の声で言った。


ダイナーのテーブルにつくと「オリヒメ」が接客してくれる。こちらはハロウィンの装いで(写真提供:オリィ研究所)

目の前に話者がいるような不思議な気分に


横にあるタブレットに「2013年に慢性疲労症候群という難病になり、STAY HOME生活が続きました。それまでは舞台の音響オペレーターという仕事をしていました。オリヒメの向こうで笑顔で接客している私が伝わると嬉しいです」という紹介文と写真が映し出される。画面がメニュー説明に切り替わり、オーダー。料理が届くまでの間、彼女が話し相手になってくれる。

ウミガメが大好きで、病気になる前はよく小笠原へ一人旅をしていたと言うちふゆさん。
「発症は突然でした。自転車に乗って仕事に行き、帰りには漕げなくなって。病院を転々としましたが検査数値には異常がない。でも具合はどんどん悪くなり、ついに車椅子の生活に。医者にもわかってもらえないのが本当につらかったです。特効薬はないものの、新しい療法で少し状態が良くなったので、この仕事をネットで知ってすぐ応募しました」

慢性疲労症候群の患者は国内に30万人以上いるが、専門医の数は非常に少ない。現実には生活に著しく支障をきたし、約3割の人がほぼ寝たきりとなる。ちふゆさんはSNSなどを使い、病気に関する啓発活動もしているという。

会話に合わせてオリヒメが頷いたり、イルカの胸ビレのような手をひらひら振ったりするたび、目の前に話者がいるような不思議な気分になる。その動きがまたかわいくて、見ていて癒やされるのだ。

「すべて家のパソコンで操作しています。始めたばかりの頃は会話するのに一生懸命で、動きを操作し忘れたり、逆に動きに集中しすぎて無口になったりしたことも」

「人と会った」という感覚が残る


やがて、お運び担当で身長120センチほどの「オリヒメ-D」が静かにすべるようにコーヒーを運んできた。胸元にはパイロットの名前と顔写真、そして初心者マークが。注文したデザートプレートは、ふわふわのシフォンケーキ、桃とサクランボのコンポート、焼き菓子など。どれもとてもおいしい。(厨房は人間のスタッフが担当)

テーブルのオリヒメを通して会話しているうちに、あっという間に30分ほど経ち、「ではごゆっくりお過ごしください」と、ちふゆさんは別のテーブルの操作に移っていった。

私は動かなくなったオリヒメを眺めつつ、静かに感動していた。彼女が話し上手だったこともあるが、コロナ禍が始まって以来、久々に新しく人と知り合い、会話が弾んだことが予想以上に嬉しかったのだ。しかもウェブ会議とは違い、「人と会った」という感覚が残る。

今回の取材ではほかのパイロットにも話を聞いた。受付に立つ大きなオリヒメを担当するミッツさんは、山形在住の元自衛隊員だ。定年まで勤め上げたが、球脊髄性筋萎縮症という遺伝性の難病が悪化し、車椅子生活になって7、8年になる。

「日中、孤独感に襲われて人恋しくなり応募しました。毎日どうやったらもっとお客さんに喜んでもらえるか考えています。この仕事をしているとお子さんから手紙をいただく機会などもあって、そういうときは本当に嬉しいですね」

働いているのは障害がある人だけではない。たとえば札幌からオリヒメを操っているけいさんは、脳性麻痺で24時間の医療的ケアが必要な高校2年生の娘さんがおり、家を空けることができない。

「娘がオリヒメアイという視線入力による意思伝達装置を5年前から使用している関係で、このカフェを知りました。娘は将来、人の役に立つ仕事がしたいと考えていて、もともとは娘ができる仕事を探したことが応募のきっかけです。私も17年ぶりに働くことができて毎日とても楽しいですし、いずれは親子でパイロットをやるのが夢です」

現在こうしたスタッフが約50名、各地からリモート勤務している。

<中編へつづく>

婦人公論.jp

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