元暴力団員の飲食店主 足洗って10年経っても嫌がらせ受ける

12月3日(火)16時0分 NEWSポストセブン

 孔子の言葉にも、聖書にも「罪を憎んで人を憎まず」という言葉があるほど、この考え方は世界中で共有されているが、現実にはなかなかそうはいかない。過去に反社会勢力に加わっていた、さらに前科まであるとなると、現在がどうあれ色眼鏡で見てしまうのは避けられない。だからといって、再チャレンジのチャンスまで奪う権利は誰にもないはずだ。ライターの森鷹久氏が、何十年経っても、どれだけ社会のために働こうとも、元暴力団員というだけで生きづらさに襲われる皮肉な現実をレポートする。


 * * *

「死ぬまでこういうことが続くのか。私はいつまでヤクザなんでしょうか──」


 東京都内で飲食店を営む中島駿一さん(仮名・40代)は今年夏、経営していた複数の店舗のうち、2店舗を閉じた。経営状態は悪くなかったが、大家から賃貸契約の更新不可を言い渡された。家賃の滞納もなければ、近隣店舗や住民とのトラブルもない。ただし、自身に原因がないかといえば、そうも言い切れない。それは中島さんがかつて、広域指定暴力団の構成員であったという“過去”だ。


「私はかつて確かに、ヤクザ、暴力団員でした。他人様を脅迫して土地売買の契約を強要して捕まった前科もある。師匠に出会ってカタギの世界に戻ってこられたのは30代の中頃。修行をさせてもらい、自分の店を持ったのは40才になってからです」(中島さん)


 暴力団をやめてうちで働かないかと、中島さんに声をかけた師匠のAさん(70代)が、当時を振り返る。


「前科モンのヤクザでしたが、真っ直ぐな男。ただ、あの世界は一度足を踏み入れると抜けられない。ちょうどあいつにも家族ができた頃。一念発起して頑張ってみないかと誘ったら、ほどなく店一軒を任せられるくらいまでになった。最初はいろいろと苦労もしたでしょうし、実際にトラブルもあった」(Aさん)


 辞めた暴力団員を待ち受けているのは、かつての仲間からの嫉妬、やっかみだ。金を無心しにくるかつての仲間を無下にできず、飯を食べさせれば「中島はいまだにヤクザと繋がっている」との噂を流された。関係を一切断とうとすると、やはりかつての仲間から様々な嫌がらせを受ける。


「やはり人間ですから、スパッと全ての関係を断つことは難しいんです。こちらから断とうとすると、裏切り者と言われ、店の非常ベルを鳴らされたり、注文していない大量の肥料が着払いで届けられたり…。不衛生だといわれのないクレームを保健所に入れられたこともあります。それでも、ヤクザだった自分に責任があると耐え忍びました」(中島さん)


 あれから十数年も経つが、いまだにあるのは、やはりこうした嫌がらせである。


「私が経営者として自立したことを知ったかつての仲間から、脅迫を受けていました。暴力団である過去をバラされなければ金をよこせというやつです。私が応じないと、ガラスを割ったりゴミを撒かれるなど店への直接的な嫌がらせはされないものの、ネット上に中島は現役(組員)とかヤクザの店とか、嘘ばかり書き込まれる。店の大家にも“私が反社だ”といった怪文書が月に十数通も届き、最後は出て行ってくれと。こちらとしては(大家さんに)迷惑をかけて申し訳ないというしかなく……」


 今話題になっている政府主催の「桜を見る会」でも似たようなことが起きた。昨年と今年、会に参加した関西某県の町議・X氏について、過去に暴力団であったということが一部週刊誌などで報じられた。すると、新聞やテレビも一斉に「元暴力団が参加している」と取り上げた。X氏を昔からよく知るという町民が訴える。


「Xちゃんのことを、過去も含めて知らん町民はおらんのです。元ヤクザっていうのも誰でも知っとる。それでもXちゃんが町議になれたんは、人徳があってこそ。前回、前々回の選挙もトップ当選やし、町民のために一生懸命やっとる。反省やら禊も済んで頑張っとるのに、なんでこんな言われ方されなあかんのか」(町民)


 X氏に取材をすべく関係者に電話をしたが、応じられないと次のように説明する。


「県内では、マスコミも含めてXの過去を知らない人はいません。なのに、全国的に取り上げられるとこんなになってしまうんですね、政治的な意図もあるのでしょうが恐ろしいです。彼は昔ながらの渡世人でした。足を洗って頑張っているが、今(こうした雰囲気の中で)何を説明してもわかってもらえないのではないか。本人も本人の家族も本当に参っている。勘弁してもらえんやろか」(X氏の関係者)


 元暴力団員など、かつて反社会勢力に所属した多くの人々たちを取材したが、彼らが一様に感じているのは生きづらさである。もちろん、過去は消せないしそれは自身の責任に他ならない。ただ、これだけ反社会勢力に対する厳しい司法、市民感覚が醸成された中で、反社を辞めた人々に対するあまりに冷たすぎる反応は、一体なんなのだろうか。


 過去の自身を否定し、やっとの事で反社勢力から抜け出せても、いつまでもヤクザだ反社だと後ろ指を指され、市民から除け者にされると、結局元サヤに戻るしかない。司法当局が“ヤメ暴力団”の社会復帰を積極的にすすめてはいるものの、この感覚のギャップが簡単に埋まらないとすれば、社会から“反社”という不安要素が取り除かれる日は、かなり遠そうだ。

NEWSポストセブン

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