「あの事件でスピルバーグは過去の遺物になった」押井守監督が感じた“ハリウッドの破壊者”の限界

12月5日(木)6時0分 文春オンライン


 アニメ界のご意見番と言えばこの人! 『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』『イノセンス』などの作品で知られる押井守監督に、今年のアニメ界で注目した出来事を振り返っていただいた。


取材・構成=渡辺麻紀






◆◆◆


「作り手として“配信”に限界が見えた」


(1)視聴者からの反響が見えづらい見放題月額制


 当初、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの配信会社はクリエイターを尊重してくれる上に、資金もあって予算的にも苦労が少ない……そんなふうに聞いていた。私も何本か企画書を出したのだけれど、ことごとく通らなかったし、そうしているうちに状況も変化していったんだよね。



 こういう状況は、80〜90年代のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)ブームと似ていると思う。最初はオリジナルのストーリーを作らせてくれていたのに、あっという間に人気シリーズのスピンオフなど、鉄板の企画しか通らなくなったんだ。配信もいずれそうなるという危惧があったが、思った以上に早くそうなってしまった。 



 しかし、一番の問題はそこではない。作品を配信したあと、反響が聞こえてこないことなんだ。これが作り手にとって最も大きな問題になる。映画やテレビの場合は、動員や興収、視聴率などが反響になるけど、配信はそれがほとんどない。配信会社がデータを公表していないせいもあって、数字がわからないんだ。視聴者は全話観たのか、あるいは途中で止めたのか、それもわからない。つまり、彼らが作品と向き合うときに抱くだろう待望感や失望感、それがほとんど伝わってこないんだよ。これが1話ごとに値段が設定されていればまた違うだろうけど、すべて見放題で月額制だから、ますます待望感も失望感も薄れてしまう。


 中には、少なくともお金にはなるからという人がいるかもしれないが、アニメ業界ではお金のためだけに働いている人は少ない。ほとんどの人間が「作品を世に出したい」というモチベーションを持ってやっている。そうじゃないとこんなしんどい仕事、誰もやらないだろう。



 配信には、映画に伴う社会的な行動が存在していない。誰かと一緒に観に行って語り合うこともできなければ、袋叩きにすることもできない。個人的にネットに書き込むだけでは社会的な行動とは言えないよ。


 配信に何らかの社会性が生まれて、初めて、作り手にモチベーションが芽生えるんだと思う。今のままでは、映画を作って世の中に出すという範疇にすら入らない危険性も感じている。これからどうなるかで、我々の立ち位置も変わるけど、今はまだ模索中という印象だね。



「2020年は“映画である根拠”が失われる」


(2)テレビの基準に合わせてしまった日本の映画


 今年は劇場用アニメの多い年でもあったね。ざっと数えただけで70本くらい。その監督は若い人が多く、私たちと同じくらいの年齢の人間はほとんどいない。プロデューサーが若くなって、そういう人たちは同世代の人間と組みたがるものだから、まあ、それは仕方ない。


 ただ、その監督の中に、観客を呼べる者がいるかというと、ほとんどいない。これは実写の世界でも同じことが言える。日本の場合、重要なのは、まず人気のマンガやベストセラー小説の確保、イケメンなどのキャスト、そして最後に監督という順番。ハリウッドでは、まだ「ジェームズ・キャメロン最新作」というふうに監督がウリになる場合があるけど、日本ではまずないし、そういう監督もほぼいない。アニメの場合は、ウリは声優で監督は次の次。監督の名前で映画やアニメを観る時代は終わってしまったんだと思う。映画監督という専門性の根拠がなくなったのが、今の日本。アニメも同じ状況だね。



 日本の映画がインターナショナルになれない理由を探ってみると、こういう監督の不在、そして日本の映画がテレビの基準に合わせてしまったことが大きいと思う。アメリカでは、ケーブルテレビや配信が映画の基準に合わせてきたからこそ『ゲーム・オブ・スローンズ』などのすごいシリーズが生まれて、実力のある映画人が仕事をするようになった。ところが日本は真逆で、低きに流れてしまった。しかも、ファンはそれで十分満足しているように見える。これでは日本の映像エンタテインメントがインターナショナルになりようがない。



 こういう2019年の現状から2020年のアニメや映画の業界を考えると、映画である根拠が失われてしまうのではないかと思う。映画の表現の底が抜けてしまって、地盤沈下どころか地盤崩壊が起きるかもしれない。決していい方向には向かわないだろう……というのが私の予想。



(スティーブン・)スピルバーグが今年、ネットフリックスをアカデミー協会から締め出そうとしたのは非常に印象的な事件だったね。私はそれを聞いたとき、スピルバーグ自身がすでに時代遅れになった、過去の遺物になったんだと感じた。もっと言うなら、新しい波に乗れず焦っている印象もあった。かつてハリウッドの破壊者と呼ばれ、いまだに第一線で活躍しているスピルバーグでさえもこうなるということなんだ。時代は変わることを受け止めなければ、前には進めないだろう。


撮影=山元茂樹/文藝春秋


◆◆◆


 押井守監督が京都アニメーションの事件についても語ったインタビューの全文は『 週刊文春エンタ! アニメの力。 』に掲載されています。



押井守(おしい・まもる)

1951年生まれ、東京都出身。映画監督。1977年にタツノコプロに入社。フリーランスとなってからは『機動警察パトレイバー』シリーズ、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』などのアニメ映画を多数手がけ、ジェームズ・キャメロン他、国内外に大きな影響を与える。




(押井 守/文春ムック 週刊文春エンタ!)

文春オンライン

「押井守」をもっと詳しく

「押井守」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ