佐久間良子 東映初の女性主演映画にかけた思い

12月5日(水)7時0分 NEWSポストセブン

佐久間良子が転機となった作品を語る

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優・佐久間良子が、東映が社運を賭けて制作した映画に主演した時の思い出について語った言葉をお届けする。


 * * *

 佐久間良子は一九六三年、沢島忠監督の『人生劇場 飛車角』で鶴田浩二扮する主人公・飛車角の情婦・おとよを演じた。


「今まで清純派と呼ばれて、そういう役ばかりやってきましたので、これは初めてそうではない役でした。ラブシーンは八分をワンカット。自分でも演技どうのではなくて、とにかく必死にやりました。そうやって沢島監督に鍛えられましたね」


 同年の田坂具隆監督による東映映画『五番町夕霧楼』で主人公の娼婦・夕子を演じたことで女優としての評価を高める。


「当時の東映は男性路線の作品が中心でしたが、この作品は女性が主役。そんな大役を果たして自分が出来るのだろうかと躊躇していたとき、東映東京撮影所の所長だった岡田茂さんに『これは絶対にやりなさい』と推され、その情熱に動かされて『応えなくちゃいけない』という想いになっていったんです。


 とにかく鈴木尚之さんの脚本が素晴らしくて。技術とかそういうのは分かりませんから、鈴木さんの書かれている通りに夕子という人間を捉えて、素直な気持ちで演じました。変に技巧を使って夕子を演じようとすると、嘘になると思ったんです。


 田坂監督がそうした嘘を嫌う方で。演技指導でも『余計なことは考えないで、佐久間くんがそれと思う、その素直な気持ちでやってくれ』とおっしゃっていただけたので、それで思い切ってやることができました」


『五番町〜』では、映倫が佐久間のラブシーンのカットを要求してくるという一幕もあった。



「ラブシーンで私のアップを撮った時は、田坂監督からは『一人の少女が蝶々を追いながらずうっと土手を駆けていく。そうすると段々と息遣いが荒くなる。そんな風に頭の中で感じてやってごらん』とご指導いただきました。それで、素直に受け入れることができました。私が何回テストをしたら一番いい芝居ができるのかまで把握してくださっていて、演技指導も状況を言葉で語ってくださるから、とても分かりやすかったです。


 田坂監督は人間的にも本当に尊敬できる方でした。誰に対しても丁寧で、画面の奥にしか映らない通行人の役の方にもちゃんと指導なさるんです。しかも、一人ずつ名前を覚えておられて。そうやって一つの画面の中でも全ての人に同じように目を向けてくださるから、いい作品ができあがったんだと思います」


 東映にとっても、これは大きな賭けとなる作品だった。


「一つ大きいものを背負わされたと思います。今までみたいに『この仕事を辞めたい』とか、そういうチャランポランなことではいけないということです。社運を賭けての初めての女性映画を一か八かで私に岡田さんが与えてくださったわけですから。


 封切り初日に岡田さんと劇場で観た時のことは今でも鮮明に覚えています。場内は満員だったのですが、『終』の字が出て上映が終わっているのに、お客さんが全く出てこないんですよ。泣いて感動してしまって、座席から動けなかったようなんです。それを知って岡田さんも目に涙を浮かべていました」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。


■撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2018年12月14日号

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