「雑巾みたい」と罵られ……ク・ハラ、ソルリ自殺に見る、韓国芸能界が女性に強いる“矛盾”

12月6日(金)11時0分 文春オンライン

「もう、こんなことは起きないでほしい」


 11月、アイドルグループ「f(X)」の元メンバー、ソルリに続いて、ク・ハラの自死が伝えられると、韓国では多くの人から悲痛な声があがった。



病院内に設けられた祭壇にク・ハラさんの写真 ©AFLO


 どんな思いだったのかは本人にしか分からない。しかし、韓国ではその背景を巡り、「ク・ハラを救えなかった私たちの宿題」(ニュース専門テレビ「YTN」)のように、ネットの悪意ある書き込みやそれを傍観していた韓国社会に問題を投げかける声が出ている。


 社会学、中でも女性学専門のイ・ナヨン中央大学社会学科教授に話を聞いた。


大手ポータルサイトに設けられた“窓”


 ソルリやク・ハラの死後、真っ先に取り沙汰されたのは、ネットへの書き込み問題だ。韓国の大手ポータルサイトでは検索語に上がったトピックについて書き込みができる通称「窓」が設けられており、24時間、絶え間なく書き込みが上がる。ソルリの死後、大手ポータルサイト「Daum」では芸能の書き込み欄が廃止されたが書き込みは止まらない。


「韓国社会ではオンライン文化が暴走しています。


 かつては記事別ではなく、メディアごとに書き込み欄が設けられていましたが、大手ポータルサイトが登場してから(2000年代以降)記事別に書き込み欄が設けられ、さらには、ポータルサイト自体に書き込みができる、“窓”ができました。コミュニティサイトも増え、コミュニティサイトの掲示板にも書き込みが集まります。今や、匿名でどこにでも書き込みができるようになっていて、それに人々が慣れてしまった。



 他人を品評して『いいね!』がつくことで他人に認められたいという“承認欲求”が満たされ、どんどん刺激的なものを書き込んでしまう。そして、それに共感を覚える人たちが集まり、さらに書き込みがエスカレートする。そんな現象を放置してしまった韓国社会に問題があります」



ク・ハラさんの性的な動画を判事が……


 ク・ハラもソルリも、悪意ある書き込みに悩まされてうつ病を患っていたといわれている。ふたりは親友でもあり、共に治療する仲間だったと報道された。ク・ハラは、昨年秋、元交際相手との間に起きたリベンジポルノ事件などで俎上に上がっていた。


「たとえ元気な人でもこれほどのことをされればうつ病にならない人などいないでしょう。それに、リベンジポルノというのは加害者から見た表現で、不法撮影流出物というべきです。


 ク・ハラさんの場合、被害者であるにもかかわらず(誤った報道から)非難された一方、加害者である元交際相手は報道でも匿名扱い。裁判では、加害者は脅迫などの疑いについては軽い量刑しかつかず、本人の意思に反し、ク・ハラさんにまつわる性的な動画を撮影した行為については無罪となりました。



 さらには、裁判を担当した男性判事が判決を下すのに不必要と思われる動画の提出を求め、それを視聴し、判決文にもク・ハラさんと元交際相手の間で起きたことの経緯を細かく記した。


 たとえ、撮影に同意したとしても、それを流出させることは不法です。それがどれだけ深刻な問題なのか、(判事は)認識していない。問題意識がない。それが男性中心の文化だからです」


「雑巾みたいな女」と罵られたソルリ


ソルリは生前、フェミニズム的な発言でバッシングを受けていた。


「ソルリさんの場合、フェミニスト的な感性を持っており、その感性に基づき発信していましたが、人形のような存在でなくてはならない女性芸能人がモノを言うと、家父長的な社会では『生意気だ』などといわれ、否定されます。



 女性芸能人は女神でなくてはならず、かつ、セクシャルな魅力もなければならない。期待される部分が矛盾した存在なのです。所属事務所も、特に女性芸能人に対しては“商品である”という意識が強く、女性芸能人が書き込みで炎上しても話題になったとしか考えません。論争をそのまま放置するのです。


 ソルリさんが下着をつけない(ノーブラ)と発言をした時には、『雑巾みたいな女』と言われました。娼婦だと。女性芸能人に対しては、コメントが性的な攻撃であることが多い。



 さらに、そうした悪意ある書き込みを記事にするメディアの存在も問題です。芸能人のSNSにそんなコメントがつけば、その書き込みをことさら取り上げて記事にし、酷い時はタイトルにまでして世の中の論争を煽ります。そして、そんな報道にもさらに悪意のある書き込みが繰り返される。女性芸能人は、書き込みでもなんでもセクシャルな部分で攻撃されてしまう。男性芸能人には、『お前を強姦してやる』なんていう書き込みはないでしょう。


 なぜ自殺というのでしょうか、これは社会的他殺です」


幼い頃から一挙手一投足、事務所に管理される


 ただ、問題は書き込みだけではなく複合的だとイ教授は言う。


「ネットへの悪意のある書き込み、報道姿勢、そして、芸能界、K-POPの構造自体にも問題があります。


 幼い頃から練習生として、他のコミュニティや家族から隔離されて、平凡な日常から遮断されてしまう。長い人生を見れば、芸能人としてではなく、一人の人間として生きる時間のほうが長い。ですから、人間としての力量を育てなければなりませんが、K-POP業界ではそれができない仕組みになっている。そして、その中で成功するのは一握りで、その一握りからは、多くの練習生に投じた資金を回収しなければなりませんから、無理を強いて途方もなく仕事をさせてしまう。   



 そして、一挙手一投足、所属事務所に管理される。こうした構造自体が反人間的な状況だと思います。


 そのうえ、芸能記者、ファン、読者、そんなすべての人たちの視線から逃れられず、身動きができなくなってしまっている」


 イ教授が先週、あるイベントを行った際、集った参加者はク・ハラの話がでると涙をこぼしたという。


「女性はク・ハラさん、ソルリさんを自分と同一視します。だから、自分をも責めてしまう。


 男性がもっと自省するべきです。自省しないかぎり、社会が変わらないかぎり、このようなことは続いていきます」


 冒頭のような悲痛な声はいつになればなくなるのだろうかーー。


(文中敬称略)



(菅野 朋子)

文春オンライン

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