青木さやか「世の中は必然?上野駅で袴田吉彦くんにばったり。間違えたと思って降りたやまびこは、つばさだった」

12月6日(月)12時0分 婦人公論.jp


写真提供◎青木さん(以下すべて)

青木さやかさんの好評連載「48歳、おんな、今日のところは『……』として」——。青木さんが、48歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、ギャンブル依存の頃を赤裸々に告白した「パチンコがやめられない。借金がかさんだ日々」などが話題になりました。今回は「新幹線を乗り間違えた人として」です。

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前回「私が怒っていた3つの理由。お世話になってきたけれど、肺がんで人生を振り返り、怒りを手放した」はこちら

10号車の次は、壁だった


東京駅18時発、山形行きのつばさ153号に飛び乗った。

舞台の旅公演、明日は山形、今夜は前乗り、というわけだ。
準備してもらったチケットは11号車。ぎりぎりにホームでゆで卵を買っていたので、駅員さんに、乗りまーす!と手を挙げて急いで乗ったのは8号車だった。
新幹線が動き始めてから、ゆっくりと車内を歩いて11号車まで向かう。
10号車をこえて、次だ。自動ドアがあいて驚いた。

壁だよ!

この新幹線は10号車までしかないじゃない!
東京駅できちんと確認しなかったのだろうか。
ふとみると、仙台行き、やまびこと書いてある。やってしまった。
すると、車内アナウンスから聞こえてくるのは
「まもなく上野」という案内だった。

駅員さんに向かって新幹線の説明を


よかった、上野に止まるなら、すぐに東京に引き返せるからそんなにロスはないかな。(ありますよ!)
舞台の制作ナミさんに急ぎLINEをすると
「上野なら東京駅に引き返さなくても次のに乗れると思います」
という返信。なるほど。もしや急げば、あっという間に乗り換えられる?

上野に着いた途端、改札階に階段を駆け上がり、どこだどこだ?と、新幹線つばさの乗り場を探す。
すると、先程降りたホームが、つばさの乗り場だと書いてある。
なんだかよくわからないが、今きた階段を降りて、駅員さんに聞いた。
「あの、すみません。つばさ、に乗りたいのですが」
「これです」


東北方面の新幹線がずらり

駅員さんは、さっきまで私が乗っていた、今まさに動き始めた新幹線を指差した。
わたしは、駅員さん相手に新幹線の説明をし始めた。思えばイカれてる。

「これはですね、やまびこなんですよ、仙台に行ってしまうから」
駅員さんは、少し待ってください、と手でわたしを制し、新幹線を見送った。
「お待たせしました。やまびこの前に、つばさがついているんですよ」
「え、11号車なかったんです!」
「連結してますから、ありますよ」

なんと。

新幹線の色と顔を知る


あの新幹線は、やまびこであり、またの名を、つばさ、であったのか。
わたしは乗るべき新幹線を飛び降りたらしい。
ふう、とため息をついて、「いけない、ため息はつかないんだ」と吸い込んだ。

駅員さんに詳しく聞くと、1時間以上は、山形行きは来ないようだ。
次は間違えないように、連結部分の前の方に移動してホームのベンチに腰掛けた。
ほとんど人はいないが、ひっきりなしに新幹線がくる。はやぶさとか、なすのとか、たにがわとか、こんなにいっぱい新幹線をみるのは初めてだ。
色とか顔とか違うんだなぁ、と知った。


上野駅のホーム

ナミさんに報告LINE。
「間違えた、と思った新幹線が間違えてなくて、とにかく1時間遅れて着きます。ごめんなさい」
「私もやってしまうんですよ〜、考え事してたりすると。情け無くなります」
「はい、わたしも。本当に(涙)」
「気をつけて来てくださいね〜」

つい、長めのLINEのやりとり。こんな事でもなければなかった心の通じ合い。
思い返せば、こんな事はよくあるのだ。免許の書き換えで鮫洲に行こうと着いた先は横浜だったり、バスツアーの乗るバスは大体間違えるし、こちらですと言われるがままついていくと知らない団体さんだったり、知り合いだと思って話していたら初めての人だったり、居酒屋で違う人の靴をはいてみたり、美容院でごちそうさまでした、と言ってみたり、コンビニでお金を払って買ったものをおいてきたり、自分の車は大体見つけられないし、ヤバいのだ。

乗ったら共演の袴田吉彦くんがいた


新幹線がホームに入ってくるたびに、次こそ間違えてはならぬ、と電光掲示板をしっかりとみる。
次だ。
やまびこ・つばさ と書いてある。
電光掲示板と、キキキーと入ってくる新幹線を交互に見た。間違えるわけにいかない。誰かに聞きたいが、誰もいない。

わたしは、入ってきた新幹線から顔を出して指差し確認しているメガネの車掌さんに
「山形に行きますか?山形に行きたいのです」
と確認した。
「大丈夫ですよ、山形」
メガネの車掌さんは優しく諭すように教えてくれた。

11号車に乗り込み自動ドアが開くと、共演の袴田吉彦くんがいた。

「青木さん、上野から?」
「間違えちゃった。降りて、乗ったのよ」
「よくわからないけど、なにしてんの」

説明もできずにテヘヘ、と笑いながらとりあえず空いていた袴田くんの後ろの席に座ってようやく落ち着いた。
窓の外を見ると、すでに真っ暗だった。星も月も出ていない。夜空は曇っているようだ。都会からどんどん離れていく夜の街並みが見えた。

一息ついて思いを馳せた。世の中全て必然なんだろう。無意味なことなんてなにもない。きっとこの出来事だって大いに意味がある。

一体、今日の上野の1時間の待機に、人生においてなんの意味があったのだろうか(なにもないよ!)

婦人公論.jp

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