<収穫なかった「M-1」>和牛はもう漫才師としては一級品?

12月7日(金)7時30分 メディアゴン

高橋維新[弁護士/コラムニスト]

* * *

12月2日、2018年「M-1グランプリ」(テレビ朝日)の決勝大会。もう同じことは言いません。M-1は、ショウではなくて、あくまでコンテストであって芸人の品評会として見るべきものです。なので、この原稿でも、あくまでネタと芸人の品評に徹します。最後目に涙を浮かべていた松本にちょっともらい泣きしそうになっているので、これ以上M-1やネタという手法を腐すようなことはもう言いません。評者も、人の子なのです。

テレビ局がテレビで品評会をやる以上、どうせならテレビで売れる人に優勝して欲しいというのが私の思いです。M-1はこの手の品評会の嚆矢にして親玉である以上、R-1やキングオブコントみたいな後追いの優勝者が次々と崖から転がり落ちていったのに比べれば、まだまだ優勝者の面々に他の追随を許さない格がありました。ただ、2016年優勝の銀シャリ・2017年優勝のとろサーモンのことを考えると、優勝者の格がだんだんと落ちてきてはいないか、それに伴ってM-1という大会の権威も続落していないかというのが最近の筆者の懸念でありました。

そもそも芸人が今のテレビで売れるには何が必要かというと、少なくとも以下の3つのうちの1つが必要です。

(1)アドリブ力(台本で予定されていなかった事象が大なり小なり生じてもディレクターが望むような言動を行える力)
(2)天然
(3)強いキャラクター

これは、M-1で試される漫才の能力(台本を考える大喜利力・漫才の登場人物を演じる演技力・台本を維持する記憶力としゃべくり能力みたいなもの)とは必ずしも一致しません。だから、M-1で優勝した人がテレビで売れないという乖離現象が生じるのも無理からぬことであります(だからこそ、私にM-1というものの存在意義に毎年疑問を呈しているのです)。

とはいえどうせ日曜ゴールデンの貴重な時間に尺をとって品評会を続けるのであれば、きちんとテレビで売れる人を優勝させて、「M-1」というブランドの格と権威を保ち続けて欲しい。次代のテレビを担う人材を発掘・発見し続けて欲しい。これが筆者の思いであります。

【参考】<面白い芸人はたった1人>M-1は「漫才技能コンテスト」なのか?「お笑いのショウ」なのか?

私がそういう目線で今大会を見ていたことを踏まえて、以下の寸評にお進みください。

<M-1ファーストラウンドの寸評>

1.見取り図

上沼は前半が「古い」と言っていました。確かにツカミはツッコミの盛山のデブイジリでしたが、盛山の見た目がデブであるとは分かりにくい(=ぱっと見デブには見えない)ので、これをやるならそのへんをもっと分かりやすくした方がいいです。ボケのリリーの、ポーカーフェイスでボケていく能力は高いです。ただ盛山のツッコミは声が甲高いからかなんなのか台本を読まされている感が抜けないので、もっと演技力を磨いて欲しいと思います。また、時間差で過去のボケをツッコんでいくやり方は、4分という短いネタ時間の中でやられるとどうしても面食らってしまいます。もっと時間をとれる場でやった方がいいと思います。

2.スーパーマラドーナ

田中と武智が同じ舞台設定でコント風に漫才をやっていました。サイコパス風のヤバい人どうしの対決という設定は新しいと思いますが、二人ともサイコパスとしての説得力を持たせるほどの演技力がありません。設定に負けています。田中はボケ役なので、まだヘタクソさも「そういうキャラなのかな」と思わせる逃げ道がありますが、ツッコミ役の武智の大根は言い訳ができません。

3.かまいたち

ブラマヨ風の喧嘩漫才でした。よくしゃべる変な人を山内がきちっと演じられています。ただ山内が演じていた「タイムマシンで過去に戻ってやりたいことの第一希望が『ポイントカード作成』である人」っていう設定がそこまでおもしろくありません。なんでしょうね、「せっかくタイムマシンができたのにそんな願い事でいいの?」っていう大喜利のお題に対する回答として「ポイントカードを作る」っていうのがそんなにおもしろくない、という感じです。

山内がそれを言った時にもあんまり笑いは起きていなかったし、そのあとそれをもとに喧嘩を続けられても少し上滑りしちゃうんですね。この山内の希望をバラすクダリはツカミにもなるので、大喜利の回答としてもおもしろいものを用意できたら最高だと思います。当然、その後のネタの展開のしやすさとの兼ね合いもあるので、大喜利の回答としておもしろければそれでいいというもんでもないですが、両奪りができたら理想的だということです。

4.ジャルジャル

全然、毛色が違うネタでした。他のグループと同じ土俵で点数を付けなきゃいけない審査員がかわいそうでした。まあ、「ゼンチン」や「ドネシア」の語感の楽しさだけで最後まで突っ走っていて、変化はあまりありませんでしたが、もっと長くやってもっと変化を見せて欲しいです。あと、フリもウケもアドリブにして遊んでみたいです。長くやれば「ゼンチンじゃなくてジェリアだろ」とか、「トラリアじゃなくてリアだ」みたいな変化球のボケも入れられると思います。

根本的な問題として、富澤のコメントが一番芯を食っていて残酷でしたが、このネタであれば演じるのはジャルジャルじゃなくてもいいんですね。ある程度華のある漫才師であればこの手のネタでも個性や色気みたいなものが出るもんですが、後藤も福徳もどうも地味ですね。それはやっぱり、4分という短いネタを台本ガチガチでやっているというところにも起因していると思います。アドリブでフッて追い込んだり、長いことやらせて疲れさせたりすれば、2人の個性も滲み出てくるかと思います。

5.ギャロップ

しゃべりは、2人ともウマいです。林のハゲも活きていたと思います。ただ、合コンにハゲのオッサンが一人だけ混じるっていう設定は手垢塗れです。寄席で見る分にはいいんでしょうけど、M-1で勝ちを狙える設定ではないと思います。

6.ゆにばーす

去年よりダメでした。複数の審査員が言っていましたが、ツカミが全然ウケていませんでした。「見た目家で爆弾作ってそうな奴」も「実行犯」も「爆乳清宮くん」もそんなにウケていませんでした。「ヘドが出るわ!!」に至っては、ツッコミも入ったのに客席が静まり返っていました。

これは、何でと言われても分からないので、運が悪かったとしか言えないです(「清宮くん」はちょっと古いのかな? あと、オール巨人が言っていたように、「ヘド」は言葉が強すぎる可能性があります)。そういうことは起きるので、普通は事前に試しておくものですが、1回試してウケたものが別の場ではウケないということも間々あるので、そうだとしたらやっぱり運が悪かったとしか言いようがないです。

ツカミがウケなかったのでその後もずうっとフワフワしていましたが、川瀬にはらの変なキャラを捌ききれるほどの演技力がありません。山ちゃんは、ちゃんとしずちゃんを捌けるんですけどね。

7.ミキ(敗者復活組)

正統派のしゃべくりじゃないですか? 昴生のブサイクやデブをイジるのは、ギャロップと一緒で手垢塗れです。上沼は「こっちは突き抜けてるからいい」と言っていましたが、正直根本的な違いはありません。あるとすれば、好みの差だけであって、上沼の言っていることは「私はギャロップよりミキの方が好み」という以上の意味はないと思います。
これも寄席で見る分にはいいですけど、M-1で勝ちを狙えるネタではないと思います。

8.トム・ブラウン

「(サザエさんの)中島くん5人を合体させる」というかなりトリッキーな入りの漫才でした。ツッコミも変化球だったので(というか、あれはツッコミだったのでしょうか)、シュールな部類に入るのでしょう。ただ変な人を演じるには演技力が不足しているというのはスーパーマラドーナと一緒です。あと、「中島くん」も大喜利をちょっとかじった人であればすぐに思いつく手垢塗れの存在なので、設定上も狂気が足りません。結果、普通の人が変な人を無理して演じている感が抜けず、見ているこちらはどんどん真顔になってしまいます。

9.霜降り明星

せいやが一人でワ—キャー動き回りながら大声でボケていくのを傍で見ている粗品がツッコんでいくスタイルです。NON STYLEやおととしのスーパーマラドーナに似ているかしら。せいやは、誤解を恐れずに言えば、「学校にいるちょっとおもしろいお調子者の陽キャ」感が抜けません。多分、「その陽キャを教室の隅で睨みつけながら『俺はアイツよりはおもしろい』と思っている作家タイプの陰キャ」からの支持は受けられないのです(「大衆にはウケるけど玄人にはどうかなあ」という志らくのコメントもほぼ同じことを言いたかったのだと思います)。別にネタに出てきたボケがしょうもないわけでもなかったので、霜降り明星の大喜利力がこの陰キャに負けているわけでもないのですが、どうにもこのお調子者感が抜けないのです。

10.和牛

これも審査員が言っていましたが、優勝候補の大本命なのにスロースタートのネタでかなりハラハラしました。冒頭の設定の説明の中で出てくる「殺す」ていうワードがゆにばーすの「ヘド」と一緒でお客さんを若干引かせちゃうんですね。でも、ちゃんと決めてくるあたりは流石です。ネタ順が最後になったうえできちんと最後の3組に残ってくるあたり、持っています。今年のM-1の決勝で披露された13本のネタ(最終決戦の3本含む)の中でも一番おもしろかったと思います。最初ハラハラした分、そこがきちんとしたフリになっていて、水田が川西と一緒にゾンビになってしまったクダリでは声を出して笑ってしまいました。

【参考】<R-1ぐらんぷり2018>同情ではなく話芸で優勝したほぼ全盲の芸人・濱田祐太郎

<M-1最終決戦の寸評>

1.ジャルジャル

見たことあるやつでした。私は純粋に結構おもしろいと思うのですが、審査員は一人も票を入れていませんでしたね。やっぱり、ジャルジャルじゃなくてもできそうなのが問題なんですね。2人のパーソナリティが見えてこないのです。2人の演技力がないのが問題なのか、台本ガチガチなのが問題なのか。もっと長いことやって、アドリブもどんどん入れて追い込めば、2人のパーソナリティはもう少し出てくると思います。

2.和牛

不思議と私はそんなにおもしろいと思えませんでした。実の親に振り込め詐欺的な電話をかけて騙す水田をあそこまで変な奴扱いするネタの展開に、違和感を覚えてしまったからです。警察とかで「一回自分の親を騙してみて注意喚起をせよ」みたいな振り込め詐欺防止法を指導してませんか? 弁護士だからそういう情報が入ってくるだけですか?
まあでも、最後の化かし合いの展開は流石でした。

3.霜降り明星

1本目と同じでせいやがワーワーギャーギャー動き回りながら粗品が傍らでツッコミを入れていくネタでした。感想も1本目と一緒です。

<2018年M-1グランプリの総評>

優勝したのは霜降り明星でした。和牛はまた優勝ならず、という結果です。おもしろい陰キャをお調子者の陽キャが差したというレース展開は2008年にNON STYLEがオードリーを降したのを髣髴とさせ、結果にはネット上で異論も出そうです。ただ、個人的には和牛の2本目に1本目ほどの爆発力がなかったので、4対3という僅差で優勝を持っていかれたのもしょうがないかとは思います。とはいえ、審査員も迷っていた様子は窺えたので、和牛が優勝していてもおかしくなかったとは思います。

最終決戦では、オール巨人・礼二・塙・志らくが霜降り明星に、富澤・松本・上沼が和牛に入れていました。陽キャが霜降り明星に、陰キャが和牛に入れたというわけでもありません(礼二や塙は陰キャだと思いますし、上沼は陽キャだと思います)。陰キャが陽キャを支持し得ないのは、大喜利力が低い癖に大声と思い切りだけで笑いをかっさらっていく(=自分にそういう思い切りがないことを棚に上げている)からですが、霜降り明星のネタはそこまで一つ一つのボケがしょうもなかったわけでもありません。

【参考】「朝まであらびき団SP」は新しいスターの発掘が必要だ

それでも陰キャの私が反発を感じてしまうのはなぜなんでしょうか。せいやのキンキン響く声質やクソガキみたいな顔の見た目にも原因があると思うので、テレビで売り出していくにあたっては芸人として同じ弾道のザキヤマやホリケンみたいな愛くるしさを身につけていった方がいいと思います。あと、作家気質の陰キャが唸る大喜利力ですね。ネタをどっちが書いているのかは知りませんが、粗品に全面的に依拠しているのであれば危険です。

さて、冒頭に私の個人的な希望として記した「テレビで売れる人を優勝させてほしい」という観点からするとこの結果はどうでしょうか。繰り返しになりますが、今のテレビで売れるには以下の3つのうちのいずれかが必要です。

(1)アドリブ力(台本で予定されていなかった事象が大なり小なり生じてもディレクターが望むような言動を行える力)
(2)天然
(3)強いキャラクター

そういう意味では、下馬評で優勝の最有力候補とされていた和牛にはどれもないのです。だから、私は実は和牛には優勝して欲しくなかったのです。とはいえ、私の知っている他の決勝進出者の中に上記(1)(2)(3)のどれかでも満たす奴がいたかというと微妙(はらとせいやには(3)強いキャラクターがありましたが、2人ともテレビにはもうそれなりに出ていたので、どうせならまだ発見されていない掘り出し物を見つけたかったわけです)だったので、私の知らない見取り図とギャロップとトム・ブラウンに期待していたわけです。でも、3組とも不発でした。

今年のM-1は大した収穫がなかったというのが正直なところです。せいやは、もう一皮剥けるには上記のように作家気質の陰キャの支持も得られるようにプロデュースをしていくといいでしょう。

和牛は、まあ今年も運が悪かったという感じですが、優勝できなかったところも含めて全体的に「持っている」感じはしました。漫才は一級品なので、テレビで売れなくても(2人の仲さえ悪くなければ)営業でずっと食っていけるでしょうから、もう実利的な目的でM-1に出る意味もないと思います。2人がどこを目指しているのかは分かりません。

もしかしたらテレビで売れたいのかもしれません。でも、オードリーや千鳥やメイプル超合金みたいに、優勝しなくても売れた芸人はいます。和牛も既に同じくらいの露出はあるので、それでも売れなければやっぱり(1)アドリブ力も(2)天然も(3)強いキャラクターもないということなんでしょう。テレビで今より更に売れたいのだとしても、もう散々露出があった以上、来年以降M-1で優勝すれば変わるもんではないと思います。しかし、ここまでM-1と付き合ってきたなら優勝を目指したらどうでしょうか。

メディアゴン

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