日本社会に蔓延する「忖度」という病 流行語で終わらせるな

12月8日(金)7時0分 NEWSポストセブン

『忖度バカ』を上梓した鎌田實医師

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「2017ユーキャン新語流行語大賞」(「現代用語の基礎知識」選)の年間大賞が発表され「インスタ映え」と「忖度」に決まった。その「忖度」という病が蔓延していることが、病理のようなさまざまな症状を呈することになるのだと、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師はいう。「忖度」という言葉をただの流行語に終わらせてはならない理由を鎌田氏が語る。


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 山口県周南市で昨年7月、高校2年の男子生徒が自殺した。学校でいじめがあったかどうかなど、第三者委員会が調べ、最終報告書をまとめた。ところが、その報告書を遺族に見せる際、県教育委員会が「内容を報道機関などに提供しない」などとする「誓約書」の提出を求めていたことがわかった。


 毎日新聞によると、県教委は遺族へのメールに、報告書には個人情報が含まれ、遺族にのみ提供されるものであることを踏まえ、内容を他の保護者・報道機関などの第三者に提供しないことなどと記した書類を添付し、署名のうえ提出するよう求めたという。


 県教委は、ほかの生徒たちのプライバシーを守ることが大事といいたいようだが、本当に守りたいのは自分自身なのではないだろうか。「愛国のパラドクス」という言葉がある。国のため、会社のため、組織のため、あなたのため、といいながら、実は自分の利益や出世のことを考えているのである。自分ファーストという目的を隠しながら、組織や相手にしがみつき、コントロールしようとするのだ。


 遺族は、報告書の内容を口止めされて、だれにも相談できずに苦しんでいる。


 企業のデータ改ざんが後を絶たない。業界3位の神戸製鋼所が強度や寸法などの検査データを組織ぐるみで改ざんしていた。一部でJIS規格に満たない製品を出荷していた疑いも出だしている。製品は、自動車のドア、H2Aロケットや国産ジェット機の部品、自衛隊の防衛装備品など、延べ約500社に幅広く使われているという。


 問題は国内だけにとどまらない。アメリカのゼネラル・モーターズなどの自動車メーカーや、航空機メーカーも調査を始めている。


 日産自動車も無資格者が車両の最終検査をしていたことが発覚した。この問題がわかった後も、無資格検査が続けられていたことも明らかになった。さらには、検査員試験では、正解を丸写しさせるということまでしていたというから、検査が形骸化していたことがわかる。「やっちゃえ日産」が、とんでもないことをやってしまった。不正をやる側の一人ひとりの問題もあるが、それを容認し助長する空気が会社のなかにあったということである。


 これらの不正は、日本ブランドの信頼を傷つけたのは間違いない。「モノづくり日本」というプライドは、もう過去のものになってしまったのだろうか。


 いじめの報告書を外に漏らさないように口止めした教育委員会と、ズルをした神戸製鋼所や日産には、共通点がある。それは、わからなければいいというモラルの欠如と、わからないようにしてしまえば責任は免れるという隠ぺい体質だ。そして、こうした体質は、「忖度」というしがみつきやもたれあいを生む体質と、とてもよく似ている。


 先日、ぼくは『忖度バカ』(小学館新書)を上梓した。日本社会に深く蔓延する「忖度という病」とは何なのか。一強におもねる官僚の姿があらわになったモリカケ問題や東芝の没落、ベッキーの不倫騒動、いじめ問題、日本人の終末期のあり方など、さまざまな例を挙げて分析した。


◆忖度は「記憶障害」と「認知のゆがみ」をももたらす


 そもそも「忖度」とは「他者のことを推し量る」ということ。社会生活を円滑に営んでいくうえで役立つ心の働きである。


 なのに、「忖度」が行き過ぎてしまうことで、自由な、自分らしい生き方が阻害されてしまう。内向きの社会のなかで、限られたパイを奪い合いながら、些細な違いによって分断し合ったりする。


 他者とつながり、支え合うための「忖度」が、足を引っ張り合い、しがみつき合うような方向に作用してしまっているのである。


 なぜ、こんな社会になってしまったのか。過剰な「忖度」を「病気」に例えて考えてみると、ぼくたちの社会が抱える問題が見えてきた。


 忖度という病は、さまざまな症状を発症する。その一つは「記憶障害」だ。モリカケ問題でも、「記憶にありません」「記録がありません」と、一強の首相をかばうような発言をする官僚が多発した。


 忖度という病になると、「視野狭窄」にも陥る。会社や教育委員会などの狭い組織の中だけしか見えておらず、組織に従うことだけをよしとしてしまう。


 また、「認知のゆがみ」も生じる。認知とは、外部のものごとや出来事のとらえ方のこと。相手にレッテルを貼ったり、事実を隠ぺいしたりする。南スーダンで国連平和維持活動をしてきた自衛隊の「戦闘」を、当時の防衛大臣が憲法に違反するという理由で「武力衝突」と言い換えた「言葉のすり替え」も、典型的な症状だろう。


 忖度という病で、さらに深刻な症状は、「過剰適応」だ。ブラックバイトやブラック企業というのがあるが、過酷な環境にも無理やり適応してしまう。子どものころから「いい子」であることを期待され、親や先生の顔色をうかがってきた人が陥りやすいといわれている。


 過剰適応して自分を押し殺している人は、相手も自分を押し殺してくれないと怒りを持つようになる。怒りで、足を引っ張り合いながら、負の均衡を保とうとする。だから、ブラックはどんどん激化していく。


 データ改ざんなどの組織ぐるみの不正も、過剰適応である可能性がある。さらに、社員が積極的に不正に手を貸すことで、自分が必要とされていると思い込んでしまうようになる。そうなると、病状は悪化し、「共依存」という状態になってしまう。


 共依存は、アルコール依存症やギャンブル依存症のパートナーが発症する例が知られている。彼らは、依存症者に対して自己犠牲的にふるまいながら、相手をコントロールしようとするので、依存症からの回復はなかなか進まない。


 組織で不正があったときも、共依存者がいると、組織の自浄作用は働かず、不正が発覚したときには手遅れになっていることも少なくない。忖度という病は、こうしたさまざまな症状を呈する。


「忖度」という言葉は、モリカケ問題に端を発し、一気に広がった。「Jアラート」や「ちーがーうーだーろー!」とともに今年の流行語大賞にもノミネートされた。


 モリカケ問題の追及逃れともとられかねない突然の解散の後、自民党が大勝。何事もなかったかのように来年4月の加計学園の獣医学部新設が認可された。


 一強の首相は、国民はすぐに忘れるとタカを括っているのだろうが、果たしてそれでよいのだろうか。「忖度」という言葉をただの流行語で終わらせてはならないと思う。


●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『人間の値打ち』『忖度バカ』。


※週刊ポスト2017年12月15日号

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