元刑事「泥棒を吐かせるにはあめ玉をしゃぶらせないと」

12月9日(日)7時0分 NEWSポストセブン

常習犯の泥棒を吐かせるには?

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 警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、泥棒に自供させる方法を元刑事が詳細に明かす。


 * * *

「調べ室(取調室)を禁煙にする時、真っ先に反対したのは捜査三課ですよ」


 長年、窃盗犯を担当してきた捜査三課の元刑事は、犯人の落とし方について聞くと、そう切り出した。


「常習犯は浮いてる時間が長いほど、ヤマをたくさん持っている。これを1つ1つ吐かせるには、あめ玉をしゃぶらせないとね」


“浮いてる”とは、刑務所から出て外(シャバ)にいること。つまりシャバの空気を吸っている時間が長いほど、常習犯は犯罪件数を重ねているのだそうだ。


「常習犯には『ドロ刑‐警視庁捜査三課−』(日本テレビ系)の大泥棒みたいに、怪盗○○とか、第○号とか呼び名がついてるやつもいてね。ただ名前がつくやつほどなかなか口を割らない。捕まっても逮捕された案件1件だけで終わり。後は知りませんということになると、せっかくのミケタ星がね…」


 1人の泥棒が三桁の数の犯行を自供して上申書を書き、原票が100枚以上になることを「ミケタ星」という。ミケタ星の泥棒を捕まえると、それだけで署は検挙率の月間ノルマ達成、しばらくは左ウチワになれたのだ。


 上申書は犯人が犯罪行為の内容などを書くものだが、書かせたからといって原票が切れるわけではない。原票には、被害に遭った人が最寄りの警察署に被害届を出したことで被害を認知する「認知原票」と、検挙した時に切れる「検挙原票」がある。ミケタ星にはこの検挙原票が必要だ。


 たとえば認知原票を持つA署とは違うB署の刑事が、犯人を逮捕したとする。犯人が自供し上申書を書くと、刑事は現場となった場所を犯人に案内させ、犯行の様子などを説明させるための「引き当たり」を行う。そこで「こいつの犯行に間違いない」となれば、刑事はA署に被害届をくれるよう申し出る。


 ところが自分の署で解決したかったA署は、「なんでそいつの犯行とわかったのか」と尋ねてきて、「はい、そうですか」と簡単には被害届を渡さない。B署が上申書や引き当たりを行い、きちんと確認したことがわかったところで「じゃあしょうがない。持って行っていいよ」ということになる。そこで被害届を受け取って検挙原票を切り、原票として計上して始めて、刑事と署の実績になるのが検挙率の仕組みだ。


「三角のガラスの破り方や雨樋からの侵入の仕方とか、これはあいつの手口だろうというのが、こっちでもわかるんですがね。指紋がない、盗品も残っていない、余罪となる犯行現場がわからないでは、自供させるしかない。吐かせるにはコミュニケーションなんですよ」


 刑事と泥棒が仲良くなるのはさすがにドラマの中だけだが、彼らの生い立ちを聞いて「やっているのは悪いことだが、お前だけが悪いわけじゃないな」と同情したり、言い分を聞いてやったりして心を開かせる。“共感”というあめ玉をしゃぶらせるのだ。


 だが“本物”のあめ玉はもっと効果的だ。



「昔は留置所から調べ室に出しては、たばこを吸わせたり、コーヒーを飲ませたり、チョコや菓子を食べさせたり…。いろいろと問題はありましたけど、そうやってコミュニケーションを取ってね。気を許すようになると、あいつらも『あっ、刑事さん思い出しましたよ』と自供を始めるんですよ」


 留置所の食事は決まっていて、菓子はなし、たばこを吸えるのは朝2本のみ。喫煙者には特に我慢が強いられる。そのため食べ物やたばこは、自供を促す最強のツール。昭和の刑事ドラマで見かけたこんなシーンは、本当に実在していたのだ。


 食事は留置所ごとに違うが、ある署の定番メニューはたとえば、ご飯にきゅうりのキューちゃん、コロッケの弁当に粉末味噌汁。三食いつも揚げ物という署もあれば、朝はあずきマーガリンのコッペパンが定番の署もある。羽田の東京空港警察署は、留置所の食事も機内食を作っている会社が担当しているので、評判がいいらしい。


 金を出せば昼だけ違うモノを食べることができるシステムになっているが、金のない泥棒は、羽振りのいいヤクザがうまそうな弁当や牛乳を取って食べるのを黙って見ているしかない。そうやって見ていれば自分だって、チョコやコーヒーが欲しくなる。


「ちょっと何個か思い出したから、あの刑事さんに言ってください」


 泥棒は留置所の担当にそう伝言し、向こうから声をかけてくるようになる。調べ室に出て菓子やコーヒーにありつきたいのだ。泥棒によっては、「あの刑事さんじゃなきゃ話さない」というやつも出てくる。調べ室に出てくるメリットを感じさせれば、それが自供へとつながる。


「正月は自宅でお節料理を詰めてさせて出勤し、食べさせてたね。正月でも、留置所で出るのはミカンぐらいで。別のモノを少しでも食べさせると涙流してね。その日にしゃべるってわけじゃないけれど、一生懸命思い出すというか。まあ、今やったら違反ですけどね」


 昔は留置所に、半年から8か月、10か月いるのもザラで、寒い冬をしのぐため、留置所に入ってくるやつもいた。そんなやつらも、年末年始には寂しくなりやすい。お節料理はことのほか、泥棒の心に染みたらしい。


 引き当たりの時は車で外に出るから、かつ丼を食べさせたり、甘味を食べさせたり、弁当を買って一緒に桜を見ながら食べたりと、表の空気を吸える楽しみを与える。すると、現場を案内させて説明させているうちに「あっそういえば、もう1つ思い出しました」と話し始めたりするという。


「これが今では、たばこはダメ、コーヒーもダメ。飲み物は水か白湯。お茶は被疑者用に買ってあるお茶のみ。引き当たりでも、警察から弁当を持って行くだけ。自分で買ったペットボトルはダメ。金がかかるのはダメなんですよ。こうなると調べ室に出てきて、自供する楽しみも引き当たりの面白さも何もない。留置所でごろごろしている方が楽ですからね。誰も白状しなくなりますよ。


 まっとうにやっていたら検挙が切れなかったんじゃないかというのも、昔はあるんですよ。でも、それで解決すればいいしね。でたらめに逮捕しているわけじゃないだから」


 あめ玉をしゃぶらせてまで自供させるのは、事件を解決し、被害を受けた人を安心させるためだと、元刑事は締めくくった。


「泥棒は人を殺してるわけじゃないんでね」

NEWSポストセブン

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