「Twitterでの応援は届きました」悲願の初タイトル、木村一基王位が明かした“勝因”

12月10日(火)6時0分 文春オンライン

 プロ棋士の晴れ舞台とは何だろうか。タイトル戦の番勝負がまず浮かぶが、シリーズを制してタイトルを得た結果として、表彰される舞台がある。


「就位式」と呼ばれるイベントがそれだ。これは棋界用語であり、他の業界ではあまり聞く機会がない言葉だと思うが、要するに表彰式と考えていただければいい。タイトル戦の勝者を祝い、たたえる舞台である。



タイトルの証である「就位状」を手にする木村一基王位


関西から駆けつけたという棋士の姿まで


 今年(2019年)の王位戦で、7度目の挑戦にして悲願の初タイトルを獲得した木村一基王位(46)の王位就位式が、12月6日に千代田区の「日比谷松本楼」で行われた。その模様を紹介したい。


 式の開会は正午だが、11時半の時点ですでに多くの人が集まっている。最終的に240名を数えた参加者は、みな木村王位に一言お祝いを言いたかったのだ。競争相手ということもあり、普段の就位式に他の棋士が多く集まる例は珍しいが、この日は右を見ても左を見ても棋士の姿ばかりだった。中には関西から駆けつけたという棋士の姿まであった。



 式の流れとしては、まず主催社の代表挨拶から始まるのが一般的だ。この日は中日新聞社東京本社代表の菅沼堅吾氏が壇上に立ち、祝いの言葉を述べた。


 続けて日本将棋連盟を代表して、佐藤康光会長が壇上に立つ。「今期の王位戦では第1局の前夜祭にも参加して『ここに王位戦で5回挑戦しながら一度も取れなかった人間がいます。縁起でもないから対局者は近づかない方がいいです』と話しました。まあ、私のことなんですけどね」とユーモアを交えた挨拶をして、会場に笑いが起こる。


受け取る王位がビックリする“重さ”


 そのまま佐藤会長から王位就位状の授与が行われ、引き続いて菅沼代表から賞金目録と記念品の贈呈が行われた。記念品は人間国宝の陶芸家・福島善三氏作の「中野月白瓷鉋文壺」(なかのげっぱくじかんなもんつぼ)である。王位就位式の記念品はこのような陶芸品であることが多いが、その重さに、受け取る王位がビックリするというのがここ数年のお約束である。



 続いては来賓祝辞。弁護士であり元名古屋高等検察庁検事長の藤田昇三氏が壇上に立った。若手時代の木村王位が指導対局に訪れた時のことを語り、「緩めていただき、勝つことができました」。


 そしてようやく、お待ちかねの木村王位による謝辞である。木村王位に限らず、まずは棋戦主催社に御礼をいうのが、謝辞の始まりの通例だ。そして本文へ続く。


「今期、挑戦権を取れたのは望外の幸せでした。いつもリーグ残留が一つの目標だったので。挑戦できるとは思っていませんでした。挑戦権を得てまず考えたのは、相手が充実している豊島さんなので『4連敗しないように』ということです。もう一つは『午後に行われる大盤解説会の時に終わっていない』ことです」


(ここで一同笑い)




「ソフトやSNSに救われたという感じがしています」


「1局目は(解説会開始前の)2時半に終わり、やっぱりダメかと。2局目はいい内容の将棋で、時間はクリアしたものの、結果はクリアできず、またダメ。3局目に勝ててようやくホッとしたことを覚えています。その後は何も考えず、一生懸命にやってきました。気づいてみると第7局となっておりました。



 数年前から現状を維持することは現実的に難しくなっています。将棋ソフトを少し研究に取り入れることになり、それが結果として出たのかなあと思います。あと、今期の前夜祭で応援していただく方が大変多いということに気づきました。もちろん豊島さんのファンも多いのですが、私も多くの方から力をいただきました。応援が力になったのは確実です。ツイッターなどSNS上での応援メッセージも届いてきまして、『一度は取らせてやりたい』とか。まあ今後はどうなるかわかりませんけど」


(一同笑い)


「時代に取り残されるかもしれない年齢になりながら、ソフトやSNSに救われたという感じがしています。救われたというくらいですから、これが真の実力を伴ってかどうかは疑わしいばかりですが、来期の挑戦者が決まるまでは半年、浮かれずに精進を重ねたいと思います。本日は誠にありがとうございました」


(一同盛大な拍手)


 式典としての就位式は主役の謝辞で終わるのが通例。ここからは祝賀パーティーへと移る。



日比谷松本楼の名物といえばカレー


 乾杯のため壇上に立ったのは千本英世氏。木村王位後援会長である。乾杯の前のあいさつでやはり若手時代の木村王位について語った。


「さきほど木村王位が指導対局で緩めたという話がありましたが、我々後援会のメンバーは緩めていただいたことがありません」



 乾杯のあとは自由な歓談タイム。普段会う機会のない人と話をするもよし、また記念撮影を求めるのもありだ。立食形式で多くの料理が並んでいるが、明治36年に創業された日比谷松本楼の名物はカレーである。毎年のことながら、多くの関係者が舌鼓を打っていた。


 歓談タイムでも、誰よりも注目を集めるのは当たり前だが木村王位である。多くの参加者が祝意、撮影のために列をなして並んだ。それにすべて応じるのは大変ではあるが、棋士としてもっとも幸せな時間であろう。



 今回の王位就位式は関係者のみによるものだったが、棋戦によっては一般ファンの参加を呼び掛ける就位式もある。棋士と間近で触れあう貴重な機会だ。日本将棋連盟のホームページなどで紹介されているので、興味を覚えられたら、足を運ばれてみてはいかがだろうか。


写真=相崎修司



(相崎 修司)

文春オンライン

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