『あのこと』親友に妊娠を告げる、原作者アニー・エルノーの実体験映す本編シーン

2022年12月12日(月)16時0分 シネマカフェ

『あのこと』© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILM

写真を拡大

本年度ノーベル文学賞を受賞したフランスの作家アニー・エルノーの、若き日の実体験に基づく小説「事件」を映画化した『あのこと』。この度の受賞を記念し、本作の主人公アンヌが親友に妊娠を告げるシーンの本編映像が解禁された。




12月10日にスウェーデンのストックホルムにて行われたノーベル賞授賞式。本作の原作小説「事件」の作者アニー・エルノーが今年の文学賞に選ばれ、彼女も授賞式に参加した。

映画の舞台となる1960年代のフランスでは、法律で人口中絶が禁じられており、何らかの処置を受けた女性と関与した医師や助産婦、さらには助言や斡旋をした者にも懲役と罰金が科されていた。

今回解禁となる映像は、妊娠への焦りと恐怖を1人で抱えきれなくなったアンヌが、親友に事実を告げるシーン。アンヌと同じ学部に通い、ともに勉学に励み、ときには3人でクラブへ夜遊びに出かける、心許せる親友であるエレーヌとブリジットに打ち明けている。

彼女たちの前で膨らんできたお腹を見せると、絶句する2人。「処置する。お願い、誰か探して」と助けを求めるアンヌに、エレーヌは手を差し伸べようとするが、ブリジットは「私たちには関係ない。刑務所に入りたい?」と制する。そして「好きにして。でも巻き込まないで」とアンヌを冷たく見放すも、やるせない表情を見せる、というシーン。

いくら親友であっても、中絶に手を貸せば自身も罪を問われることになってしまう時代。彼女たちもアンヌと同じように夢を持ち、大学に進学した自身の努力を簡単に無駄にするわけにはいかないのだ。望まぬ妊娠によって、友情すらも失い、孤独な状況下におかれるしかないという、女性ゆえに理不尽な待遇をうけるアンヌ。

本作の監督を務めたオードレイ・ディヴァンは、脚本を執筆する前に作者のエルノーと一緒に過ごし、エルノーから当時のこと詳しく聞いたという。ディヴァン監督は、「話をしながらエルノーは目に涙を浮かべていました」とふり返り、「80歳を超え今なお、いえていない彼女の痛みと激しい悲しみをどうにかして世に伝えたいと強く思いました」と語っている。

またエルノー本人は小説の中で「わたしの経験を過去の話として埋もれさせてしまってもよい理由があるとは思えない」と記しており、相当な覚悟を持って「事件」を執筆したことがうかがえる。


アニー・エルノー原作映画『シンプルな情熱』特別上映決定

さらに『あのこと』の公開を記念して、エルノー原作映画『シンプルな情熱』(21)が、Bunkamuraル・シネマでの特別上映が決定。原作はエルノーが1992年に発表した作品で、自身の実体験が赤裸々に綴られ、日本でも人気作家から熱く支持された。

教師のエレーヌには、『若い女』でリュミエール賞有望女優賞を受賞した実力派レティシア・ドッシュ。年下の既婚者アレクサンドルを演じるのは、かつて英国ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルを務め、現在は異端のダンサー、俳優としても活躍するセルゲイ・ポルーニン。

レバノン出身のダニエル・アービッド監督が原作のスピリットを忠実に映画化することに成功。2020年カンヌ国際映画祭に公式選出され絶賛された。

『あのこと』はBunkamura ル・シネマほか全国にて順次公開中。

『シンプルな情熱』は12月16日(金)よりBunkamuraル・シネマにて特別上映。

シネマカフェ

「アニー・エルノー」をもっと詳しく

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ