情報商材販売から特殊詐欺を経て殺人未遂を犯した男の転落

12月14日(土)16時0分 NEWSポストセブン

詐欺犯はそのときどきの時事ネタを絡めた嘘の話を持ち掛けてくる(写真はイメージ)

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 子育て中の親は子供たちに「嘘つきは泥棒の始まり」と言い、平気で嘘をつくようになると泥棒も平気でするようになる、つまり嘘をつくのはよくないと戒める。それを守れず嘘をついて泥棒をするようになっても、人を襲ったり、殺そうとするところまでは至らないのが普通だと思われてきた。犯罪を実行するには高い壁が存在すると言われてきた。ところが最近は、その壁をいとも簡単に乗り越える元・普通の人たちがいる。ライターの森鷹久氏が、情報商材の販売から殺人未遂事件へと駆け抜けてしまった男の転落をたどった。


 *  *  *

「やばい奴だとは思っていましたが、まさかここまで…。奴に何があったのか、地元では誰も知る人はいません」


 タイの拠点から日本国内に特殊詐欺の電話をかけていた数十名の日本人が逮捕された事件で、アジトである部屋の契約に関わっていたとして逮捕された福岡県出身の男(30)が、今度は殺人未遂で逮捕された。昨年11月、仲間と共謀して、大阪市に住む男性の頭をバールで殴り殺害しようとした、というのだ。筆者も特殊詐欺事件の取材を続けており、男の人となりなどを関係者に聞き取っていた最中だったが、まさかと驚くしかなかった。冒頭のコメントは、男を知る福岡在住の知人男性によるもの。知人男性が続ける。


「昔から金にルーズなところはあったが、ひょうきんで後輩の面倒見も良かった。ただ、金でトラブって逃げるように広島あたりに行った後、人が変わったように、友達や後輩を"ビジネスしないか"と頻繁に誘っていた。奴に数十万円払ったとか、中には100万円近く預けた知人もいました。投資だということでしたが、よくわからないままに金を渡したそうです」(知人男性)


 周辺取材で、当時の男の財布が常に数十万の札束でふくれ上がっていたという複数の証言が出てきた。男から"ビジネス"に誘われた人々は、福岡・中洲のキャバクラなどで、一晩で数十万円をポンと支払う男を見て「金持ちだ」とか「俺も成功したい」と思い、金を預けてしまったのだという。男と共に「情報商材ビジネス」を手がけていたという男性・X氏が明かす。


「彼とは投資ビジネスのセミナーで知り合ったと記憶していますが、あまり目立つ人ではありませんでした。実際、ビジネスの方でも実績は芳しくなく、私が彼に紹介したビジネスを巡って、投資した人たちから追われている、というような話も聞きました。正直、情報商材ビジネスそのものは情報弱者を狙い撃ちにしたもので、儲かるのは一部の人たちだけ。私は嫌になってやめましたが、彼も結局借金まみれになり、いつの間にか消えた。でもまさか、殺人未遂とは……」(X氏)


 情報商材ビジネスとは、その名の通り「情報」を販売する商売だ。株などで儲かる方法とか、病気が治る方法、人生で成功する方法などの情報を、現在では主にネットを使って販売するのが主で、そのほとんどが「マルチまがい」のビジネスと見られる。マルチやねずみ講と同様に、自身がその情報を購入し、自身の紹介で同じ商品を他者に販売すれば、売り上げのうち何割かが報酬で入ってくる。他者が別の他者を呼び込めば、自身にもまた何割か入る、などと説明され、いかにも楽して不労所得が得られると勘違いし、今日でも多くの人が足を踏み入れる。相手を騙すつもりで参画する人もいれば、世間知らずから本気で儲かると信じてハマる人だっている。


 男がどうだったかは定かではないが、より手軽に、そして短時間で大金が得られるなどと思い、情報商材ビジネスというグレーな世界に入ったことは間違いない。だから特殊詐欺に関わることは、それほど不思議ではないと、その世界に関わった人はみるのだ。


 たとえば、特殊詐欺のかけ子や受け子をして誰かが逮捕されたとしよう。一般的な周囲の反応は「特殊詐欺で逮捕されるなんて、終わっている」というものに違いない。しかし、筆者が取材してきた感覚では違う。特殊詐欺に関わった人物にはたいてい、過去にも詐欺に関わった経験があり、彼らを知る人たちは新ビジネスに取り組んでいたのかという程度の感想を漏らす。そして、いったん詐欺の実行側にまわると、ずっと何らかの詐欺に携わることが多い。詐欺師は一生詐欺師、だった。ところが、最近ではどうも様子が違う。


 今や特殊詐欺は、凶悪犯罪への入り口だ。詐欺を経て、違うジャンルのさらに凶悪な犯罪者へと成り果てる。その凶悪犯罪者へと転がってしまうのは、もともと犯罪そのものと縁が薄かった一般人が多い。


 かつて、特殊詐欺は暴力団関係者や、それに近い半グレによって行われていたが、近年では、SNSなどを使って一般人が関わるようになった。もっともそれが顕著だったのは、昨年、東京・江東区で発生した「アポ電強殺事件」だ。特殊詐欺の手法を用い、高齢者宅や留守宅を狙った強盗事件。もはやなんでも有りになったとかと、世間も、司法当局でさえ驚いた。


「行くとこまで行った感じですね。情報商材ビジネスをしていると、人を騙す感覚が薄れます。こうなると、次は詐欺をやっても平気になる、詐欺の次は空き巣だってやるでしょう、その次は…とうことでしょうか」(X氏)


 逮捕された男は、以前から周囲に「暴力団と仲が良い」などと吹聴していたようだが、実際には根は明るいが全てがデタラメ、というワルぶって見せるのが好きなだけのお調子者だった。金に困り情報商材というグレービジネスに一縷の望みを見たがやはり失敗、その時点で相当額の借金も抱えていたとみられる。そうして、特殊詐欺の世界に足を踏み入れ、殺人未遂事件まで起こすほどに堕ちた。


 それがどんなに小さく細いものであっても、悪の道に足を踏み入れると、必ず、誰でも、自身が破滅するということを覚えておくべきだろう。

NEWSポストセブン

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