佐久間良子の覚悟、一人の人生を演じるなら姿、声も変える

12月18日(火)16時0分 NEWSポストセブン

佐久間良子の「覚悟」とは?

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優・佐久間良子が、映画と舞台の違い、十年以上にわたって再演を重ねた舞台『唐人お吉』での思い出について語った言葉をお届けする。


 * * *

 一九六三年の映画『五番町夕霧楼』で役者としての評価を高めた佐久間良子は、その翌年、同じく水上勉原作の『越後つついし親不知』(今井正監督)に主演した。


「今井監督は容赦ない方で、もう大変でした。振り返ってみても、肉体的にあんなにつらい撮影は他にありません。特に大変だったのが最後に田んぼで殺される場面です。何回も撮り直しで一週間かかったの。


 撮影は人に見られないよう新潟の糸魚川の山中で行われたのですが、雪深い所で。小沢昭一さんの演じる夫に田んぼに頭をつけられる場面でした。私は田舎娘のズングリした感じを出すために綿入れの上に絣を着ていたのですが、田んぼの水が綿に染みると重くて立ち上がれないのです。しかも山沿いなのですぐお天気が曇って天気待ちになるので、泥だらけのまま待たされました。何回演じても『駄目駄目、違う』と言われて、それが一週間。過酷でした」


 その後、佐久間はそれまで所属していた東映を離れ、六九年には東宝の菊田一夫が演出する三島由紀夫原作『春の雪』で舞台に初出演している。



「東映はヤクザ映画が増え出して、私の役ではないような映画が与えられていると思えて出演をお断りしていました。ちょうどその時期に東宝からお話がありまして。


 ただ、それまでは撮影の連続で余裕がなくて、プライベートの時間すらない状況でしたから、お芝居を観たことがありませんでした。舞台のことは全く分かりません。それでも菊田先生から『ぜひ』とのお誘いを受け、出ることにしました。


 舞台には映画と違う緊張感がありました。映画はワンカットずつ撮っていくわけですが、舞台は三時間なら三時間、お客様が生でずっと観ているわけですから。それに相手の俳優さんの調子で息も毎日違います。病気もできない。これは映画とは違う責任感ですね」


 八三年に始まる石井ふく子演出の舞台『唐人お吉』は、十年以上にわたり再演を重ねる人気作品となった。


「あの時は十代から四十代後半までを演じました。そうなると、最終幕の声は最初の若い時のと全く違わないといけません。中年になると酒焼けするわけですから。


 最終幕では別の人が声をあてているんじゃないかと思った人もいたくらい、声を変えました。技術じゃなくて、自然とできるんです。持って生まれた声帯が丈夫で、発声練習もしたことがないくらいで。


 一人の人生を演じるのなら、やはり姿だけでなく声から何から全てを変えていかなければ演じたことにはならないと思いました。甘えることはできないと思って。


 声を落とすだけ落として最終幕を演じて、それが終わると一時間ちょっとでまた次の回があるので、十代の声に戻さなければなりません。ですから、休憩時間の間にメイクをしながら、自分で声帯を調整していました。そうやって自分自身を凄くいじめながら演じています」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。


■撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2018年12月21日号

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