話題作『人間仮免中』から4年── 『人間仮免中つづき』異端の表現者・卯月妙子が描き出す“究極の愛の姿”とは?

12月20日(火)13時0分 おたぽる

『人間仮免中つづき』(小学館)

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 本当に強い人というのはどんな人なのだろう。時々そんなことを考える。

 一般的には、健康な心と体を持ち、困難や不幸にも負けず、自分の人生を切り開いていく、そんな人が想像されるだろう。

 もちろん、そんな“強さ”も否定するつもりはない。

 しかし、卯月妙子の壮絶な人生に触れると、本当にそれだけが“強い”ということなのだろうかと考えてしまう。

 12月12日に発売された卯月妙子の漫画『人間仮免中つづき』(小学館)が話題だ。

 作者であり、この作品の主人公でもある卯月妙子は、1971年生まれ、岩手県宮古市の出身。20才で結婚後、夫の借金返済のためAVの世界に入り、いわゆる“企画もの”での過激な作品で人気を集めた。

 それと平行してコミックエッセイという形でその実情を描いた漫画を発表し、マニアの間で話題となった。

 しかし、私生活では、夫が投身自殺、意識が戻らないまま介護を続けるも、1年半後に他界。自身も若くから患っていた統合失調症に苦しめられ、何度も自殺未遂と入退院を繰り返す。演劇などにも取り組み、表現者としての活動の幅を広げたが、その後ストリップをやっていた時に、舞台上で自らの首を切り、救急車で搬送、3日間意識不明になるも一命をとりとめるという経験もしている。

 2012年に発売された、『人間仮免中』(イースト・プレス)では、25歳年上の日本人・ボビーとの恋愛、そして、歩道橋から投身自殺を図り、顔面を粉砕骨折、右目を失明するという状況の中、襲いかかる幻覚と幻聴、退院後の生活などを赤裸々に綴り、『本の雑誌』(本の雑誌社)が選ぶ2012年度ベストテン第1位、「THE BEST MANGA 2013このマンガを読め!」第2位などに選ばれ、大きな反響を呼んだ。

 その本から4年半を経て、その後日談が描かれたのが、この『人間仮免中つづき』だ。

 卯月妙子は、北海道の障害者施設に入ることになり、ボビーとは5年間離れて暮らしたという。そして5年後、2人が再会し、北海道で一緒に暮らし始めたところから物語ははじまる。

 ボビーは既に60代後半、卯月も40代。普通のカップルであれば、倦怠期というか、落ち着いた関係になりがちな年代である。

 しかし、この2人の愛情は、全く衰えることがない。再会した駅の改札で抱き合い、涙を流し、お互いが生きていることを喜び合うのだ。

 その後の2人の生活も、決して楽なものではない。悪化する卯月の症状と、迫り来るボビーの老い。元々気性の激しい2人は時に激しくぶつかり合う。しかし、その根底には、お互いの覚悟と、確固たる愛情が流れている。

 ボビーが生きていることが心の支えである卯月と、「俺が死んでも生き続けろ」と言うボビー。寿命と病との狭間にあって、不思議と2人は幸せなのだろうと感じさせられる。

 何より特徴的なのは、この漫画の持つ明るさだ。

 冷静に考えれば、これほど暗く陰鬱な状況などそうそうあり得ないことなのに、彼女のタッチはどこまでも明るく、カラッとしている。

 以前ベストセラーとなった『失踪日記』(イースト・プレス)で、作者の吾妻ひでおが語っていたように、「リアルだと描くのが辛いし暗くなる」ということなのだろう。物語は楽しんで読んで、そこに隠されている現実の重みは、読んでいる人それぞれが感じればよいことだ。

 そうして感じること。もしかしたら、これこそが“強さ”なんじなゃないだろうか。何度も自殺未遂している人を捕まえて“強さ”というのはおかしいかもしれないが、何度となく自殺しようとしている人は、その同じ数だけその死を乗り越えてきているのだ。そして、辛い日常を明るく、ギャグにしながら描き出す。これこそが彼女の持っている何よりの才能ではないだろうか。

 本書の最後では、3.11のことが描かれている。最初に書いたとおり、津波の被害を受けた宮古市は卯月妙子の故郷である。その日の出来事は、彼女の中で大きなトラウマになっているという。ここでもまた、生と死について考えさせられる。たやすく「生きていることは尊い」などと言うつもりはない。それでも、少なくとも死なないということは大事だ。それだけは忘れずにいなければならない。

 それにしても、卯月妙子の作品は、なぜこんなに人の気持ちを揺さぶるのか。それは多分、彼女が誰よりも強い思いを持っているからだろう。

 故郷への思い、家族への思い、友人への思い、そしてボビーへの思い。「過ぎたるは及ばざるが如し」というように、思いが強すぎることは、逆に脆いことなかもしれない。でも、そんな脆さがあったとしても、強い思いを持って生きることは素敵なことだ。

 とても無様で、かっこ悪い生き方だったとしても、その命はきらめきを増しているように思うから。

 作中、ボビーは70歳の誕生日を迎える。

 激しかった2人の生活も、穏やかさが増していくのではないかと思われる。“夫婦”とか“介護”とか、難しい問題だけど、この2人を見ていると、本当に愛があればなんとかなるんじゃないかと思えてくる。

 愛があれば、生き続けていけるんじゃないかと思えてくる。
(文=プレヤード)

おたぽる

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