佐藤優氏「在特会は日本のナショナリズム毒性の高さを証明」

12月20日(水)7時0分 NEWSポストセブン

佐藤優氏(左)と片山杜秀氏

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 2006年に発足した第一次安倍政権。その年、教育基本法が改正され「愛国心」という言葉が盛り込まれた。同じ年、在特会(在日特権を許さない市民の会)が設立されている。そこから現代に至る「日本のリスク」とは──。作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を論じた。


片山:2006年9月には第一次安倍政権が発足しました。安倍晋三がビジョンを持っているとは思えませんが、彼は「美しい国」というある種の到達点を示した。


佐藤:安倍さんは「美しい国」という目標を設定して、その実現を図ろうとした。ストレートな目的論です。ただし「美しい国」というフレーズを唱えたからと言って、理想的な国家ができるわけではありません。2005年に作られた自民党初の新憲法草案に「自衛軍」と明記されましたが、紙の上で自衛隊が「軍」に変わろうが実態は何も変わらない。それと同じです。


片山:そう。他国を侵略するわけではないので「自衛軍」はただのこだわりに過ぎない。その文脈で、安倍政権は12月に教育基本法を改正して「愛国心」という言葉を盛り込んだ。「日本の誇り」や「強い日本」を取り戻すべきだという空気が一気に強まっていきました。そして2007年1月に防衛省を発足させる。


佐藤:2006年のベストセラーである『国家の品格』【※注1】がその風潮を端的にあらわしています。論理よりも情緒を重んじる日本人らしさの大切さを訴えて200万部以上を売り上げた。


【※注1/2005年11月刊行。著者は数学者の藤原正彦氏。いまの日本には、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神が必要だと説いた】


片山:同時に排外主義も台頭してきました。在特会の設立が教育基本法改正と同じ2006年12月だったのも偶然ではないでしょう。


佐藤:在特会の登場まで日本にはやわなナショナリズムしか存在しないと考えられていました。けれど在特会は日本のナショナリズムの毒性が極めて高いことを証明した。彼らは特異な存在ではありません。保守のメインストリームともそれほど離れていないんです。


片山:おっしゃる通りです。日本のナショナリズムの根幹は、万世一系の神話に基づく国家の伝統的構造上、どうしても天皇の血筋に頼らざるをえない。そこから、人種、血統、民族の観念が他国の右翼以上に強固に形成されがちです。多民族を抱擁する伝統もあるはずなのですが、血統の純粋性の理屈が勝ってしまう。“五族協和”より“大和魂”なのです。在特会は、生まれるべくして生まれたとも言えます。


佐藤:私は在特会の暴力をこう考えているんです。戦前はテロリズムがひんぱんに起きたように暴力レベルが高い社会だった。それに比べて現代の暴力のレベルは極めて低い。だから在特会クラスでも十分に脅威になる。


片山:暴力の経験がない人が突然殴られたら驚いて卒倒してしまうのと同じです。でも暴力に自覚を持っているうちはまだいい。本当に怖いのは無自覚です。


佐藤:その意味で怖さを感じたのが、前原誠司さんが民進党代表時に訴えていた「All for All(みんながみんなのために)」【※注2】です。すべての人に例外なく負担を強いるという方法は、ソフトファシズムに繋がる危険性を秘めている。前原さんがその危険を認識していたようには思えない。その後、民進党が瓦解してそれどころではなくなりましたが。


【※注2/前原氏の政策ブレーン、経済学者の井手英策氏が考案した政治スローガン。公的サービスを充実し、格差是正のための増税の必要性を訴える】


片山:無自覚なのは安倍政権も同じかもしれません。2007年5月に国民投票法を成立させました。しかし国民投票には大きなリスクがともないます。


佐藤:2016年にイギリスで行われたEU離脱国民投票がすべてを物語っています。


片山:イギリスのEU離脱は、日本でいえば日米安保破棄に相当するでしょうか。小泉純一郎氏のような劇場型の政治家が「日米安保を国民投票にかける!」と煽れば、安保破棄ですら現実味を帯びてくる。


佐藤:あるいは安倍さんが自衛隊を明文化する憲法改正の国民投票を行ったとします。投票直前に「このハゲー!」とわめいた豊田真由子のようなスキャンダルが発覚し、メディアが連日取り上げたら憲法改正の中身は二の次になります。


片山:イデオロギーや改憲の善し悪しではなく、反安倍の逆風で改正反対が一気に増えるでしょうね。


佐藤:反対が上回れば、自衛隊は違憲になり、国家制度の根本が揺らいで大混乱に陥ってしまう。我々はリスクを背負っていることを自覚する必要がある。


片山:1人の議員の常軌を逸した行動が50年後、100年後の国家の行く末を決めてしまうかもしれない。2007年7月に行われた参議院選挙も閣僚の不祥事が続発して、自民党は歴史的な惨敗を喫しました【※注3】。


【※注3/年金問題や閣僚の不祥事が重なり、自民党が歴史的惨敗を喫した選挙。1955年の結党以来守り続けた参議院第1党を民主党に譲った。第一次安倍政権退陣の引き金に】


佐藤:政治とカネの問題で、農水相の松岡利勝さんが自殺し、後任の赤城徳彦さんも絆創膏を貼って釈明会見をした。久間章生防衛相の「原爆しょうがない」という発言もあった。


片山:中間団体(労組や職能団体等)が弱ったせいで、政党の固定的支持層というものが見えなくなった。何かをきっかけに浮動票が地滑り的に動いて、歴史的な圧勝と惨敗が繰り返される。不祥事やスキャンダルがストレートに選挙の結果にあらわれる。


佐藤:今年の都議選では自民党が惨敗して、都民ファーストが躍進しました。でも都議選の真の勝者は公明党です。小池さんを支持することで都議会与党の座を守り、候補者全員が当選した。しかもこの24年間で、都議選で1人の落選者も出していないのです。


片山:公明党の支持母体である創価学会の力が証明された選挙でしたね。この社会状況で、票が計算できる組織力は驚異です。


佐藤:アトム化した社会だからこそ、中間団体である創価学会が力を示せた。今年の都議選は、平成に入ってから大きく変容した日本の政治文化を、ひいては現代社会の問題点をあらわにしたのです。


●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。


●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。


※SAPIO 2017年11・12月号

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