アーモンドアイ惨敗! 有馬記念、中山に散ったハズレ馬券にはドラマが詰まっていた

12月23日(月)17時30分 文春オンライン

“有馬記念”


 その言葉の持つ響きに、私を含む競馬ファンの多くはワクワクとソワソワが入り混じったような気持ちを抱く。競馬ファンでなくとも、「有馬記念という言葉は聞いたことがある」だとか、「年末ジャンボ宝くじを買うような気分で有馬記念の馬券を手にしたことがある」という人は少なくないだろう。



1R発走前から競馬場には多くの人が詰めかけた ©まこと


 毎年、世界で1、2位を競う売上(1レースあたり)を記録するレースで、今年の売上は468億8971万4600円。中山競馬場には90,374もの人が詰め掛け、熱狂した。とにかく有馬記念は大レース。新年へと向かう盛り上がりを借りた年に一度のお祭りなのだ。


 言わずもがな、競馬ファンは張り切る。一年の間に開催されたさまざまなレースを振り返りながら、年の瀬の大一番で本命を打つ馬について考えを巡らせ、当日を迎える。もちろん、年の瀬の浮つきに乗じて「最後くらい夢を見てやるか」と、大金を張る人も少なくない。


圧巻の競馬でファンの度肝を抜いたリスグラシュー


 史上最多、G1馬11頭が出走することとなった今年の有馬記念で人気を集めたのはアーモンドアイ。芝2400mの世界レコードを保有し、次元の違う走りを何度も見せてきた彼女が単勝1.5倍の支持を集めた……ものの、結果は9着。有馬記念を制したのは、今回を引退レースと定めていたリスグラシューだった。



1着:3枠6番 リスグラシュー

2着:5枠10番 サートゥルナーリア

3着:4枠7番 ワールドプレミア


 2着に入線したサートゥルナーリアにつけた着差は5馬身。騎乗したレーン騎手は「ディープインパクト、キタサンブラックがいても勝てた」「自分が騎乗した馬では一番。世界一になれる可能性があった」と、破顔した。テイエムオペラオーやディープインパクトなど、名馬が名を連ねる宝塚記念・有馬記念の両タイトル優勝馬にリスグラシューも仲間入り。サートゥルナーリアに騎乗していたスミヨン騎手も口にしたように、今回の有馬記念のリスグラシューは本当に「強すぎた」。圧巻の内容で自身の花道を飾った。




 それだけに、レース後の競馬場内は、目の前の現実を受け入れられず、答えを求めるかのように周りを見回す人たちが多く見られた。無意識に胸を突き出して歩く人もいるが、多くの人は見た目にはっきりと唾を飲み込んでいた。


 そんな人々が帰路についたあとに残されるのは床に捨て去られたマークシート、そしてハズレ馬券。有馬記念当日もまた、日常から切り離された空間で、夢を見て破れた跡があった。ハズレ馬券が、その人の一抹の希望、そして絶望が落ちていた。


 それを手に取り、眺める。興味深いものが多くある。この人は一体どんな気持ちで馬券を買って、どんな気持ちでレースを眺めていたのだろうかと類推する……。


『流血の馬券』


 早速、2019年12月22日に開催された有馬記念で、中山競馬場に捨て去られていた馬券を観察していきたい。



 スタンド2階ラグジュアリートイレ前で発見した馬券である。アーモンドアイ絡みの三連複を90,000円分購入したこの馬券が見込める最高の払戻額は496,000円。年末の祭典に実にふさわしい大胆な賭け方といえる。しかし、注目すべきはそこではない。というよりも、否が応でも視線が向かうのは馬券に残された血(と思しきもの)の痕だ。


 この血痕が、つーと流れ落ちた鼻血なのか、唇を噛み締めて切れたものなのか、単にかさぶたが剥がれたものなのか。どのようにして流れた血なのかはわからないものの、購入者の想いの強さが残した痕跡であることは確かである。


 熱狂、興奮、焦り、自責、後悔……さまざまな情念が一枚の馬券から漂ってくる。


『相手だけ。とにかく相手だけ』



 オッズが示すとおり、レース前は「アーモンドアイがよもや馬券圏外にはなるまい」と、多くの人が考えていた。それだけに、競馬場で観察した馬券も、そのほとんどがアーモンドアイ絡みの馬券。ここで紹介する馬券もアーモンドアイを中心に購入しているものだ。しかし、この馬券の購入者は、とりわけアーモンドアイの勝利を信じて疑っていなかったように思われる。


 馬券左上に残された鉛筆書きをご覧いただきたい。観察してみると「レイ」「リス」「スワ」「フィ」とある。つまり、アーモンドアイ以外に購入した馬の名前を書き入れているのだ。もちろん、自分がどの馬を買ったのか、わかりやすくするために、馬名を書き記しているのかもしれない。さりとて、アーモンドアイの勝利だけは揺るがないものだという強い確信が窺い知れることは、疑いようがない。「とにかく相手だけ。相手を間違わないように」そんな思いが鉛筆書きから感じられる味わい深い馬券といえるのではないだろうか。



『タバコの火を押し付けて』



 以前日本ダービーのハズレ馬券を紹介した際にも取り上げたように、喫煙所に捨て去られた馬券の一部はこのように焦げ付いた状態で発見される。しかし、今回の馬券はより強い憤りが感じられた。というのも、今回の馬券は明確な意思を持って馬番号の印字された箇所に火を押し付けているのだ。焦げつき方を見ても、ちょんと当てただけではなく、ジワジワと炙るようにして馬番号を見えなくしている。よほど悔しかったのだろうか。


 ちなみに、角度を微妙に変えながら見てみると「11」という数字が辛うじて見えた。相手に買っていた馬は、スタートで後手を踏んでしまったにもかかわらず5着に入線したキセキだった。


『勝負師の馬券』



 最終レースも終わり、人もまばらになっていた芝スタンド脇。雨で濡れ、雑踏により踏み固められたその馬券を観察した瞬間、思わず唸ってしまった。魂の込められた三連単一点勝負、6→7→10の買い目に5,000円。


 惜しい。あまりにも惜しい。冒頭でも紹介したとおり、このレースは6→10→7で決着したのだ。競馬において「たられば」は禁物だが、もしも三連複にしていたら払い戻しは537,500円……もしも2着と3着を逆にマークしていれば2,893,000円……もしも買い目通りに決着していれば3,625,500円……最後の100m、7番ワールドプレミアが10番サートゥルナーリアを剛脚で追い詰めていただけに、その悔しさは推して知るべしだ。


 捨て去られていた跡から察するに、これ以外の馬券を購入していたことが考えづらいが、なんとかこの馬券の購入者が三連複を抑えていてほしい。絶望し、無気力に膝から崩れ落ちる姿が容易に想像できてしまっただけに、そう思わずにはいられない勝負師の馬券だ。


そしてまた競馬は続く


 こうして各々が夢を託した年末の祭典も終わり、今年の競馬も一段落。というわけで、皆さまどうか良いお年をお迎えください……とはいかせてくれないのがJRAの粋な(?)計らい。今年は年内にもう1日開催日が用意されている。しかもG1競走ホープフルステークス。有馬記念で今年の競馬が終わりを迎えるというような情緒こそないものの、気持ちよく新年を迎えるために、もうひと頑張りといこう。


 有馬記念はなんとか的中したものの、その他のレースで散々痛い目を見た私も、令和元年有終の美を飾るべく、場外馬券場へと向かう。来週も駄目なら、また来週。それでも駄目なら、そのまた来週……そこに競馬があるかぎり、ほどよく馬券を楽しみ続ける。



(大小田 陽平)

文春オンライン

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