一貫性なく支離滅裂、トランプの戦略なき中東政策

1月11日(土)6時0分 JBpress

1月8日、イランからの報復を受け、ホワイトハウスで声明を発表するトランプ大統領(提供:White House/ZUMA Press/アフロ)

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(舛添 要一:国際政治学者)

 1月3日、トランプ大統領の指示を受けた米軍は、イラクのバグダッドで、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した。ソレイマニは、海外での特殊任務を担当し、アメリカで言えばCIA長官、中東軍司令官、大統領特使を兼任するような大物軍人であり、国民的英雄である。

 イランは復讐することを明言し、7日の深夜、イラクのイラク西部にあるアル・アサド基地など2カ所を10発以上の弾道ミサイルで攻撃した。その結果、緊張が一気に高まり、原油価格は高騰し、世界で株価が下落するなど大きな影響がでた。


「大統領再選」という最大の目的が数多の判断ミスを生む原因に

 イランの最高指導者ハメネイ師は、昨夜の米軍基地へのミサイル攻撃は、ほんの平手打ちにすぎないと警告したが、トランプ大統領は、「すべて順調だ。被害状況を確認中。米軍は世界最強だ。明日の朝、声明を出す」とツイートして、とりあえずは様子見の姿勢を示した。

 そして、8日、トランプ大統領は、「ミサイル攻撃によって米兵に犠牲は出ていない、最小限の被害だ」と述べ、軍事的な報復はしないと演説した。その上で、経済制裁を強化する方針を示した。その結果、株式市場や原油相場も好転した。

 しかし、アメリカとイランとの対立は解消しておらず、今後の展開には注意する必要がある。最大の問題は、トランプの中東政策の目標が不明確であること、そして政策に一貫性がないことである。それは、北朝鮮に対する政策についても同様である。

 彼の唯一の目標は、次期大統領選挙で再選されることであり、それが数々の政策ミスを生み、多くの犠牲者を出している。


オバマ路線の否定に執着

 今回の米・イラン対立の発端は、2018年5月にアメリカがイランとの核合意から離脱したことにある。なぜトランプはその決定を下したのか。それは、前任者のオバマ大統領の政策だからである。自分はオバマとは違うということを見せつけ、政策の新しさを有権者に印象づけるためである。地球温暖化対策を盛り込んだパリ協定や自由貿易を推進する目的のTPPから一方的に離脱したのもそうである。

 最大のCO2排出国アメリカがパリ協定に参加しないことは、世界の地球温暖化対策を遅延させ、深刻な事態をもたらしつつある。また、アメリカ第一主義を掲げて保護貿易を進め、米中貿易摩擦などを引き起こして世界経済を減速させている。

 そして、イランをはじめとする中東諸国に対する政策も、再選という目的に適合することのみを考えたものである。たとえば、イスラエルやパレスチナに関する政策がそうである。

 エルサレムをイスラエルの首都と定めたり、占領地ヨルダン川西岸へのユダヤ人の入植を認めたり(これは国際法違反である)するなど、国際社会の反発を買い、パレスチナ和平を危うくする政策を展開している。トランプの狙いは、保守的な福音派キリスト教徒の支持を集めることあり、まさに選挙戦術そのものである。

 昨年の4月9日にはイスラエルで総選挙が行われたが、盟友ネタニヤフ首相の政党リクードを勝たせるために、その前日にトランプは、殺害されたソレイマニが指揮するイランの革命防衛隊をテロ組織に指定している。


イスラエルに核武装を認め、イランには認めないという「ダブルスタンダード」

 世界の核兵器をどう管理するかという問題について、トランプの政策が問題なのは、第一にダブルスタンダードであること、第二に非核化と核管理の区別が明確ではないことである。

 第二次大戦後の世界は、広島、長崎に原爆を投下されて敗北した日本をはじめ、ドイツ、イタリアなどの敗戦国は、戦勝国によって核兵器の保有を禁じられた。戦勝国であり、かつ国連安全保障理事会の常任理事国である米、英、仏、露、中国のみが核保有の権利を持つ核拡散防止条約(NPT)が締結された。しかし、これに反発するインドやパキスタンはNPTに参加せず、イスラエルもまた核兵器を保有している。

 イランにしてみれば、イスラエルの核武装は認めながら、イランには許さないというのはダブルスタンダードである。そこで、イランも秘かに核開発を始めたが、そのことが2002年に明らかになり、その開発を中止させるべく、国連の経済制裁が課されたのである。

 その上で、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイランとの間で交渉が進められ、2015年7月に核合意が成立した。

 イランは、非核化ではないものの、高濃縮ウランや兵器用プルトニウムは15年間生産しないことなど、核開発の大幅制限を受け入れた。そして、その見返りとして、制裁は解除され、原油や天然ガスの輸出を認められた。その結果、経済も上向きとなり、多くの日本企業も進出した。

 イランは、この核合意をきちんと守り、IAEA(国際原子力機関)もそのことを視察で毎回確認している。ところが、トランプ大統領は、15年という期限では不十分だとして、核合意から離脱し、原油、民間航空機、自動車部品などの輸出入禁止、イラン中央銀行との取引禁止などの制裁を再開したのである。

 その結果、イラン経済は壊滅的な影響を受け、国民の日々の生活は厳しいものとなっていった。そこでロウハニ政権は、1年間の辛抱の末、昨年5月に、低濃縮ウランと重水炉で使用する重水の保有量制限(前者が300トン、後者が130トン)を遵守しないとして、揺さぶりをかけたのである。

 トランプ政権のこの強硬政策を決めるのに大きな役割を果たしたのが、当時のボルトン補佐官である。完全な非核化、そして体制の転覆が彼の政策である。しかし、それにイランが応じるわけがない。

 北朝鮮に対する政策も全く同じで、単にICBMのみならず、全ての核兵器を破棄しないかぎり、制裁の解除には応じないという姿勢である。そのため、金正恩との交渉が行き詰まってしまった。

 このような事情から、トランプは、昨年9月にボルトンを補佐官職から解任したのである。そこで、イランや北朝鮮に対して、少し穏健な政策に転換することが期待されたのである。


自分の再選のために世界情勢を不安定化させる愚

 非核化は理想であるが、そこに至る過程で、核の国際管理ができれば、核戦争の防止という点では、同じ効果がある。イランをインドやパキスタンのように核武装国に追いやるか、核開発能力は温存させても核兵器は作らせないという国際的合意を形成するか、後者もまた意味のある選択肢なのである。

「0か100か」という極端な選択肢では、相手のある外交交渉は上手くいかない。世界の安全に寄与できれば、適切な核管理でも歓迎するという柔軟な姿勢が必要である。トランプには、非核化と核管理の区別がよく理解できていないようだ。

 ソレイマニ司令官殺害という決定は、ボルトン流の強硬姿勢に戻ることを意味し、政策の一貫性が全く見られないのである。そのボルトンは、今回の司令官殺害をイランの今の体制を転覆させる第一歩だと述べて歓迎している。

 そもそも、トランプは中東におけるアメリカのプレゼンスの重要性を理解していないようである。シリアから米軍を撤退させる命令を出して、IS掃討作戦で協力したクルド人を突き放してしまった。また、中村哲医師が殺害されたアフガニスタンでは、タリバンなどの反政府武装組織が活動中で治安が改善されていないが、トランプはタリバンと交渉して1万4000人いる駐留米兵を8400人にまで削減しようと目論んでいる。

 これらは、米兵を危険な地域から帰国させれば、家族も喜ぶし、軍事費も節約できるという考えから出た政策であり、すべて再選戦略の一環である。ところが、ソレイマニ司令官殺害の結果、中東に3500人の米兵を増派せざるをえなくなっている。

 まさに一貫性のない支離滅裂な政策だという他はない。イランをどうするのか、宗教指導者が支配する現体制の転覆政策目標なのか、それすら明確ではないまま、再選のためなら何でもあれという政策では、世界の平和と繁栄は確立できないであろう。

筆者:舛添 要一

JBpress

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