金正恩命令で「忍び逢い」を摘発された男女の悲惨な運命

2020年1月14日(火)5時52分 デイリーNKジャパン

北朝鮮の兵役は世界最長と言われる10年。一時は11年に伸ばされたが、2014年に10年に戻された。それでも、極端に長いことに変わりない。


まさに青春のすべてを軍に捧げなければならないわけだが、その期間中は結婚はもちろん、恋愛すら禁じられており、発覚すれば鑑定除隊(不名誉除隊)を強いられる。そうなれば、出世の道が閉ざされるばかりか、社会的に様々な不利益を被る。


咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、まさにそんな不幸な目に遭ってしまった男性の話を伝えた。


咸鏡北道の清津(チョンジン)出身のある朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士Aさんは、韓国との軍事境界線にほど近い黄海南道(ファンヘナムド)の軍部隊で長年に渡って勤務してきた。


軍に入って8年で、朝鮮労働党に入党する機会を得た。除隊後に社会に戻ってから、幹部へと昇進するために欠かせないステップだ。


入党には、入党請願書と党員2人の入党保証書が必要なことから、部隊や職場の党委員会の実力者の推薦を得なければならず、そのためには様々な形のワイロが必要になる。軍の女性兵士などは、入党と引き換えに「マダラス」と呼ばれる性上納を強いられることすらある。


Aさんの年齢は詳らかでないが、兵役の途中で部隊の近所に住む女性と知り合い、付き合うようになり、事実婚の関係となった。女性の家に入り浸り、子どもをもうけた。


そんな中、金正恩党委員長は昨年3月に開かれた朝鮮人民軍第5回中隊長、中隊政治指導員大会で、刃のように硬い軍紀を徹底して確立し、組織性と規律性を強化せよとの指示を下した。それをきっかけに、綱紀粛正と不正行為の調査、摘発が行われるようになった。


この兵士は不運なことに、取り締まりで内縁の妻がいることが発覚してしまった。そして、除隊を2ヶ月後に控えた昨年10月に出党、つまり党からの除籍処分を受けてしまったのだ。



それ以前は慣行として黙認されてきた、除隊を前にした兵士の恋愛、同棲についても取り締まりの対象となった。さらに、規律を破れば10年の苦労も水の泡となることを思い知らせるために、彼が見せしめにされてしまったようなのだ。


情報筋は「最高司令官(金正恩氏)の方針に基づく出党なので、不満を表すこともできないまま除隊させられた」と伝えた。


両親や近所の人に合わせる顔がなかったのか、Aさんは除隊させられてから2ヶ月経った昨年12月中旬になって故郷のウナム農場に戻った。


農場管理委員会は、Aさんが帰郷すれば幹部に登用することを計画していたが、すべてがおじゃんになってしまった。農場の人々は失望を隠せず、家族や妻子も針のむしろに座らされた状態で、毎日ため息を付きながら暮らしているという。


北朝鮮の兵役が極端に長いのは、様々な国家的な建設事業に投入する人員を確保しておきたいというのが大きな理由だ。ただ、配給システムがまともに稼働していないことから、多くの兵士が飢えに苦しんでいる。家族からの仕送りや差し入れを受け取るか、商売をしたり、権限を利用してワイロを受け取るなどしない限りは食べていけない。中には、農場や民家を襲撃する者すらいるほどだ。


まともな待遇をせずして、兵士に規律を守れと迫る北朝鮮の軍隊。これでは軍紀も士気もあったものではない。

デイリーNKジャパン

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